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子育て「二巡目」は、渋谷のお天気カメラ気分で


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田美虹(ライティング・ゼミ7月コース)
  
   

   

私には、二人の娘がいる。訳あって、年が14歳離れている。

上の子は、今年22歳。大学4年生で、もうまもなく社会人になる。

下は、今年8歳。小学校2年生。こちらはすくすく成長中で、これからどんな人間になっていくのかは未知数。

 

子どもが二人なのだから、普通は下の子は「二人目」なわけだが、私は、敢えて「二巡目」と呼ぶことにしている。

生まれてから、一歳、二歳と進み、保育園や幼稚園に入り、小学生、中学生……というふうに同じように進んでいく。

季節のイベント、行事、お節句、入学、卒業……。

時代は進んでいるし、細かい仕様は変わっているが、基本的なコトはそんなに違わない。

一人の人間として通るべきところを同じように通っていく。本人たちとしては1回ずつ通っているだけだが、親は、それに伴走しているわけだから、また同じところを通る。

うちの場合は年が離れているから、二人の手を引きながら同時に進むこともない。

だから「二巡目」。

 

上の子の時は、何もかも手探りだった。

進んでいく方向は一応見えているが、その道の途中に何が待ち受けているかは、わからない。

親も、自分が通ってきた道を振り返ってみれば、何がありそうかの予測は、ある程度できる。

例えば、小学校に入ったら、勉強に気を配らないといけないな、とか、高学年になったら、友達関係の問題が生じるな、とか。中学生になったら反抗期とか、受験とか、高校生なら部活とか恋愛問題とか……。

 

結局、人は、自分が経験してきた範囲内でしかモノを考えられない生き物だから、予測する範囲には限りがある。

その「予測」に、子どもの個性が加わると、変化が生じる。予測通りの道を行かない可能性もある。道端の壁を上り始めちゃうことだってあるかもしれない。

これを「おもしろい!」と思って楽しめる親は、きっと子育てがうまくできているんだろうと思う。

 

私はというと、自分自身が割と小さいころからまじめな「優等生」タイプで、クラス委員などを任される子だったので、自分の子どもも、ある程度私の気質を受け継いでいるだろうと思っていた。

ところが長女は、口だけは達者だったけど、行動が遅めで、幼稚園のころからクラスの動きについていけない。自分の好きなことに没頭しがちで先生の指示などを聞き逃す……そんな子だった。保育参観に行くたびに「ああ、また先生の言うこと聞いてない」とハラハラ、否、もはやイライラさせられっぱなし。

 

特に行動が遅いことが気になって仕方なく、毎日のように、「他の子と同じにやってね。『普通に』ね」と言い続けていた。

小学生の時は、宿題を忘れたり忘れ物が多かったりして、「どうして『普通に』できないの!」と怒ったこともある。

 

そんなある日、長女が涙目で私に言った。

「ママ、『普通』って何よ!私だって『普通』にやろうとしてるし、やってるつもりだよ!ママの『普通』って何?私、どこまでやったら、ママの『普通』になれるのよ?」

 

長女の言葉に、ハッとさせられた。

私は、無意識のうちに、自分が思う「普通」を娘に押しつけてたんだ、と。

この子はこの子で一生懸命やっていたんだと。

自分が通ってきた道・感覚を疑いもせず、それを「普通」だと思って娘に無意識に要求している自分がいたことに、全く気付いていなかった。

 

この「普通」事件が小学校5年生くらいの時だったと思う。

ここから、私は長女を少し自分から切り離して考えるようになった。この子は、この子。

この子にはこの子の個性がある。この子の世界が存在する。それを尊重しよう。

 

そんな中、中学生になったある日、さらなる事件が起こった。

長女が不登校になってしまったのだ。

中学生になった彼女は、今まではやったことのないクラス委員にも選ばれ、小学生の時より張り切っていた。私は、やっと積極的にいろいろなことに取り組むようになったんだと内心喜んでいた。

が、5月末の運動会を終えた次の日、「学校、行かない」。

 

学校生活、いろいろあるとは思っていたけど、まさか、「行かない」?!

さすがに予想外。

それを聞いた時の私は、何か、どこかのCMで見たロボットのように、想定外すぎて「行かない」「行かない」とつぶやきながら頭がグルグル回っちゃうみたいな感じになっていた。

 

ええーーーーーー

 

その時は、何を聞いても「イヤ。嫌だから行かない」の一点張りで理由は教えてくれなかった。おそらく、本人もよくわかっていなかったんだろう。

 

不登校になった当初は、落ち着いたら行くようになるだろうと思っていた。ところが1週間経っても、10日経っても行く気配がない。さすがにこのままではこの子の人生、お先真っ暗だと思い、何とか行かせようとして、毎朝バトル。

その当時、私は転職したばかりで、会社を休むわけにも、遅刻するわけにもいかない状況。出勤の電車に乗るころには、すでにヘトヘトになっていた。仕事にも集中できない。

 

親も子も疲れ切って、ある時、思った。

これだけやってもダメなんだから、よほど強い意志で拒否しているに違いない。もう、これ以上はやめよう。これまでは、「普通に」大学まで行って、「普通に」就職して……と思っていたけど、「普通」じゃなくて、いいじゃん。死ぬわけじゃないし、何とかなるでしょ!

 

それからは、無理に学校に行かせようとするのをやめて、本人に任せることにした。幸い、担任の先生がとてもいい方で、たまに家を訪問してくれ、長女を散歩に連れ出したり話をしたりしてくださった。

結局、その後の3年間で学校に行ったのは、数回?

驚いたのは、卒業式。予行練習の日も登校して、当日ちゃんと出席したこと。

そのころには、進学する高校も決まっていたし、本人なりに気持ちが吹っ切れていたのだろうけど、3年間見守ってきた親としては、さすがにちょっと可笑しかった。

 

そんな長女も、もう大学を卒業する歳になった。

あんなにいろいろあって、中学時代からはほぼ「放置」のような育て方だったのに、今では、それなりに一般常識のある、善悪の区別もつく、自分の意思をしっかり持った人間に育った。

不思議なものである。

 

そして、今は「二巡目」。年の離れた次女は、ただただ可愛い。

「一巡目」が相当いろいろあったので、かなり免疫はついた。もう、何が来てもドン、と構えていられそうな気がしている。

言ってみれば、渋谷のスクランブル交差点の上に設置されている「お天気カメラ」から眺めているような気分である。

 

一緒に手をつないでスクランブル交差点を渡っているわけではなく、上から俯瞰して見ている。よほど危ないことをしなければ、それでいい。右に行っても左に行っても、立ち止まっても、いい。ちょっと寄り道しても、いい。そんな気分だ。

助けを求めたくなったら、ふとカメラのある方に視線を送ってくれれば、いい。

そしたら、すぐに助けに行く。

 

お天気カメラだったら、全体像が見える。もし、迷路みたいになっていたとしても、上からなら、出口を探せる。私の場合は、もう「一巡目」を終えているから、より出口を探しやすいし、場合によっては抜け道もわかるかもしれない。

 

子育て「二巡目」。

どんな道を進んでくれるのか、非常に楽しみである。お天気カメラから、見物しようと思っている。

 

***

   

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2025-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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