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「頑張ってね」と言われて「もう頑張ってるよ」って言いたくなるあなたへ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安井 智世 (ライティング・ゼミ5月コース)
 
 
「もう頑張ってるよ」と心の中でつぶやいたあの朝を私は忘れない。
 
「ほらー! あんたもう起きなさい!! いつまで寝てるの! 遅刻するよ!!」
家中にお母さんの声が響きわたる。そんな声量じゃ隣の家の人まで起きちまうよ……。
まあ、隣の人も同じ学校に行くのだから寝てるわけないのだけれど。
そんなことをぼんやり考えながら重い瞼を開けると、隣の家からも怒号が聞こえた。みんな朝は起きたくない。高校生なんてまだまだ食べて寝るのが仕事だと思う。展示ベッドの寝心地を確かめる仕事があればいい。想像で私は広い家具屋のベッドに横になる。でも現実では手を動かさなければならない。顔を洗い、パジャマから制服に着替え、朝ごはんを口に突っ込む。お弁当をカバンに入れたら完了だ。
「いってきまーす!!」
「はーい、いってらっしゃい!」
「頑張ってね」
 
私が高校一年生のころの朝は大体こんな感じだった。別に毎日寝坊しているわけでもないし、毎日家具屋のベッドで寝ていたわけでもない。ただこの毎日に違和感があった。
 
毎日私は「頑張ってね」と見送られていた。きっと親としては頑張ってほしいのだと思うし、お守りみたいな気持ちで言ってくれていたのかもしれない。でも私は、モヤモヤした。
 
私、毎日精一杯頑張ってる。毎日学校に行って、意味があるのかわからない授業を受けて、友達と空気の読み合いっこをして、部活で汗を流して、靴下のワンポイントとかで怒られて、帰ってきても課題と勉強に追われて、疲れても今度は家の手伝いしなきゃならなくて、お父さんが帰ってきても仕事の愚痴を聞かされて……。私、毎日全力で頑張っている。
だからこそ朝、お母さんに毎日「頑張ってね」って言われる度に「今日も耐えなさい」って言われているような気がしてすごく窮屈だった。
 
大人になった今。
学生生活もあれはあれで楽しかったと思うし、毎日頑張ってよかったなとは思っている。だけれど、今でも私は「頑張れ」って言葉に苦手意識がある。
 
卒論に明け暮れる友達。就職した友達。一人暮らしを始めた友達。
みんな環境が変わって忙しい日々をせっせと生きている。そんなみんなにエールを送りたくなるが、「頑張ってね」とは言えない。きっともう頑張っていると思うから。
だからと言って「無理しないでね」もなんとなくその人の可能性を信じてない、応援より心配が勝っているんだよ。というメッセージになってしまう気がして言えない。
 
こういう風に言葉にしてしまうことによってハッキリしすぎてしまう。輪郭が出来上がってしまう。ということが非常に違和感だった。
 
輪郭が出来上がってしまう。という意味では「家族」「友達」「恋人」みたいな関係値を表す言葉も私は窮屈だったのだと思う。
 
私は特に「家族」という言葉にこだわっていた。
私の両親は共働きで幼いころから家を空けることが多かった。保育園のお迎え時間を2時間もすぎてから二つ上の姉が迎えに来たことがあった。7歳に保育園のお迎えを頼まなければならないほど両親は忙しかった。
私も小学生になると夜ごはんを自分で準備したり、習い事のために髪をお団子にしたり、身の回りのことは自分でやるようになった。
高校生になっても親は忙しそうで、むしろ忙しさに拍車がかかっていくようで、姉も大学生になると友達と夜遊びが増え家族四人で食卓を囲むことなどほとんどなかった。
私はそれが嫌だった。
「家族」なんだから一緒にご飯食べようよ。
「家族」なんだからたくさん一緒に笑ってしゃべりしようよ。
「家族」なんだから……。「家族」なんだから……。
 
高校三年生の時、メンタルを病んだ。幼いころからの家族に満たしてもらえない寂しさが原因だった。そこから5年間私たち家族は話し合いを重ねた。
病院の人にも協力を得て面談をしたり、カウンセラーさんと話し合って家族の関係を再構築しようとした。
それでもうまくいかなかった。嫌なことは増え、みんなが敏感になり、家の空気はどことなくピリついた。
そしてあるとき私は我慢の限界で家を出た。
唐突に家を出て一人暮らしを始めたのだ。
最初の内は1週間に1回ぐらい実家に顔を出し、話し合いをしていたがしだいに会う頻度は減っていった。
すると、家族の関係はみるみる良くなっていった。
 
何かがすごく改善したわけでもなくて、ただ全員が自由でいいのだということを学んだのだった。
 
仕事を好きなだけして、好きなだけ飲んで帰ってきて、ふらっと帰ってきて家族がいたら他愛もない会話をして、またふらっと遊びに行く。そうして何か大事な話があるときは少し時間をとって電話をしたり、実家に置手紙をして伝える。そんなスタイルになっていった。
 
「家族」という枠組みから解放された瞬間だった。
 
私はその時「家族」だからこうじゃいなきゃいけない。というものはないのだと身をもって知った。
私は言葉の枠組みにとらわれていた。
 
言葉には、ある程度余白とか隙間というものがあって、言葉にしたからと言ってそれが全てではない。
この人の頑張り屋さんなとこが好きと言ったからって、ぐーたら休んでいるその人は嫌いってことでもないし、「大丈夫?」って聞いて「大丈夫」って答えたときにその「大丈夫」の中には「本当は心配してほしい」とか「心配かけて申し訳ないな」とかいろいろな感情が混ざっていることがあるものだと私は思います。
 
だから私は言葉を大切にするなら、言葉にしたときに表しきれない言葉の余白も大切にしたい。
言葉の余白すら抱きしめられる。そんな人でありたいのです。
今日あなたが誰かにかける言葉が、優しい余白を残せますように。
 
 
 
 
***

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2025-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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