メディアグランプリ

気持ちがふと温かくなる、そんなお2人の結婚式は過去の積み重ねがあればこそ。10年の軌跡


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
遠距離恋愛といえば、どうしてもケンカは増えるものだ。
「今の関係が、これからも続くとは限らないよね。私たち学生の時みたいに、ずっとこのまま上手くいくと思えない」
彼女の声は、どこか遠くて冷たかった。
彼もまた「なかなか会えないし。また、時間にゆとりが出来たら連絡する」
と少し切れ気味に、これまでのぎくしゃくした感じの積み重ねから、とてもイヤな感じになってサッサと電話を切った。
その日以来、だんだんお互いがお互いを遠ざけていき、どちらからともなく自然と気持ちが離れてしまい、2人は別れてしまった。
 
別れた日から、3年。
お2人はまもなく、29歳になる。その直前の5月5日。
昨今の気温の上昇で、夏の暑さに迫る勢いの日。幸せいっぱいのお2人は、新しい家族として、スタートしていく。
 
ちょうど、1年前の5月5日。
「来年の5月5日に結婚式を挙げたいんです。入籍も同じ日にしようと思って」
と彼女が言った。
初めて出会った記念日5月5日に! と、どんな事もお2人はこの記念日に、こだわっていた。
 
お2人の出会いは19歳、大学時代のゼミだった。
ゼミの以外の時でも、仲間でキャンプに出かけたり、バーベキューをしたり、いつもみんなで仲良くしていた。
とくに、アウトドアが好きな2人は、ゼミの授業よりもむしろ自然の中での会話の方がずっと心地よく感じられ、お互いに急速に惹かれあった。そして、休日のたびに車を走らせて、海へ、山へ、時には道に迷いながらも、彼女がいつも用意してくれる手作りのお弁当は、彼の最高の癒しであり楽しみだった。
 
大学卒業後は、それぞれ新卒で別々の会社に就職した。
会社が近かった事もあり、ランチを一緒にとれる日には近くの公園でお弁当を広げたり、仕事帰りには時間を合わせて駅で待ち合わせ、いつもずっと一緒にいた。
自然体のまま一緒にいられる安心感と、笑いの絶えない時間。それが2人の日常だった。
 
しかし、社会人3年目、25歳の時。
彼に転勤の辞令が出て、お2人は離れ離れになることになってしまったのだ。引っ越しの2週間前に彼女が、
「最近ね、友達が1人、また1人。と、次から次へと結婚していくの。みんなの話を聞いていると、結婚か……。って、考えちゃうよね。
婚活を頑張ってる子もいて、マッチングアプリとかで知り合って、すぐに付き合って3ヶ月くらいで、結婚決める子もいるんだよね」
と女子会ではよく出る話題ではあるが、彼と付き合って3ヶ月でプロポーズされた、なんて話も珍しくはない。そこで、彼との結婚を真剣に考えていた彼女は、勇気を出して彼がプロポーズしてくれるように仕向けたのだ。
しかし、付き合いが長いと、どこか“今さら”感が出てしまう。恋愛というより、家族みたいな安心感もあり、プロポーズのタイミングがだんだん難しくなるのだ。
 
しかも彼は、彼女にプロポーズするどころか、転勤の事で頭がいっぱいで、
「ずっと一緒にいるのが当たり前すぎて、何か大きなアクションを起こすこと自体、違和感があるのかもしれないな」と彼女の期待とは、全く違う事を言った。
「ここで離れるのはツラいし、そろそろ結婚しようよ」と彼女は、言って欲しかったのだ。
この事がきっかけで、お互いを大切に思いながらも、どこかに不安を抱え始めていた。
そして、彼は引っ越していった。
その後は、お互いに仕事も忙しくなり、週末も簡単には会えないような状況が続き、たまに会っても、電話でも、ケンカが増えていった。そして、別れた……。
 
それぞれが違う場所で働き、新しい人間関係を築いた。
彼女は新しい職場で責任あるポジションに就き、彼も地方での業務をこなす中で成長していった
だけどふたりとも、誰とも本気の恋ができないまま2年が過ぎた。
 
そんなある日、大学のゼミ同窓会の案内が届いた。開催日はゴールデンウイークの5月5日。
 
そして、再会のとき。久しぶりに会った仲間と、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。そんな中で、別れたはずの彼と彼女は、ごく自然と目が合った。その瞬間!
まるで一気に、時間が逆戻りしたかのように、空気が変わった。
「変わってないね、全然」
「そっちこそ……。 相変わらず、元気そうね」
仲間たちの近況報告の中で、2人は視線を交わし微笑んだ。
 
駅までの帰り道、彼が言った。
「やっぱり、君がいい。ずっとそうだったんだと思う」
彼女は、涙ぐみながらうなずいた。
「気付くのが遅いよ、ばか。でも、ありがとう。すごくうれしい」
 
再会からの展開は、想像以上に早かった。週末ごとに2人は時間を重ね、また彼女の手作りのお弁当が復活した。再会から1年後の5月5日。
かつてふたりがよく訪れた湖のほとりで、突然! 彼はひざまずいた。
「今度こそ、手を離したくない。結婚しよう」
予想外の展開に、彼女の目には大粒の涙が後からあとから、零れ落ちた。
 
そしてお2人は、プロポーズから1年後のゴールデンウイーク、5月5日に結婚する事となった。
 
長い時間をかけて育まれた愛は、決して華やかではないけれど、芯のある、深い信頼と絆に包まれていた。スピード婚でも、運命の出会いでもない。
「一度別れたからこそ、見えたものが確実にある。そんなお2人だけのストーリー」が、そこにはあった。こうして、ずっとお互いを思いやり、本気で相手と向き合い幸せへの決断をしたお2人。
私は、お2人の出会いから結婚を決めるまでのお話を聞きながら、打ち合わせ中に何度も胸が熱くなった事を思い出していた。
 
「ご新郎・ご新婦さまの入場です」
というアナウンスとともに、私はチャペルの扉をゆっくりと押し開けた。
 
真っ青なバージンロードを一歩ずつ、愛する彼の元へと進む彼女は、とても幸せそうだった。その隣でお父様は、肩を震わせながら涙を目にいっぱい貯めて、ぎこちなく歩いていた。
彼女を待つその先にいる彼の表情は、緊張していたが笑顔いっぱいだった。
 
「いってらっしゃいませ」と、後ろ姿に頭を深々と下げ、
「これからお2人で創り出す未来に色々な事があっても、ずっと幸せでいていただきたい」
と心から願い、ゆっくりと静かにチャペルの扉を閉めた。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00



2025-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事