どちらも、素敵なご夫婦です。が、バランスが大事ですね
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ 5月コース)
「私たちって、いつまでこのままでいるのかな」
先日、結婚して5年経った当社のお客様と久しぶりにお会いした。このひとことがきっかけで、少しずつなにかがズレていった、というのだ。
お2人の間にはずっと子どもがいなくて、それぞれの仕事にやりがいもあり、家計も安定している。暮らしは穏やかで、休日にはちょっと贅沢なランチを楽しんだり、互いの趣味を尊重し合ったり。
お2人は、それなりにとても幸せそうだった。きっと周囲から見れば「理想的な夫婦」だと思われている。
しかしある日、ご夫婦はふとしたことで言い合いになったらしい……。
そのケンカがきっかけ? で、久しぶりにお会いしたといういきさつだ。
というのは、奥様が食器を洗いながらぽつりと
「私たちって、いつまでこのままでいるのかな」
と、ついこぼしたこの言葉に、彼が「このままって?」と敏感に反応した。
「なんとなく、日々の生活は穏やかで悪くはないけど……なんで結婚したんだろう、って最近考えるの。子どももなかなかできないし」
すると彼は、少し困ったような顔をして
「それ、俺もたまに思うよ。いや、別に不満ってわけじゃないけどさ」と御主人から、言葉かえってきた。
もちろん、お2人とも何か特別に不満があるわけじゃない。喧嘩が絶えないわけでもない。
ただ、心のどこかで「何かが足りない」と感じてしまう瞬間があるらしい。しかも、お2人とも同じことを考えていたのだ。
結婚したのは、5年前。交際歴2年。お互いに30歳を目前に控え、「そろそろかな」という空気の中で、静かに結婚を決めた。
大恋愛の末、というわけではなかった。私も彼も、燃えるような情熱よりも「安定」を求めていた。仕事もそれなりに安定し、互いの価値観も似ていて、ケンカも少なかった。
「この人なら、大丈夫だと思った」 とお互いに思っていた。
コロナ禍だった事もあり、結婚式は控えめに、写真と親族の食事会だけ。
共働きで経済的な負担を分け合い、家事もできるだけフェアにこなす。何もかもがバランスよく、無理がなかった。相性・価値観・収入・将来設計などを冷静に判断して決めてきた。
お互いに「結婚によって得られる利益」がはっきりしていた。
感情に流されず、安定した生活基盤を築くことを優先してきた。いわゆる合理的結婚だったのかもしれない。だからこそ“心が激しく動く瞬間”が少なかったのかもしれない。お互いまもなく、35歳になる。
「私たちって、いつまでこのままでいるのかな」
そう、このひとことを奥様が発するまでは「これで、いい。これが、幸せ」と思っていた。
きっかけは、1週間ほど前。
友人夫婦の家に招かれ、お2人で出掛けた時のこと。
友人夫婦は、お2人とほぼ同じ結婚5年目。
学生時代に出会い、卒業と同時に22歳で結婚。就職も不安定なまま、勢いで夫婦になった「子どもはまだ、いいね」というお互いの納得の元、まだいない。まもなく27歳。
お2人と年齢は違うが、‘お2人様家族’であり、共働き。状況は似ている。
しかし、何かが違う。全然違う。それは、家の中の生活感と笑い声が満ちていた。
夕食後、テーブルを囲んで4人でお酒を飲んでいると、ご主人は笑いながら言った。
「俺たち、貯金もほとんどなかったし、将来設計も甘かったよ。でもさ、なんか“この人とじゃなきゃダメだ”って思っちゃったんだよね」
奥様は思わず、仲良しなご夫婦だし、それってのろけ? と思いながら
「それって、怖くなかったの?」と聞くと、友人の奥さんが笑いながら
「めちゃくちゃ怖かったですよ。でも、それ以上に“この人と生きていきたい”って気持ちの方が強かったの」
このお2人の言葉が、奥様の心に刺さったらしかった。
そして、奥様は帰宅したあと、ふと御主人に
「ねえ、私たちって、情熱的だったことってあったっかな?」と聞いてみた。ご主人は少し考えて、
「うーん、あんまり記憶にないな」と笑った。
「そうだよね。いつも冷静に話して、ちゃんと話し合って、うまくやってきたよねえ……。彼女たちは若さなのかしら?」
さらに、言葉を選びながら続けた。
「たとえば、なにかを失ってでも一緒にいたいとか、勢いで飛び込んだとか、そういう瞬間って、私たちには、なかったなって」
するとご主人はしばらく黙っていた。「でも、それって悪いことなのかな」とポツリと言った。
「俺たちは、ちゃんと未来を見て、一緒に生活を組み立ててきた。恋愛のドラマは少なかったけど、そのぶん、壊れにくくて頑丈な家族関係を積み上げてきた気がする」
奥様の本音は「そうだね、確かに私もそう思う。だけど、その壊れにくくて頑丈な中に、ちょっとだけ何かが足りない気がして」と伝えようとしたが、御主人の言葉に黙ってうなずき、それ以上は何も話さなかった。
そして、ご夫婦と私。3人で久しぶりにお茶をした。
一連の出来事を聞いた私は、思わず! 離婚したい。とか、どちらかが浮気した。という話なら、とんでもない! と思い、
「今日はこれから、さらにお2人が仲良くしていく為の‘作戦会議’ですよね?」と確認した上で、
「お2人の間に、新しいルールみたいなものを作ったら、よろしいかと思います」と話し始め、
お休みのお出かけの時は、これまでのように生活用品や食料品の買い出しだけでなく、1か月に1か2回は、お互いがデートプランを考えたりして、今まで行かなかったようなデートスポットや、少し冒険するような企画などを提案したり、サプライズをしたり。とにかく、これまでのお2人とは全く違うカタチで“非合理的な時間”を作るように話してみた。
その後、半年ほどが過ぎ、奥様から連絡をいただいた。
「主人の表情が以前よりも、ずいぶん柔らかくなったんです。私も、彼の無邪気な笑顔を久しぶりに見てる気がして。なんだか、新鮮で楽しいし。相談して本当に良かったです」と嬉しそうだった。
さらに 「最近、なんか恋人に戻ったみたい」と、少し照れくさそうに話した。
結婚を合理的とか非合理的とか考えるとすると、どちらが正しいわけではない。ただ、どちらかに偏りすぎると、何かが置き去りになるのかもしれない。
時には立ち止まり、安定だけでは心が満たされないかもしれないし、情熱だけでは生活が続かないかもしれない。お互いに支えあいながら、ときに情熱を注ぐ“ちょうどいい”を探し求めながら、バランスを取りながら……。 それが、これからも一緒に生きていくということなのだと思う。
そんなお2人の10年先、20年先、30年、50年……。が、楽しみだ。
***
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