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「今」に生きるとき、「お金」もまわる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森昭子(ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「すごいことが起きたよ!」
1年半前の朝6時、寝ていると突然、いないはずの夫の声がはっきり大きく聞こえた。
一体、何がどうしたのか、何なのか、目を開けると、そこに夫は立っていた。
どうやら、仕事の途中で帰ってきたようだ。
 
「何? なに?」
 
「この間、麻布十番から俺のタクシーに乗ってくれた男の人と女の人覚えてる? 女の人がすごい酔ってて、車の中で吐いてしまったでしょ。その時に一緒にいた男の人が、今日また西麻布から乗ってきてくれたの、1週間後だよ!」
 
この広い東京で、同じお客様を乗せること自体が奇跡に近いことだ、確かに。
でも、それをぶっ飛ばすほどのすごいことが起きていた。
 
夫は一度顔を見たら覚えているタチなので、
「また、乗ってくださいましたね」と言うと
「えーーーっ! まさか! あの運転手さん?」
 
とびっくりされて、
 
「コンビニ寄って!」
 
と言われて
 
「あの時は本当に有難う。吐いてすごい迷惑かけたのに、気持ちよく対応してくれて本当に助かったんだ」
と、コンビニでお金をおろしてあの時の御礼にと2万円を渡してくれたそうで、さらに、「これも良かったら食べて」と、お土産に貰ったであろう赤坂・乃が美の和栗食パンまでくださったという。男性はどうやら経営者のようだ。
 
さらに家に送り届けるまでの1時間弱の間、今度はあの一緒に乗っていた女性のことを相談されたらしい。どうやらあの吐いた一件で二人の間はなんとなく気まずくなり、連絡を取りづらくなってしまったという。
 
実は夫のタクシーは、なんだか動くカウンセリングルームになることが多い。しかも同じ人を2回、3回乗せることも多く、乗ってくださったお客様のその後の変化も感じ取ることができる。この間は、青ざめた中国人ビジネスマンを乗せたところ、彼女と別れるかどうかを悩んでいたけれど、乗車している間に別れることを決め、彼女に出すLINEの文章を夫が最後に日本語がおかしくないかを添削して、乗車中に彼女に出し、タクシーを降りた。そして、その数ヶ月後、またその中国人ビジネスマンが颯爽と乗ってきたので、「お元気そうですね」と声をかけると、あれから彼女とはすっきり別れて毎日がとても楽になったと話してくれたそうだ。
 
夫は、タクシーの運転手をしながら、※「運転者」(著:北川泰)の小説のように運を転じる人を地でいっているところがある。※乗客の「運」を「転」ずるという摩訶不思議なタクシーが登場する物語
 
話を戻そう。
お礼に2万円を下さった、女性との関係がギクシャクしてしまったその男性に夫が伝えたのは
「意地を捨てるといいんじゃないですかね。意地なんかよりも、自分が今したい! と思ったことはしたほうがいいですよ、電話をかけたかったらかければいいんですよ!」
男性は、その場で車中から女性に電話をし、また今度会う約束ができたらしい。
 
タクシーを降りる時には、
「いやぁ、いい話を聞かせてもらったよ」と、さらに2万円を置いていってくれたという。「今度3回目にまたこのタクシーに乗ったら、うちの会社の運転手になってよ、そうなったら本当にご縁だから」と、言い残していかれたそう。
 
合計4万円、もちろん乗車料金より高い。
この世知辛い世の中で、ありがとうの感謝の気持ちをこうやってお金に託して渡してくださる方がいる、と思うだけで気持ちが明るくなる。
 
夫は仕事に戻る時、玄関で
「これで◯◯(娘)に靴を買ってあげられる、俺も買いたいものあるしなぁ」と嬉しそう。
 
私はふと生活費に……、と頭をよぎったけれど、夫から4万円を受け取ると、神棚の封筒に感謝とともに4万円をいれた。
 
我が家では、神棚の封筒に入れるお金というのを決めていて、《好きなことに使うお金》にしている。夫は朝までのタクシー勤務のあと、他のタクシーの洗車もしていて、一台1000円、その洗車で稼いだお金を、特別に神棚の封筒に入れて保管している。
 
「いつか」ではなく、「今」やりたいことにYESを出してお金を使えるように。
神棚に向かう時、ともすれば生活に押しつぶされそうになるけれど、そんな中でも、生きたお金の使い方をしたいといつも思う。
 
私に4万円もらったよ! とわざわざ仕事の途中で報告してくれて、全てを私に渡してくれる夫は、初め銀座の有名なアトリエのパティシエだった。その後、嫉妬からパワハラにあい休職、プライベートでも、もう自分を誤魔化したくないと人生を立て直すために、まだ小さかった子どもを置いて離婚、帰郷した。苦渋の決断だったと聞いている。そんな人生の紆余曲折を経験し、さらに夫は、私と再婚するために、それまでの生活を全てリセットして東京に来てくれた。
 
生活のためにどんな仕事でもやってくれた。タクシーの前は毎日3時に起きて、2トントラックに乗って関東圏を走っていた。夫は、人からどう思われるかが全く気にならないタイプで、それが彼の人生を創ってきた。世間体よりも自分に正直に生きること、離婚を決断したのも、10年後、大きくなった子どもたちにカッコいい父親で在りたいと思ったそうだ。現に今、高校生になった息子とはとても仲良しだ。
 
そんな夫は、生活のために働いていても、いつも心は錦。今に生きる人。
私が何かに躓いたりすると、
「気をつけて! 思考が未来にいってるよ」
と嗜め、「今」に集中することを教えてくれる。
 
お金を扱う時も「今」に集中している。お金を支払うときもお釣りをもらうときも、お金に話しかけているのだ。
 
支払うときは
「行ってらっしゃい! たくさんお友達を連れて帰ってきてください」
 
お金をいただく時は
「お帰りなさい。どうぞゆっくりしていってくださいね」
 
夫はこれを1年365日いつ何時も続けている。宇宙の法則らしい。
私も「今」を思い出したときは、夫を真似て支払う時にお金に小声で話しかけているが、お札を口のところにもってきてつぶやくので
「何か匂うんですか?」と聞かれたこともある。
だから時々、声をかけるのをためらってしまう。
 
だがしかし、この「今」を意識した言霊作戦はやはり効果絶大で、この間の雨の日は1万円がやってきた。
その日は築地4丁目で、白いビニール袋だけ手にぶらさげた初老のおじさんが夫のタクシーに向かって手を挙げた。咄嗟に「これは田舎に帰る人だ! 遠い! 稼げる!」と思った夫。ところが乗車するなり「近いんだけどいいかね?」と言われ、ガクッ……。
でも、その気持ちを打ち消すように瞬時に
「もちろんですよ! 雨だから早く乗ってください! 濡れますから!」と、明るく言ったら
「お兄さん、気に入った!」とおっしゃって、乗車料金500円のところを、さらに1万円を置いていってくれた。
 
「今」に生きるといいことがある。
「運転者」(著:北川泰)でも、運が劇的に変わる時を捕まえられるアンテナは上機嫌の時、今起きることを楽しんでいる時と書いてあった。
運は自分で転じられる、たとえ辛いことが目の前にあっても、今すぐ目の前のことに集中してみることだ。辛いこと(問題)はちょっとやそっとではなくならないだろう。でも大事なのは、その問題がある中でも生きて、運を転じていける上機嫌な自分づくりだとつくづく思う。
 
参考文献
「運転者」未来を変える過去からの使者 著:北川泰 (ディスカバー・トゥエンティワン)
 
 
 
 
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2025-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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