周りの人からの心遣いで大ケガした話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:升井さくら(ライティング・ゼミ7月コース)
誰しもが春に何かしらの別れの経験をしたことがあるのではないかと思う。私もこの春には職場が変わることになった。数年間勤めてきた職場はとても恵まれていて、出会った人たちみんなが素敵だったから、離れたくなかったけれども、夢のために去ることにした。尊敬している先輩には「いなくなっちゃうなんて、すごい痛手だよ」と言ってもらえた。中には涙してくれる人もいて、自分がここで頑張っていたことを、いろんな人が認めてくれていたのだな、と思うと、さすがに込み上げてくるものがあった。やっぱりここに残りたいな、とも思った。
最後の挨拶の日には、以前、職場にいた人も含めて、たくさん集まってくれた。人生でこんなに花束をもらった日はなかったし、手紙も何通ももらったし、他にもたくさんのプレゼントをもらった。まさに両手に抱えきれないほどだった。皆の愛情が嬉しくて、心の底から「私、本当にここで働けてよかった!」と思った。
だから、帰り道の私はちょっぴり涙ぐみながらも、ルンルンだった。視界は潤み、たくさんのプレゼントを両手に下げて、花束を抱えていたから足元も見えなかった。しかも軟弱な体幹は、その重さに耐えきれず、歩く度にふらふらとしていた。そんなだったから、長年歩きなれた道にある、縁石の小さな段差にすら、気づけなかった。
「きゃあー!」
両手が塞がり、いつもの倍以上の荷物を抱えていた私はそのまま転んだ。いい年した大人でも、つい叫んじゃうんだな、って思いながら勢いよく下り坂をスライディングするように転んだ。多分、目の前にホームベースがあったら審判に「セーフ!」って言ってもらえたんだろうな。
「痛いよ……」
夜道に一人でとても惨めな気持ちになった。あと、本当に痛くてヒリヒリする。さっきまでとは違う理由で視界が涙でぼやけ、辛くて立てない。あんなにルンルンしてたのにな。やばい、痛くて悲しくて、声を上げて泣いちゃいそう。でもその時、私の頭の中で鬼滅の刃の炭治郎が言った。
「長男だから我慢できた」
うるさい、私は長男じゃない。だけどすごい痛いのを我慢するしかないんだよ、だって大人だし、周りに人いないし。長男とか次男とか女とか、この時代、関係ないんだよ! そんなことを考えていたら、なんとか泣かずに立ち上がることができた。
両手のひらは、擦りむけて血まみれだった。膝は目も当てられないほどに真っ赤だった。みんなからもらった花束も、私を庇って少しつぶれてしまった。それでも歯を食いしばり、足を引きずり、どうにか職場の最寄り駅にたどり着いて、夫に連絡した。全然血は止まらないけど、とりあえず電車に乗るしかなかった。電車内にいた、爽やかで整った顔の男子高校生にはぎょっとされてしまった。大人の女のこんな不甲斐ない姿を見せてしまって悲しい。迎えに来た夫は、駅前のベンチで絆創膏を貼ってくれた。心の底から、優しい人と結婚できて良かったと思った瞬間だった。
だが、三日経っても、まだ血は止まらないし、痛い。もう若くないからか、あるいは血が固まらない病気なのでは、と思い、怖くなった私はやっと、かかりつけの病院に行った。
「三日前!?」
戦場で幾多の困難を乗り越えてきたであろう国境なき医師をやっているお医者さんに、驚かれ、そして優しく怒られた。
「怪我したら、ちゃんとすぐに病院に行かないとダメだよ」
傷口に麻酔を打たれ、消毒されたり薬を塗られたりしながら、教えてもらったのだけれど、傷が早く治るタイプの絆創膏は良し悪しがあって、免疫だけでなく、菌も元気にしてしまうそうだ。傷を綺麗にしてから貼らないといけないし、ここまでのずる剥け傷には、通気性のいい絆創膏がいいらしい。言う通りにしたら、次第に傷が塞がってきた。さすがプロ。しかし2週間経っても、左手のひらは鈍く痛い。こんなときは、病院だ。
「もしかしたら骨が折れているかもしれないから、一度、整形外科に行った方がいいかもね」
いやでも、私の指、痛いけど動きますよ、と思った私は、この日、その足で推しの舞台を観に行った。推しが人を殺す、血まみれの舞台だったけど、すっかり血に慣れていたから、平気だった。拍手するのは痛くて辛かったけど。
さて転んでから3週間後、私は人生で初めて整形外科に行った。経緯を話すと、すぐにレントゲンを撮ることになった。
「ここね、縦に線があるでしょ、ヒビが入っているから、本当はギブスでしっかり2週間くらい固定するんだけど、もう2週間以上経っちゃったからねえ」
想像よりも、ちゃんと大ケガだった。そりゃあ痛いはずだ……。
今回、私は、痛かったらすぐに病院に行ったほうが良いこと、そしてどんなに嬉しくても、大荷物は一度に持ち帰らずに、計画的に運んだ方が良いことを学んだ。大人の皆さんは転んだら、きちんと病院へ!
***
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