メディアグランプリ

酒と私と着物と仕事

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*この記事は、「絶対麗度ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

絶対麗度ビューティー・レコーディング・ラボ

記事:伊藤美那(絶対麗度ライティング)
 
 
シュッ……キュ。
鏡の前で、丁寧に帯締めを結び両脇に挟み込む。
一歩下がって全身を確認する。裾線、おはしょり、襟元、後ろを向いてお太鼓の大きさとバランスも忘れずに。
うーん……まぁ、いいか。
百点満点ではないけれど、とりあえず人前には出られるレベル。
あとここがもう少し、と欲を出すとどんどん崩れていくことはこの世の理。
だから今日はこれで良しとしよう。
 
以前から自己流でテキトーにやっていた着付け。ある日急に、きちんとできるようになりたいと思い立ち、2025年は【お着物強化年間】と勝手に定めて日々を過ごしている。
短期コースの着付け教室に通い、様々な作家さんのイベントに行き、隙あらば着物で出かける用事を作り出す。
着物友達も増え、着姿の写真を送り合ったり情報交換をしたり。
 
自分のペースでゆるゆる楽しんでいた着物生活だったが、そうも言っていられない事態が発生した。
 
世界各国の関係会社が集まる年次総会。これまで各国持ち回りだったこの会議が、今年初めて日本で開催されることになった。
開催地は大阪。しかも今の私の部署はあまり関わりがないということもあって、準備に追われる人たちを、大変だなー、と暢気に眺めていた。
数日に及ぶ会議の中で、1時間【交流プログラム】というものをマネジメント格の方々相手に開催する必要があるらしい。
これまではワインを飲む時間にすることが多かったけど、どうしよう……
 
と考えている上司に対して、軽い気持ちでふと思いついたことを口に出した。
「日本でやるなら、日本酒の方が良いんじゃないですか?」
 
私はただ【suggest】しただけのつもりだったのだが、上司の頭の中では【日本酒試飲イベント開催を志願した】に変換されてしまったらしい。
脳内一人伝言ゲームも甚だしいが、ここで逃げるのも私の趣味に合わない。
仕方ない、受けて立とう。
 
それから、各種準備に追われる日々が始まった。
イベントで使う日本酒の選定。オリジナルぐい吞み(文字入れ)の発注。会場となるホテルとの打ち合わせなどなど。
気付けば、会議本体で参加者にお渡しするノベルティの手配までやることになってしまった。私自身は、会議には出席しないのに。
 
準備を進めている中で、また、ふと思いついてしまった。
「よければ私、和服着ましょうか?」
 
……どうして。
どうして自分から負担を増やすのか。
我ながら全く解せないが、一度口に出した言葉は取り消すことはできない。
この日から会社での準備だけでなく、帰宅後の着付け練習までもが加わった。
着物に帯、小物類。組み合わせを考え、選ぶ作業は楽しいけれど、正直少し面倒くさい。
天気予報を見て、ギリギリまでコーディネートを迷っていた。
けれど自分で言いだした手前、今さらやめることもできない。
 
最終的には「海外の方がお相手だから、多少アレでもバレやしない!」という前向きな投げやりさで押し切ることに。
 
そして迎えた当日。
私のお気に入りのスパークリング日本酒で乾杯をし、選び抜いた日本酒の数々を皆様に飲んでいただいた。
着物姿はやはり目を引くようで、いろいろな方から写真を頼まれた。
多くの笑顔に囲まれて、これまでの苦労が報われる瞬間。
会社としても全く初めてのイベントだったが、大好評のうちに終えることができた。
 
その夜、ホテルの部屋で着物に風を通しながら準備期間のことを思い返していた。
以前の私も、イベントの手配はやっただろう。
でも自分から和服を着ようなんて提案はきっとしていない。もっと【無難】に物事を収めようとしていたはず。
あえて目立つ方にいくなんて、今までの自分からしたらあり得ない選択をしている。
いくら仕事はいえ、よくやったよ、自分。でも、楽しかったよね。
 
これも秘めフォト効果、絶対麗度効果だろうか。
自信がつき度胸が据わった。昔に比べたら、人の目が怖くなくなってきた。
だから、新しい仕事に挑戦できたし、それを楽しむことすらできた。
 
まぁ確かに、秘めフォト撮影で人前にランジェリー晒すのに比べたら、和服姿なんてがっつりガードされてるしな。
そう思い、少しだけ笑った。
 
忙しい毎日を経て、また一つ、自分の変化を感じ自分を好きになることができた。
それだけでもイベントを担当した甲斐があったというものだ。
努力した分、苦労した分、私はもう少し先へ進めるはず。
あぁそれにしても、今日のお酒は本当に美味しかった。
 
幸せな酔いに頭の芯を痺れさせながら、私はゆっくり、眠りについた。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の「絶対麗度ライティング」にご参加の方が書いたものです。

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2025-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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