「信念」はあなたを幸せにするか
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菊子(ライティング・ゼミ3月コース)
「信念」とはなんだろう。
揺らぐことのない想い、考え、確信。
それが心にあるとして、その「信念」は、
あなたを幸せにするものだろうか。
それとも……
私は高校卒業とともに就職した。
就職氷河期に本格突入する1年前、就職試験だけで運よく社会人になってしまった。
今みたいに「働くこととは何か」を教わることもなく、大学生の就活みたいな必死の取り組みもせず、世間知らずで信念なんてまったくなかった高校生が、卒業していきなり社会人デビューした。
それでも、仕事は真面目に取り組む気満々で、がんばって業務を覚えようとしたし、何もかも目新しく、楽しかった。けれど、仕事というのは「業務」より「職場の人付き合い」のほうが、何倍も難しいことを知る。
ミスした時の対応の至らなさを陰で拡散されていたり。新人が窓口でお客さんに因縁つけられて泣いても、誰も助けに入らなかったり。数えあげればキリがない。
善い人もいたけれど、至るところで職場の腐敗臭を感じた。現在アラフィフの私から見れば、それはどこにでもあることだし、自分にも落ち度があったとわかる。それでも、まだ18歳の耐性がなかった私には、辛い現実ばかりが際立って見えた。
「社会ってこんなものだったのか……」
ひたすら残念で、切なかった。
せっかく就職できたのに、悩みに悩んで三年半で退職。
「あんな大人には、絶対にならない……!」
怒りとやるせなさを胸に、そこから転職人生が始まる。
アルバイト、アルバイト、正社員、正社員。
職を転々とする中、どこの職場へ行っても納得のいかない人はいた。しかも私は、どうしても上司や社長といった、目上の人とぶつかることが多かった。「上に立つ者の責任」を果たしていない人がいると、許せなくてつい噛みついてしまう。
どうしてこんなに許せないんだろう。
そんな中、アルバイト先で尊敬できる上司との出会いがあった。困った時に相談できる、トラブルにもしっかり対応してくれる人。その方は、周囲の人からも信頼が厚く、ようやくちゃんとした大人に出会えた気がした。
私も、もし似たような立場になったら、こんな風に振る舞いたい! 心の中の目標ができた。
その上司の紹介で、ある会社に就職できた。そして数年後には役職にもついた。
あの人のように、私はなる!
無責任な上司にはならないぞ!
毎晩深夜まで気負いまくって働いていたある時、友人からこう言われた。
「ひとりで仕事してる感じがするね」
えー…… だって、自分の仕事は責任持ってやり遂げないといけないよね? 周りも激しく忙しいし、頼れる人なんていないよ。私がやるしかないんじゃね?
……結局、ストレスが原因だったのか、持病の発症もあってその会社も退職することに。
どうしてこうなっちゃうんだろう。
その時は、わからなかったし、知らなかった。
自分が「信念」の鎖に縛られていたことに。
数年後、キャリアコンサルタントの養成講座へ通う機会が巡ってくる。その学びの中で、「論理療法」という理論に出会った。
《論理療法とは、アメリカの臨床心理学者アルバート・エリスが提唱した心理療法。人の悩みは出来事そのものから生じるのではなく、その解釈や思考パターンによって生じるとする考え方。論理療法は、非合理的な信念(イラショナル・ビリーフという)を合理的な信念に改善することで、感情や行動を変える(良くする)という認知的なカウンセリング理論となっている。》
この理論は、「出来事」が起きたから「結果」があるのではなく、「出来事」と「結果」の間に「信念」や「固定観念」といった、解釈や思考パターンが存在するという考え方なのだという。……わかりにくいか。
ざっくり説明するとこんな感じ。
①「出来事」が起きる。
②信念や思考パターンで起きたことを「解釈」する。
③解釈を受けた考えを「結果」として認識する。
例:①黒猫が横切った。②不吉。③今日死ぬかも(涙)
論理療法は、この解釈の非合理性に気づかせることで、思考が変わり、感情に変化が出て、行動も変わっていくものなのだという。
話を戻そう。
この論理療法を学んだ時、ハッとした。
私の今まで抱え込んでいた仕事の「信念」、それは、「上司はかくあるべき」「責任は絶対に全うしなくてはならない」といったものだった。
これが、「非合理的な信念」だったとしたら。
その視点で振り返ってみると、見えていなかったことがたくさん見えてくる。
上司や周りの人に対しての不満は、私が不満に思う言動があったとしても、その相手が仕事において総ての責任を全うしていないことにはならない。
そして、こちらの想いを伝えたり、先方の意見を聞いたりといったコミュニケーションをとらないまま、不満であることにこだわり続けることは、関係を悪化させたり、自身を退職に追いやったりと、自分を不利な状態にさせていた。
また、「自分の仕事は、自分が責任を持ってやり遂げなければならない」と思っていたことも、それは必ずしもひとりで成し遂げなければならないことだったのか。
仕事を「自分のもの」と捉えず、「組織全体のもの」という視点で捉えられたなら、抱え込みすぎず適切に相談する、という選択肢も生まれていたかもしれない。
論理療法の書籍に、このような一文がある。
《あなたがそうしたいというあなたの願望を、「ねばならない」に変えるとき、すなわち「マスト化」するとき、あなたは激しい不安を創造するのである。》
「願い」を「必ず叶わないと(叶えないと)いけないもの」としてしまった時、「信念」が身を縛る鎖に変わる。
職場で味わってきた苦い思いや高い理想の反動で、「こうあってほしい」という希望が、気づかぬうちに「こうあらねばならない」という呪縛になって、自分を苦しめていたことに気づいた。
自分の「非合理的な信念」に気づいてから、信念は「鎖」ではなくなってきた。とはいえ、長年の心の癖はすぐには消えない。ふとした時、「それは〇〇せねばならないのでは?(怒)」と、頭をよぎる。
それでも、この考え方を知ったおかげで、「おっと。『ねばならない』に支配されるところだったぜ!!」と、踏みとどまれるようになってきた。
「信念」とは本来、自らを高めていく理想や、行動の道標となる大切なものだと思う。でもそれは、「私を、周りの人を、幸せにするものか?」という振り返りを常に必要としている。
幸せに結びつく心の内の「信念」を持つことができたとき、外の世界の人々、物事、そして何よりも自分自身と、前向きな関係を築いていけるのではないかと思う。
●参考文献
●『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには』アルバート・エリス著 國分康孝・石隈利記・國分久子訳(川島書店 1996年)
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