メディアグランプリ

「なんて母親だ」と自分を責めていた——それでも私の体は、ずっと私を守っていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森昭子(ライティング・ゼミ5月コース)
  
   

   

私には長い間、母親として恥ずかしくて人に言えないことがあった。

そんなこと言ったら「なんてひどい母親だろう」ってきっと思われてしまうと感じていたからだ。

でも、体と心の関係を学んだことで、これは恥ずかしいことではなくて、むしろ新しい発見だったと思えるようになり、気持ちがずいぶん楽になった。

あれは23年前、4歳の娘が覚えたばかりの乾布摩擦の歌を歌いながら体をタオルでこすっていた。私は台所で家事をしていたのだが、ふと娘の声が途切れたので見に行くと、小さな手にタオルを握ったまま裸で畳にうつ伏せになり、動かなくなっていた。

声をかけても反応がなく、抱き上げて心臓に耳をあてると、ドクドクと音がして「生きてる……」と、ほっとして力が抜け、涙が溢れたのを覚えている。

病院で娘は難治性てんかんと診断され、その日を境に、突然襲ってくる意識消失を伴う発作に怯える暮らしが始まった。

初めての発作から何年してからだろうか。家で娘の発作が始まると、私は急速な眠気に襲われるようになり、起きていられなくなったのだ。

発作自体は3分から5分で終わり、そのあとは大抵、娘は寝てしまう。私はこのわずか5分の間に眠気に負けて寝てしまうのだ。意識では、起きてちゃんと娘を見ていなければいけないと思っているのに、どうしても起きていられなくなるのだ。

目が覚めると、娘も寝ていたり起きていたりして、娘が大変なときに自分がのんきに寝ていられるなんて、母親として恥ずかしいことだと思っていた。

それから数年後、ストレスについて体と心の両方から学んだとき、初めて私の眠気は体の防衛反応だったのかもしれないと知った。自分では全く意図していなかったし、むしろそれを恥ずかしいことだと思っていたのに、どうしても眠気に勝てなかったのは、防衛反応だったのかもしれない……。

ストレスケアの先生は

「娘さんが発作を起こしている姿を、これ以上昭子さんに見せないように、体が急速に眠気を作り出して、見ないで済むように休ませたのだと思いますよ。そうしないと昭子さんが壊れてしまうと、判断したのでしょう」とおっしゃった。

「本当ですか? 体は自分の思う通りに動くものじゃないんですか? 体にも意志があるということなんですか?」

「体は昭子さんが考えているよりずっと、昭子さんの体のことを最優先に考えていますよ」

確かに。

当時、娘が発作を起こす姿は、何度見ても慣れなくて、心臓はバクバクするし精神的にかなり疲れる。かといって見ていても何もできないし、家で発作を起こす分には危険もさほどない。

私の体、すごいじゃない!! と、これを知る前と後では、自分の体に対する認識がすっかり変わってしまった。体に任せよう、体が動かないときは動かない方がいいとき。体が痛いときは、そこを保護してほしいとき。風邪を引いた時はしっかり休むことを体が選んだときだと思えた。体と私の意識は別、もっと体を労わろうと思えるようにもなった。

ハーバード大学のザルトマン博士によれば、人間の行動や思考の95%は無意識が占めているという。

消化や呼吸、睡眠など、私たちは多くの生命活動を意識せずに行っている。体は私たちの意思とは関係なく、無意識の領域で命を守ろうと働き続けてくれているのだ。

だがしかし、これも脳の奥深くにある「脳幹」という中枢が元気であってこその働きで、ここが擦り減って疲労してくると、命の危険さえ察知できなくなってしまう。

実は心理学では「行動的な人ほどストレスを実感できない」と言われている。特に競争心が強くてせっかちな人、目標を達成する衝動の強い人などはストレスでかなり危険な状態になっても自覚できないケースが多い。

これを証明する興味深い実験があり、驚いたことがある。文部科学省の疲労研究班が行った実験で、ネズミを10日間、毎日水槽で30分泳がせて、脳の変化を観察するというものだ。(ちなみにネズミは、溺れずに30分泳ぎ続けられる動物)

結果は……、

1日目 ぐったりと眠り、長時間起きてこない。

3日目 眠る時間が短くなる。

7日目 ぐったりする様子が減ってくる。

10日目 ついに、眠ることもしなくなる——―危険。

これは泳ぎ続けることで体力がついて、寝なくてもパワー全開で泳げるようになったということではない。

ネズミたちの脳を調べてみると、脳にある、疲れを感じるセンサーが働かなくなっていたようなのだ。

つまり自分が疲れていることがわからなくなって休めなくなったということだ。疲労のマスキングである。

サラリーマンの突然死がニュースになって以来、国は「疲労」について長年研究を続けており、危険な人の特徴として「達成感のある人」を挙げている。

ここまで書いて、今の私も、ややそうなっていることを正直に告白する。

困るのは、好きなことに没頭するとなかなかやめられないということだ。

ライティングゼミに参加して毎週2000文字書く、これは心にも体にも大きな刺激だ。でもやりたいのだ。チャンピオンシップで上位に名前を載せたいのだ。「達成感」を味わいたいのだ。こんな時は、つい、体を置き去りにして、自分の意識だけで突っ走ってしまいがち。

ところで、Googleが18年も前から勤務時間中に「マインドフルネス」(瞑想)の時間を設けているのをご存知だろうか?

擦り減りそうな脳を休ませ、再び活性化することでクリエイティブな活動ができるようになると言われている。

実は、脳が元気だと「おや? なんだろう?」反応が盛んになる。つまり好奇心だ。好奇心こそクリエイティブの源。

じゃあ、どうすれば良い? ストレスの専門家として、誰でもいつでもどこでも簡単にできる脳の疲労をとる方法をお伝えしたい。私もこれで結構救われている。

それは「息を吐く」こと。深く息を吸って深く息を吐く。これだけ。

大抵、脳が擦り切れ気味の時は呼吸が浅くなっているので自分の呼吸にも意識を向けてみると良い。

それから、息を吐くと脳は「笑っている」と勘違いする。人は笑っている時は息を吐いているからだ。笑う門には福来る、も期待できる。

息を吐くことを習慣にして、脳を元気に!

そして、体が持っている無意識の感覚(本能)を最大限に活用して、仕事もプライベートも思うがままに。

そう、気づかないところで、ずっとあなたを守ってくれていたのは、“あなた自身”。 どうか、自分を信頼して、積極的に体に休息を与えてみてほしい。

私も、そう自分に言い聞かせている。 一生懸命ライティングに向き合うのと同じくらい、休息にもちゃんと向き合って、クリエイティブな自分を育てていきたいと思っている。

だから私は、今日も“深く息を吐いて”、そっと、また一歩を踏み出す。体と心を信じて。「ありがとう、私の体。あなたは、ずっとここにいてくれた。」

《終わり》

   

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2025-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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