ネガティブな感情が創造の源である
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:塩田健詞(ライティング・ゼミ5月コース)
「MBTI診断やってみた?」
「やった、やった。私、INFPだったんだ」
「INFPって陰キャじゃん(笑)」
友人からの軽いいじりに、胸の奥がわずかにざわついた。もちろん、自分が“陰キャ”であることは自覚している。けれど、それを笑い飛ばせるほど割り切れてはいなかった。
私はいま、この先どのように生き、どう振る舞っていきたいかを模索している。一人でいることを好む。深く考えすぎてしまう。ネガティブな発言をしてしまう――。
前者二つについては、スーザン・ケインの著作『内向型人間の時代』を読んでから、少しずつ肯定できるようになってきた。TED Talksでも彼女が語っていた「内向型の価値」に、私は救われた。
だが、問題は後者だ。ネガティブな感情や言葉が、人間関係に波風を立ててしまう。
「もっとポジティブでいなきゃ」
そんな思いが、心に重くのしかかる。
そんな思いに至ったのは、周りからの何気ない指摘がきっかけだった。
「ネガティブな感情は伝染する。慎め」
勤務先で、大量の業務に四苦八苦していたある日。ふと「もう帰りたい」とつぶやいた私に、上司は冷たくそう告げた。
上司の言葉は、容赦なく胸に突き刺さった。私は頭を下げるしかなかった。
「ネガティブな発言をして、申し訳ございません」
心の声に蓋をして、再びデスクへと戻る。
その後も、職場で、プライベートで、私は感情をひたすら押し殺すことを覚えていった。
だが、代償は大きかった。いつしか身体が動かなくなった。朝、起きられない。誰にも会いたくない。仕事に行きたくない――。そんな感情に、雁字搦めにされていく。
家でため息を漏らしたときのことだ。父が呆れたように言い放った。
「どうしてお前はそんなにネガティブなんだ。情けない。ポジティブになれ」
あぁ、ネガティブでいることは、こんなにも許されないのか。
私たちは「ポジティブ強制社会」に生きている――。
その言葉が、私の頭にこびりついた。
こうして私は休職し、一人ベッドに潜り込み、YouTubeをだらだらと観る日々を過ごしていた。
そんなある夜、「しくじり先生 俺みたいになるな‼」にジミー大西さんが出演している回が流れてきた。芸人としての成功と挫折、そして画家としての道――。
ジミー大西さんは画面の中で、画家を引退しようとしていた時期を振り返りこう語った。
「陰と陽なんですよね。要するに芸能界は陽なんですよ。要するに芸能界のテンションで絵なんて描けないんです。絵は陰なんです」
その瞬間、胸の奥に稲妻が走った。
“陰”の時間にしか描けないものがある――そんな予感がした。
ふと思い浮かんだのは、私が尊敬している作家フランツ・カフカだ。
彼もまた、職場では「陰」の塊のような人間だったと伝えられている。
頭木弘樹さんの『絶望名人カフカの人生論』には、こんな一節がある。
「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。いちばん上手くできるのは、倒れたままでいることです」
「ぼくはいつだって、決してなまけ者ではなかったと思うのですが、何かしようにも、これまではやることがなかったのです。生きがいを感じたことでは、非難され、けなされ、叩きのめされました。どこかに逃げだそうにも、それはぼくにとって、全力を尽くしても、とうてい達成できないことでした」
絶望と無力感にまみれた手紙や日記。それなのに、彼の書いた『変身』や『審判』は、100年以上経った今も世界中で読み継がれている。
奇妙なことに、彼が最も筆が進まなくなったのは「仕事を辞めて心穏やかな日々を送っていたとき」だったという。
「仕事のストレスから解放されてよかった」と日記に書きながらも、彼の創作は止まった。
私の頭に、ひとつの仮説が浮かぶ。
「もしかすると、ネガティブな感情こそが、創造の源なのではないか」
考えてみれば、天狼院書店のライティング・ゼミに参加して以来、ふと気づいたことがある。
「講座ももう中盤に差し掛かりましたね。そろそろネタが尽きてくる頃じゃないですか?」
講師の何気ない言葉に、私は小さく首をかしげた。
幸いなことに、ネタに困ったことは一度もない。
なぜだろう。
それはきっと、日頃からネガティブな感情を抱え、自分の心と向き合う「内省」の習慣があるからだ。
内側に渦巻く苦しみや違和感を見つめ、言葉に変える。そのプロセスが、自然と創作の糧になっていた。
私は今、ひとつの確信に変わりつつある。
理想と現実のはざまで揺れ動く苦しみ。その痛みこそが、クリエイティブなものを生み出すのだ。
この文章を読んでいるあなたも、もし心のどこかに「ネガティブな何か」を抱えているなら。
それは決して押し殺すべきものではない。
むしろ、あなたが何かを生み出すための、大切な源かもしれないのだ。
だから、どうか忘れないでほしい。
あなたの陰があるからこそ、この世界には光が生まれる。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00■天狼院書店「湘南天狼院」
〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00