想像できない私が想像したこと 苦手から始まる読書研究
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記事:田中優希菜(ライティング・ゼミ5月コース)
大学生になってすぐ、最初の授業で、教授が言った。
「心理学者は自分ができないことを研究する」
覚えるのが苦手な人が記憶の研究をしていたり、話すのが苦手な人がコミュニケーション研究をしていたり。
その時はピンとこなかったけれど、3回生になって卒論のテーマを考え始めると、すぐに自分も「そちら側」であったことがわかった。
*世の中には2種類の人間がいる。
文章を読んだとき、情景が浮かぶ人間と、浮かばない人間だ。
「心理学者は自分ができないことを研究する」―もちろん、私は情景が浮かばない人間の1人である。
同じ文章を読んでいても、景色が浮かんだり、キャラクターの声が聞こえたり、読書体験は人によって全く違う。それがどうして違うのか。どうやったら私にも映像が浮かぶようになるのだろう。そんなことを研究することにした。
文献を読んでいると、読書研究にはいろんな切り口があることがわかる。
私の興味のある視覚的な情報に関しては、読書中に頭を覗けないという最大の難点がある。
だから現状、「りんご」と単語を聞いたときに脳の視覚野が活性化するか(視覚担当の部位が動いている=画像が浮かんでいる!)という研究が進んでいる。
最近はアファンタジアという視覚情報が全く浮かばない人についての研究もホットトピックの1つらしい。
視覚以外にもおもしろいのは、聴覚情報の研究だ。
本を読むとき、頭の中で声が聞こえていないだろうか? 実は多くの人が無意識に音声化して文章を読んでいて、これを内的耳と呼んで研究が進んでいる。
自分の声で読み上げているという人もいれば、知らない第三者の声という人もいる。漫画や小説なんかだと、キャラクターごとにそれっぽい声が頭に浮かぶという人もいる。
飲み会でこの話をすると案外盛り上がるので、話題に困ったときには使ってみてほしい。
視覚・聴覚以外にも、匂い、味、感触が再現される人もいる。
え!? すごい!? と思うかもしれないが、ホラー小説を読んだときのぞわっとする感じや、「黒板をひっかく音」ときくと耳を塞ぎたくなるといった感覚を想像してもらうと、誰しも1度は体験したことがあるんじゃないかと思う。
映像が浮かぶか? 音が聞こえるか? 他の感覚があるか?
実はこの3つは人によって得意不得意が分かれると言われていて、VAKモデルと呼ばれることもある。
例えばのどかな自然を前にしている描写をするとき、
視覚(V)タイプは「雲一つない青空がどこまでも広がっていた」
聴覚(A)タイプは「遠くで鳥のさえずりが聞こえた」
感覚(K)タイプは「澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ」
みたいな感じで書き方が変わる。
どの描写が1番ぐっときたか? を考えると自分がイメージしやすいタイプがわかるし、人に説明するときは、相手がどういう説明だとイメージしやすいかを考えるのに役に立つ。
ちなみに私は視覚的な情報を浮かべるのが極端に苦手で、音や感覚には敏感なタイプだ。
文章を読んで情景は浮かばないが、目を閉じて音や空気感を想像するのは得意なので、おもしろい物語に触れると、物語の中にいるような感覚に入り込む楽しさがある。
*ここまで読んでくれたみなさんはお気づきだろうか。
私は元々、「どうやったら情景が浮かぶようになるのだろう?」と思って研究を始めた。
キャラクターたちが生き生きと動く様子をイメージできるようになりたかった。
だけど、私は視覚情報を浮かべるのがめっぽう苦手なタイプで、まさに情景が浮かばないほうの人間だったのだ。
この事実に気づいたのは、3回生の夏くらい。本格的に卒論を進め始めて数か月の出来事だった。ここから、私はもっと大きな「読書体験」というところに舵を切って研究を進めていった。
調べていく中で、おもしろい研究にたくさん出会った。
情景が浮かぶといっても毎回どんな文章でも映像が浮かぶわけではなく、物語世界への没入感がキーになるということ。
物語の中に入り込むような体験をすると、ワクワクするし、登場人物に共感しやすくなるし、情景も浮かびやすくなるということ。
物語は現実の世界とリンクしていて、没入して物語を読むほど、社会的なスキルが向上するなんて研究もあった。
情景を浮かべたい! という無いものねだりな目標は叶わなかったけれど、研究を通して前よりもっと読書が好きになった気がしている。
*「心理学者は自分ができないことを研究する」
もちろん全員がそうではないけれど、できないからこそ疑問に思って、研究に繋がっていくのだと思う。
苦手なことやできないことって、役に立つことがあるんだな。
そう学んで社会人になった今、会社の中で私が「わからない」と感じることは、他の人もわからないかもしれないとか、なんでわからないんだろう? と考えることで、会社の役に立てている面もあると実感している。
苦手に出会うと、誰だって少し自信がなくなる。
だけど、「どうしてできないんだろう」と立ち止まれる人だけにしか見えない道もきっとある。
苦手なことも、得意なことと同じくらい、大事に育ててあげてたら、どこかで花が咲くのかもしれないなと思って、今日も苦手とともに生きている。
≪終わり≫
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