相手を大切にすることは、良いコミュニケーションじゃなかったの?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菊子(ライティング・ゼミ3月コース)
「この後カラオケ行くよね? みんな行くって!」
「んー わかった、行く……(カラオケ苦手なんだけど断りづらいなあ……あたしゃ帰って寝たいよ涙)」
こんな風に、思いと返事が裏腹で、自分の本心を飲み込む。そんな経験はないだろうか?
私は、ある。
ありまくりで、飲み込んだ気持ちで胃もたれを起こして、なんなら口からレインボー状態なくらい、ある。(失礼)
生きている限り、誰かと意見が合わなかったり、望まぬ何かを頼まれたりと、「不本意なこと」との遭遇は、未知との遭遇とは比べ物にならないくらい多い。
「300%それはムリ」という白黒ハッキリしたことであれば「無理です。致しかねます」と言えるけれど、日常には、グレーな案件の方が圧倒的に多い。そういった場合、私は反射的に「んー…… わかった」と、相手の要望を優先させてしまう。
なぜ自分を前面に出さないかと言えば、相手との関係性が悪くなることを避けたいから。ここで「NO」と言えば、相手からがっかりされたり嫌な顔をされるかもしれない。そんな困った状態になるくらいなら、ここで私が我慢すれば、丸く収まるよね。……そう思っていた。
ところが、我慢というのは自分の本心を押さえつけている状態。その時その時は、「小さな我慢」でも、蓄積するとかなり厄介な「不満」や「恨み」に変身している。
すると、また「我慢するか・しないか」といった出来事に遭遇した時、「私、もう嫌です! 我慢なんかしないからあぁぁ!!」といった、問答無用のシャットアウトを発動させてしまう。そこに、相手との話し合いの余地は残されていない。強制終了。
そんなことを、今まで無数に繰り広げてきた。特に、関係性が近くなればなるほど、この傾向は強い。だって、もし嫌われちゃったら? 失望されるなんて耐えがたさの極みだよ。
……で、限界までガマンして、最悪のシナリオまっしぐら。
こんなスタイルのままでよいわけがない。そんなことはわかってる。わかってるけど、私が我慢するか、相手が我慢するか、どっちかじゃないの? もうどうすりゃいいのさ。
そんな中、キャリアコンサルタントの養成講座へ通う機会があった。カウンセリングの学びの中で、「アサーション」という聞いたことのないコミュニケーション方法を知った。これは、「自分も相手も大切にする自己表現法」だという。
子供の頃からずっと、親や先生から「人(相手)を大切にしなさい」と教わってきた。でも、このアサーションは、相手だけではなく、「自分も」大切にするという。
……自分も大切にするなんて、考えていいんだ。
これが、アサーションを知った第一印象。後に、自分を大切にすることが、いかに重要かを知ることになる。
アサーションの考え方の中で、人間関係における自己表現には、大きく三つのタイプがあるという。
他者を優先し、自分は後回しにする非主張的自己表現「ノン・アサーティブ(個人的に略してノンアサ)」
自分のことだけをまず考えて行動し、時には他者をふみにじることにもなる攻撃的自己表現「アグレッシブ」
自分のことをまず考えるけれど、他者のことにも配慮する自己表現「アサーティブ」
私は、明らかにこのノンアサタイプだった。ノンアサは自分の意見や気持ちを言わなかったり、十分に言いきれなかったりすることで、他者から誤解を受けやすく、そもそも言っていないので本心も理解されない。
ノンアサのアカンところは色々あるけれど、その中でも特にヤバいと思ったのは、ノンアサポイントが貯まりすぎると激おこアグレッシブに転化しやすいこと。(私だ!)
相手を優先しているように見えても本心とは異なるので、実際は不誠実な対応になっていること。
相手との対話で、解決するかもしれない可能性を最初から捨ててしまっていること。
そして何よりも、自分に対して不誠実で、自身を深く傷つけてしまっていることが、大問題だった。
自分を大切にしてないだけで、こんなに不具合が起きる。これではコミュニケーションも破綻するわけだ。
こんな私でも「アサーション」で、自分も相手も大切にすることが、出来るようになるだろうか?
アサーティブな接し方で大切なことは、自分の気持ちや考えを率直に正直に伝えてみようとすること。そして伝えたら、相手の反応を受け止めようとすること。
更に大事なポイントは、相手からどんな反応が返るかわからず、思い通りに進まないことを前提に、話の先を想定しながら会話をしていくこと。そして意見が合わない時は、互いの意見の意図を伝え、相互理解と双方の納得のいく結論を目指して話し合うことが大事なのだという。
……これは大変だ。
アサーティブな自己表現は慣れないとなかなか難しい。
そして、表現を簡単に諦めない意志が必要になる。
でも、人と良好な関係を築くことって、本来とても根気がいることじゃないのか。正直に腹の中を見せるって、相手と理解し合うって、一朝一夕にはうまくいかないはずだから。
「ゲシュタルト療法」という心理療法の創始者フリッツ・パールズの作った「ゲシュタルトの祈り」という詩がある。これは、アサーティブであろうとする心の姿勢と通じるものがあった。
「ゲシュ夕ルトの祈り」
私は私のことをする、あなたはあなたのことをする
私はあなたの期待に沿うためにこの世にいるのではない
あなたは私の期待に沿うためにこの世にいるのではない
あなたはあなた、私は私
それでもしお互いが偶然出会うなら、すばらしい
そうならないなら、しかたない
“Gestalt Therapy Verbatim”(「ゲシュタルトセラピー逐語録」),
Frederick S.Perls, 1969 Real People Press, California. (岡田法悦・訳)
ある時、この詩の書かれた経緯がわかる資料を見た。その時、この詩は自分と他者を線引きして突き放すものではなく、アサーティブな接し方を突き詰めた後に訪れた、「お互いが異なる人間同士であることの尊重と理解」なのだと気づいた。
そしてこの詩はパールズの晩年、以下の二行が付け加えられたとある。
私とあなたが、私たちの基本
一緒にいてはじめて世界を変えられる
人はひとりでは生きられない。どんな形であれ、誰かと関わって生きていく。そんな中で、考え方も価値観も、何もかもが違う「私とあなた」が出逢った意味はなんだろう。
忍耐でも排除でもなく、自分を、あなたを、尊重できたなら、「違う」から始めたその先に、「違っていてもいい」という新しい世界を、お互いに見つけ出せるのかもしれない。
付け加えられたこの言葉に、「共に関わる価値と可能性」を感じた。
私は、アサーティブであることが本当にうまく出来なくて、今だにノンアサとアグレッシブを繰り返している。長年染みついた心の癖というのは、そう易々とは変えられない。
それでも、このパールズの詩は、自分も相手も大切に出来たらと願った想いを、思い出させてくれる。
●参考文献
●『アサーション入門』平木典子(講談社 2012年)
●『アサーションの心』平木典子(朝日新聞出版 2015年)
●岡田法悦. 『ゲシュタルトの祈り』最後の一行の謎を解く! (日本ゲシュタルト療法学会ニュースレターNo.12(2017年1月)に掲載)http://www.gestalt-a.org/gestalt/Prayer.pdf.
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