親子関係がナイアガラ行きになる時
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記事:キャサリン.(ライティング特講)
50代も半ばにさしかかった私には、22歳のひとり息子がいる。私はとっくに子育て卒業の祝杯をあげ、母業は誇らしげに閉店してもよいタイミングのはず、と思っていた。ところがこの後に及んで、アイドルの不祥事並みのショッキングな事実を突きつけられている。
息子と私は残念ながら、悲しいかな、とも言うべきか、決して相性がいいわけではなかったようだ。そしてこの親子の相性は、お互いの愛情や絆の度合いには無関係だから厄介だ。どんなにお互いが相手への愛と思いやりにあふれ、親子として固い絆を結んできた歴史があったとしても、相性の悪さは打ち消されない。親子にだって相性の良し悪しくらいあってもいいのだが、息子と私のようなケースでは、親子関係に壮大なアップデートが必要になる。
ここで相性のいい親子の皆さんはご安心を。アップデートはきっと自動的に、深夜あなたが寝ている間に粛々と完了されることでしょう。そしてごく自然に、新たなぬくもりを育む関係に移行していくのでしょう。
問題は、息子と私のように相性がいいとは言えない親子の場合。待てど暮らせどアップデートは自動では行われない。意図的に、積極的に、自らの手でアップデートしなければいけない。ゴリゴリの手動で、たとえ時間がかかっても、本気でアップデートしなければナイアガラ行きなのだ。
生真面目な新米ママだった私は、シングルマザーだったこともあり、何かと規格外の幼い息子に苦労した。学校から呼び出されるたび、息子のために先生や校長と闘い、習い事でもコーチ相手に奮闘しなければならなかった。それでも母としてできることは、とにかく全てやるのが私の子育てスタイルだった。そのせいか、なんのせいか、子育て中に私の奥歯は3本砕けた。私を支えていたのは、息子への愛情、そして息子から私への日々のあふれんばかりの愛情だった。そんな手のかかりまくった息子も、優しく自由で、海を愛するイケメン青年になった。
なのにだ。相性の悪さを突き付けられ、いつの頃からかことあるごとに親子関係のアップデート通知が鳴りやまない。息子が幼かった頃のたくさんの楽しい思い出や喜び、大変だったけど一生懸命だった日々や年月を経て、いつの間にか相容れなくなってしまっている関係性に、繰り返し気づかされている。
気づかされる瞬間はいつもなんてことはない。知らないうちに賞味期限が切れた”のり”に気づいてしまった、くらいな感じ。ちゃんと缶に入れて密閉して、手堅く保管していただけに「あれ?!」と、にわかには信じられず何度か確認する。「誰か中身入れ替えた?!」と謎の誰かを疑ってみる。うちの”のり”はいつも美味しかったはずなのに、いつのまにかシラけて味気ない、なんともつまらない代物に変わり果ててしまった。
そんな親子関係は、シラけてるんだから存在感が薄いかと思いきや、ちゃんと主張してくるから面倒だ。関わるたびに、いったいどこで線を引けばいいのか、無理をしなければ息子に関われなくなっている自分をたびたびごまかしてはやり過ごす。けれどそのまま逃げ切れるはずもない。幼い頃の面影がちらついたが最後、メンタルが一気に瀕死レベルに追いやられる。茫然自失に匹敵する圧倒的な破壊力に、秒で打ちのめされる。遠くのほうで、癒されることのない寂しさが、ナイアガラの滝のように流れ落ちる。その勢いと水圧、膨大な水量は、きっと神様でさえ堰き止められないだろう。記憶の中の親子関係はやさしくて美しいのに。確かに美しいものだったのに。浮かんでくる天使のようだった息子の寝顔を慌ててかき消す。
私たちの場合、親子関係のアップデートは必須かつ急務なのだ。「それが親子ってもんじゃない?」と言われたら、そうかもしれない。それが子の成長の証であり、親が子離れした合図なのかも。 遠くで光る思い出は胸の奥にそっとしまって、いま目の前にいる血のつながったその人を、幼い子ではなく1人の大人として、愛をもって根気強く尊重する努力が、親子関係のアップデートに相当するのだろう。
とはいえ、温かくやわらかな日々を忘れなくてもいいと思っている。(忘れたくはない!)でも、それはそれ、これはこれ、と切り分けなくてはいけない。「わかっちゃいるけど、そんなこと、簡単じゃないんだよー!」と日々叫んでみても、アップデートしないことには、何ひとつ、本当に何ひとつ、うまく機能しない。おまけに、いつまでも旧バージョンにしがみつきながら日々を過ごそうものなら、ナイアガラ行きだ。その寂しさに飲み込まれ、悲しみの滝つぼで溺死するかもしれない。
息子が幼いうちは、親子の相性なんてわからなかった。気にもならなかった。 というか、そんなことを考える余裕なんてなかった! だから今、もしあなたが幼い子どもを育てている最中の、てんてこまいのお父さんやお母さんならば伝えたい。親子の相性がいいか悪いか、そんなことは知らなくてもいい。ただただ無邪気な親子の時間を、できるかぎり多く、長く、今のうちに満喫しておくことをお勧めしたい。遊んで、𠮟って、笑って、泣いて、看病して、寝落ちして。そんな日々もいつかはアップデートの時が来る。どうかひとつ残らず心に深く刻んでほしい。親子のなんでもない今日や、明日を。
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