メディアグランプリ

オムツの旅

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:愛野 美奈(ライティング・ゼミ7月コース)
  
   

子供が3歳の時だったと思う。オムツは取れたけれど、まだ時々トイレが間に合わないくらいの感じで、外出には安心用にオムツ持参だった頃のことだ。

 

帰省するのに急行電車に一緒に乗った。網棚にふだんはバッグを置かないのに、なぜかその日は置いてしまった。実家に泊まるための荷物がたくさん入ったママバッグを持っていたが、混んできたので邪魔に感じてふと目の前の網棚に置いたのだ。他にもショルダーバッグを斜めがけにして、片方の手は子供とつないでいた。

 

押し出されるように、実家の駅で急行を降りた。片手が空くことはほとんどない小さな子供とのお出かけだ。なんか手がスカスカ軽く感じた時は時既に遅し。バッグがないという異変にやっと気づく。電車はすでに出発していた。

 

しまった。網棚だ!

急行は藤沢行き。

慌てて駅員さんを探す。改札でやっと見つける。終点で確保しますから、取りに行ってくださいと。

 

藤沢まで長いなぁ、でも着替え全部入っている、まず母に子供預けなきゃ・・・・・・。

電話をすると幸いにも駅まで母が迎えに来てくれるという。ふと安心して、娘を見ると微妙な顔をしてモジモジしている。

 

「ママー、出ちゃった」

 

ピンクの長ズボンも運動靴もビッショリだ。

ああ、なんて事だ!駅員さんを探してバタバタしていた私に、オシッコ行きたいと言えずにお漏らししてしまったのだ。今日はオムツにしておけばよかった。

まさかこんなタイミングで漏らすとは・・・・・・。

 

着替えは、急行電車に乗って藤沢に向かっているではないか。

泣きっ面に蜂っていうか、泣きっ面にオシッコ。

記憶がそこから曖昧だが、とりあえず子供衣料など売っている店が近くにはないので、大人用Tシャツかなにか買って着替えをさせて、タクシーにておばあちゃんと実家へ行くことにして、私はひとり藤沢へ。

 

忘れもしない、義姉がくれたANNA SUI の可愛らしいパープルのママバッグで、哺乳瓶ホルダーやオムツポーチも付いていてかなりのお気に入りだった。

 

藤沢までの車中、私はどれだけそのバッグが好きだったか詳細を思い出しては、もしなくなったらどうしようかと不安な気持ちでいた。そして、お漏らししたり、汚したりしても困らないようにと、オムツや着替えを重いママバッグで持ち歩いていたはずなのに、本当に必要な時には、ママバッグは手元になく網棚に置き去りにされそのまま旅していた。

 

娘は濡れたズボン、下着を脱がされて、ブカブカのTシャツに包まれて、濡れた靴でおばあちゃんに手を引かれてタクシーへ。ごめんよ、娘。あとは母に任せた。

私のアホ、バカっ!

 

安心したのもつかの間で、電車に飛び乗る。ようやく藤沢駅に着いて、事務室へ向かう。机の上にパープルのバッグを見ると安堵した。やっと出会えたと。しかし長かった。行きもだけど帰りの乗車時間の長さよ。そして、とてもさびしくもあった、娘がいないのに子供用着替えとオムツだけ抱えた私。

 

駅につくと、慌ててタクシーに乗る。

実家につくと、お風呂上がりの娘がブカブカのおばあちゃんのパジャマで夕飯を食べていた。煮魚のいい香りがした。娘は「おさかな、おさかな」と白いご飯につゆをかけてもらい一緒にパクパク食べている。「ばあばのおさかな美味しい」

お漏らししたことなどすっかり忘れてご飯に夢中だ。

 

「今日、ママ、ドジしちゃったなあ、ごめんね」

娘はお風呂でさっぱりしたのか、ニヤリと笑って、たいして気にもとめずご飯をおかわりしている。

「長旅ご苦労様」と笑う母。

私も空腹で、久しぶりの母のカレイの煮付けが胃に心に沁みた。作ってくれたご飯の美味しさよ。

 

あれから十年以上経って、今度は、私は父のオムツを買っていた。転倒して、骨折、入院、手術を経て、退院とリハビリ、そしてついには家での介助が必要になった。ギリギリ一人でトイレは行けるようにはなったけれど、夜間や外出用には間に合わないかもしれないからと、しぶしぶオムツを受け入れた父。

 

男性ゆえプライドがある。娘にお願いするのは嫌だったと思う。私もなるべく事務的に、恥ずかしさよりも、日々の快適さと、安心を第一にしようと話し方を工夫した。オムツと言わずにリハビリパンツとか、尿取りパットとか。外出時には一枚もって行くとか、子供と同じような配慮までし始めていた。

 

そして、何より子供のかわいいオムツと違って大人用は大きい、かさばる。さらには、介護度によって、パンツタイプからテープへと変化するのも店頭で買うようになって学んだことだ。テープタイプからパンツタイプへと変化する赤ちゃんと逆になっている。

 

外出する時と夜間はオムツが安心だ。それは、私はすでに子供で学んでいた。外出先では何が起こるかわからない。子供の場合、急にお腹が痛くなることもある。またドジなママがうっかり置き忘れをして、アタフタしてしまいトイレに連れて行くタイミングを逃してしまうかもしれない。そう、トイレに行きたい時にすぐ行けない人は、大人も子供もみな安心のためにオムツなのだ。

 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「天狼院カフェSHIBUYA」

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先 レイヤードヒサヤオオドオリパーク(ZONE1)
TEL:052-211-9791/FAX:052-211-9792
営業時間:10:00〜20:00

■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-18-17 ENOTOKI 2F
TEL:0466-52-7387
営業時間:
平日(木曜定休日) 10:00〜18:00/土日祝 10:00~19:00


 

 


2025-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事