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私は白髪染めをやめない


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記事:及川佳織(ライティング・ゼミ 3月コース)
 
 
さあ、予約が取れた。なぜか、ほっと息をつく。明日は美容院で白髪を染めてもらうのである。
 
私は、白髪染めを続けている。若い頃はいわゆる茶髪を楽しむための「カラーリング」をしていたが、それが次第に「白髪染め」になっただけである。白髪が増えたからといって、どこかのタイミングでカラーリングをやめるきっかけがなかった。なんとなく、そのまま今まで来てしまったというのが本当のところだ。
 
私の周りには「白髪は放置」という友人が何人かいる。なぜか一様に、ただ伸びるままに任せて、ひとくくりにしばっている。染めてみたら? と声をかけてみたこともあるが、もう今さら年齢に抵抗してもしょうがないとか、定期的に美容院にいくのはお金がかかるとか、めんどくさいとかの答えが返ってくる。
 
なんだかそれは、年を取って白髪になったことを受け入れているのではなく、見て見ぬふりをしているのではないか。見ようとしていないから、見ていないから、何もしないのだ。
 
それはちょっと悲しくないかな。私は彼女たちの昔を知っている。あの可愛らしさ、若い輝きに年輪が重なった美しさを見てみたいと思う。年を取ったから、白髪になったから「どうでもいい」になってしまったら、少しずつ錆びていってしまう。
 
私はむしろ、めんどくさいから美容院で白髪を染めてもらっている。自分でやるとうまくいかないし、準備や後片付けも大変だ。プロに任せておけば、きれいに仕上がるし、何より気持ちがいい。年齢を重ねる中で、きれいに髪の手入れをしてもらって、明るい気持ちになる時間が私にとって貴重でもある。
 
ただの放置とは違って「白髪を隠さない生き方」が世の中ではちょっとしたブームだ。きれいなグレイヘアの女性を、SNSや雑誌でよく見かける。自然体、年齢を受け入れる潔さ、自分らしさの表現として紹介されていて、確かに素敵な人が多い。でも、それは誰にでもできることではないと思うし、「正解」でもないと思う。
 
というのも、グレイヘアって、実はかなり手がかかる。白髪は年を取って固くなり、うねりが強くなっているから、ツヤやまとまりを出すためにはこまめなケアが必要だ。似合う服やメイクも少しずつ変えていく必要があって、お金も時間も、それなりにかかる。グレイヘアは「自然体」というより、高度な「演出」だ。
 
それに、きれいに見せるには、白髪が少なくてもいけないそうだ。一度グレイヘアに興味が湧いて、担当の美容師さんに「グレイヘアにしてみようかと思うんですけど、どうでしょう」と聞いてみたことがある。すると意外にも「グレイヘアにするほど白髪がないので難しいと思います」との答えだった。まだほとんどが黒い髪をグレイヘアにするには、黒い髪の色を抜かなければならない。手間もかかるし、髪が傷む。かといって染めないと、黒い髪にぱらぱら白髪があって逆に老けて見えることもある。結局、今の私が手を入れるのであれば、これまで通り染めるのが一番確実だということになった。グレイヘアにするには、白髪が全体に7~8割という適性が必要だとは思わなかった。
 
たまに、白髪を染めてはいないけれど、きりっとショートカットにしている女性を見かけることもある。耳を出し、おおぶりのイヤリングが白い髪に映えていたりすると、染めてはいなくとも、放置とは違う。白髪であることを受け入れ、そのまま自分に似合うスタイルにしている。そういう人は案外少ないが、それもきれいだ。
 
「きれいでいたい」という気持ちは自然なことだと思う。グレイヘアの人も、それを選択する理由はきれいでいたいからだろう。見た目ばかり気にすることに眉をひそめる人もいるかもしれないけれど、美しくありたいと思うことは、誰かに認められたい、自分を大切にしたいという自然な感情ではないか。
 
以前、ある老人ホームでの話を聞いたことがある。ほぼ寝たきりの女性が、ボランティアで訪れた美容師にメイクをしてもらった。その女性はメイクの後、ベッドでずっと鏡を見て、放そうとしなかったそうだ。さらにその後、紙おむつだったその女性は、立ち上がって自分でトイレに行くようになったという。リハビリも励ましも変えられなかった女性の心と身体を、メイクが変えたのである。美しくなることは人を変える。私がとても好きなエピソードだ。
 
私は白髪染めをやめない。自分自身も、多くの人とかかわって生きていくうえでの一種のマナーとしても、きれいでいたい。自分で自分に納得したいし、他の人に「自分を肯定している人だ」と思われたい。白髪染めは、そのために無理をしない、少しの時間とお金と手間でできる努力である。
 
 
 
 
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2025-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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