「人生最後の自分磨きも、悪くないなあ。人生は、いくつからでも変われる」 〜68歳、紳士への第一歩〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤原 宏輝(ライティング・ゼミ5月コース)
「はい、背中が曲がっていますよ。まっすぐ立って、胸を張ってください」
彼女のその一言に、68歳の男性は思わず背筋を正した。
定年退職して3年。奥様には「あなたって、なんだか野暮ったい」と言われ続けてきたが、特に気にすることもなく、自分の人生はもうこのまま終盤に向かっていくものと思っていた。
そんなある日、彼の元に飛び込んできたのは、お嬢様の結婚式。
3ヶ月後、彼はバージンロードを一緒に歩くという、大役を任されることとなった。
「この姿で歩いて、娘に恥をかかせるわけにはいかない」
それが彼の心にほんの少し、変化の種をまいた。
私はお父様に、プロトコールの先生が開講する講座
《今からでも遅くない自分磨き! 男のためのマナー講座》をご紹介した。
半信半疑ながらも彼は申込み、人生初の“自分磨き”に挑戦することとなった。
最初は、半ば疑いながらの参加だった。椅子に深く腰かけ、腕を組み、無表情で講義を聞いていた。
「立ち居振る舞い、行動が変わると、人生も変わります」
その一言が、不思議なほど彼の心にスッと入ってきたらしい。
彼は典型的な昭和男子。
スマートな仕草など気にしたこともなければ、人前で所作を意識することもなかった。
でも彼女の言葉は、押しつけではなく、優しく、心の奥に静かに届いた。
「格好良さって、自分に恥じない姿勢から生まれるのよ」
このひと言が、彼の中で眠っていた何かを、ゆっくりと目覚めさせた。
彼はその後、同世代の仲間を多く誘った。
「人生最後の自分磨きって、悪くないな」
「ラストスパートだな」
「今から、また学ぶって新鮮だ」
「よーし、ここから。第二の人生! もっと楽しむぞ」
と、和気あいあい。彼女から学ぶプロトコール教室は、どんどん進んでいった。
彼は、笑いながら「磨き続ける人生に、もう“遅い”なんて言葉はない。何歳になっても、気づいた瞬間に男は変われる」と仲間に意気揚々と語った。
そうして気づいた昭和男子たちが、今では背筋を伸ばし一歩ずつ、美しく歩きはじめている。
65際で定年なんて、人生はまだまだこれから。自分の残りの人生を、どう生きるか?
そして、3ヶ月後。
彼は、ピシッとモーニングを着こなし、白シャツにネクタイを締め、革靴を光らせていた。背筋を伸ばして、静かに会場の扉の前に立つその姿は、以前の彼とは別人のようだった。
扉が開き、優しい音楽が流れ出す。隣には、ウエディングドレスに包まれた娘がいる。
娘はふと彼を見上げて、小さな声で言った。
「お父さん……ありがとう。なんだか最近、若返ったね」
その言葉に、彼は少し照れながらも、誇らしげに笑った。バージンロードを歩くたび、娘の手に触れるたび、彼は思った。
「こんなにも誇らしい瞬間があるんだな」
娘がこれから自分の人生を歩み出す、その門出に、自分が立ち会えること。
そして、その姿をきちんと見せられることが、心から嬉しかった。
結婚式の後、プロトコールの先生と彼と、そして私の3人で食事をした。
「オレは68歳になるまで、マナーなんてオレには全然関係ない! マナーなんて。女のものだと思ってた。でも違った。しっかり勉強をさせてもらって、マナーって、人を思いやる“かたち”なんだなっ。
年齢や性別を越えて、自分を磨けるって、すごく楽しいもんだなって、気づいたよ」
彼の言葉には、心からの納得と喜びが滲んでいた。
昭和の頑固な男性が、柔らかな笑顔で「人生まだまだこれから」と語る姿は、まるで何十年も若返ったかのようだった。
彼は今、定年後の人生を仲間とともに、活き活きと新たに生き始めている。
そして最近、奥様と2人きりでレストランに出かけた。
彼は自ら奥様をエスコートし、椅子を引いて、そっと座らせた。
「誰に教わったの?」
と、奥様が嬉しそうに笑って尋ねると、
「プロに、だよ」
と、照れくさそうに答えた彼の顔は、まるで少年のようだった。
その夜、デザートのタイミングで、彼は立ち上がり、花束を手にこう言った。
「誕生日おめでとう。今までありがとう。これからも……よろしくな」
奥様は目を潤ませながら、静かに「ありがとう」と答えた。
それは、これまでの人生の中で、初めての夫からの花束だった。夫の人生で初めての“妻に対するお礼を、言葉にして伝えた感謝”だった。
「立ち居振る舞い、行動が変わると、人生も変わります」
彼女の言葉は、確かに彼の人生を変えた。これから彼は、残りの人生を紳士として生きる。
何より、長年寄り添ってくれた奥様を大切に、心を込めて。
人生はいつからでも変えられる。それを教えてくれたのは、“人を思いやる、かたち”だった。
私も周りの人たちがみんなそうだったように、昭和男子の彼が‘どうしようもなく、堅物で頑固’だったように、人は誰もがつい「まず、自分」と無意識に思い、考え、行動してしまう。
それは本来、残念な事だ。さらに、その周りの人たちが「心地よい」と思う事は少ないと感じる。
「所作には、その人の過去も未来も表れる」や「立ち居振る舞いが変わると、人生も変わります」
と彼女が教えてくれた通り‘プロトコール’とは決して、特別なものでも、難しいものでもない。
‘プロトコール’とは、人を大切にする心のこもったふるまい。なのだ……。
こうして、お1人お1人にそれぞれの笑顔の華が咲いていく様子を見ながら、私はなんだかこの先の未来が少しずつ、変化していく予感がして嬉しく思った。
≪終わり≫
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