メディアグランプリ

甘い拷問


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:愛野美奈(ライティング・ゼミ7月コース)
 
 
ここ2年、高齢の父が転倒して骨折と入院を二回繰り返し、退院してからは家族の世話が必要になっていた。幸い回復して暮らせてはいたものの、時々ぼんやりするので、次は認知症がくるのではないかと私はドキドキしていた。
 
検査をして認知はまだ大丈夫みたいだったが、腕が不自由になった父は老人ホームにそろそろ入ると言い始めて、転倒と怪我が心配だった家族やケアスタッフさんもみな少し安心していた。そんな中、父は、ごきげんで旅行から帰ると、突然倒れて帰らぬ人となってしまった。80代、覚悟はしていた。
 
葬儀や一通りの手続きを終えた私は、燃え尽き気味なのかぐったり、身体は重く、日中だるい。やる気もなくなり倦怠感に支配されている感じになった。それもそのはず、気づかないうちに体重が10kg増。いや、薄々は感じていた。服が窮屈になり、二重あご、目も肉に埋まり、アンパンマン化。近くのジムにも月に数回通っていたけれど、運動しているということを免罪符に余計に食べていたと思う。過食というより、悲しいと甘いものを一口食べてしまう。それが増え、深夜近くにも気づいたらチョコレートを一口二口、一枚となった。
案の定、健康診断でひっかかり、健康相談室へ。目標は1ヶ月でマイナス2Kgを5ヶ月頑張りましょうと言われ、次回の面談の予約。もう肥満という事実から逃げられなかった。
 
カロリー制限、おやつは控えるかナッツ、脂質糖質を同時に摂らない、18時までに食事を終え、寝る前にストレッチするように言われ、守りながらなんとかマイナス2kgを達成。このまま2ヶ月目も散歩くらいはして、頑張るぞと思っていた。ところが、
 
「今日はショートケーキのテストだったよ」
 
とクリームたっぷりの脂質糖質のコンビネーションのホールケーキを持ち帰る娘。製菓学校に通って3ヶ月目、和菓子洋菓子パンなど、毎日毎日実習で作った甘い菓子を持ち帰ってきて、誇らしげで、私の味見を待っている顔だ。
 
最初は、あ、ごめん、明日の朝にするね、と食べずに冷蔵庫に入れていたが、私の大好きな草もちの日はダメだった。ママ和菓子好きだよねと微笑む娘。
 
夜ふけに甘い草もちの至福というデブの罪悪感。一度は負けた。ここでまた負けられない。罪悪感を持たないでたべると太らないと聞き自己暗示をかけ始める。
「私は太らない」
「娘の作ったお菓子だけは太らない」
 
そこに怒濤の試練がくる。今日はメロンパン、明日はドーナツだよ。バイトで帰りが遅い娘。夜10時寝る前に来る甘くておいしいパン達、みたらし団子もあればシュークリームまである。
私は健康診断で体脂肪を減らせと指摘されている。いちおう家族には告げてはいる。一口なら大丈夫だよと、夫は悪魔だ。
なんとか翌朝にスイーツを食べることで脂肪になるのを防いでいたけれど、その日に消費期限の和菓子が夜にまたくる。下手したら朝もスイーツ、夜にまた食べて、トータルカロリー増だ。前より増えた分は消費しないといけないのだ。
 
でもまだ運動で消費するほど元気もなくて暑すぎる。ずっとおやつを食べずに我慢していた矢先に、毎晩のスイーツ、パン攻撃だ。しかもニコニコ笑顔の娘。だんだん自信に満ちていく娘の顔を見ながら「すごいね、毎日頑張っているね、美味しいね」とモグモグしながらほめている私は、葛藤している。食べたくない、本当は痩せるまで食べたくないのだ。これは甘い拷問だ。
 
悲しい事があると人は太ると言う。気を紛らわすために食べていたチョコレートはすぐ脂肪になった。娘が頑張って作った焼き菓子達は、食べても脂肪にならない、ならない、と再び自分に暗示をかける。
 
娘は高校時代、いじめで不登校になった。真っ青な顔で覇気がなく、誰かの悪意に耐えていた。私にできるのは、登校に付き合い、嫌なら帰っておいで、よく校門まで頑張ってきたねと言うだけだった。
 
幸い、3年時に良き担任に出会い、対策してくれて無事に卒業できた。先日、娘はお世話になった担任の先生にもケーキを届け、喜んでくれたと報告してくれた。余程嬉しかったのか、最近はますます自信に満ちて練習するのを見て、この笑顔を私の理由でまた曇らせたくなかったのだ。
あんなに嫌だった朝の散歩を始めた。そして、なんと、今朝はジャージが少し、ほんの少しゆるい。スイーツを夜に食べても痩せられる可能性ここにありだ。今マイナス3キロ達成!
 
つまりは、高カロリーも幸せを感じながら食べると太らない、かもしれない。
 
今、私は実験中だけど、そんな気がしている。ストレスを解消するために、ひとり食べている物と、喜びとか思いやりで作られた食べ物。後者がたとえ高カロリーだとしても、無駄な脂肪にならずに、私の血肉になって支えてくれると信じたい。
 
明日の朝は少し散歩の距離を増やしてみようと思う。半年後にはシュっとして、素敵に服を着こなし、ホールケーキ丸ごと抱えて笑顔で食べている私がいるはずだ。
 
 
 
 
***

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2025-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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