「自分は大丈夫」を乗り越えられるのか
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:茶谷香音(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
「自分は大丈夫だと思っていたのに、まさか私が被害にあうなんて」
中学生のときにYouTubeでみたニュースで、詐欺の被害にあった女性はそう語っていた。そして専門家やニュースキャスターは、「自分は大丈夫と思い込んでいる人ほど、詐欺の被害にあいやすい。過信しないことが重要だ」と締めくくった。コメント欄は、重罰化を望む声や、「さすがにこの詐欺は怪しいと分かる」と呆れる声で溢れていたのが印象的だった。
そのニュースをみて、詐欺を他人事だと考えていてはいけないと気づいた。私も詐欺の被害にあう可能性がある。
自分は大丈夫……じゃない。
自分でなくとも、離れて暮らしている祖父母が詐欺の被害にあうかもしれない。
自分の身は自分で守らなければ。
中学生だった私は、お小遣いの管理をきちんと行い、詐欺のニュースをみれば家族とその話をするようになった。自分を過信せず、特に詐欺については用心深く生きてきたつもりだった。
ある日、大学の授業が急に休講になり、普段は大学にいる時間に一人で家にいた。母は買い物に出かけていた。
テレビをみていると家のチャイムが鳴った。インターフォン越しに「宅急便です」と声がした。いつものようにハンコを持って外に出ると、汗だくの配達員さんが大きな荷物を持って立っていた。
「代金引換のお荷物です」
えっ、と思った。代金引換のサービスを利用したことはないし、母から荷物が届くとも聞いていない。値段を聞くと、16544円と言われた。とても高額だ。アルバイトで数日働かないと稼げない。
どうしようかと悩んでいると、配達員さんに「再配達にしましょうか?」と聞かれた。再配達を頼んだら、配達員さんにとっては二度手間だ。母にも、受け取っておいてよと不満を言われるかもしれない。私はあわてて、自分の財布から代金を支払った。
配達員さんにお礼を言ってドアを閉めた途端、急に不安になった。お金を払ってしまって、良かったのだろうか……?
荷物の送り主は知らない企業だった。そのことが、さらに不安を煽った。震える手で、急いで母に電話をかけたが、繋がらない。そのままスマホで「代金引換」と「詐欺」のキーワードで検索をした。すると、偽物が代金引換で届くという詐欺への注意喚起が目に入った。
ああ、騙された……。
数分後に母が買い物から帰宅し、私は代金引換の荷物を受け取ってしまったことを話した。母はケロッとした顔で、「それそれ、母さんが注文した荷物」と言った。詐欺ではなかった。荷物が想定外に早く届けられたことで、母は代金引換の荷物が届くことを共有できなかったという。そんなに早く荷物を届けてくれるなんて、配達員さんはやはり偉大だ。良かった……。
私は絶望した。詐欺ではなかったので、お金は無駄にならなかった。しかし、一歩間違えれば詐欺の被害者になるところだった。自分は、詐欺には気を付けていたはずなのに。
この出来事は、とても衝撃的だった。私は、自分があっさりと知らない代金引換の荷物を受け取ってしまったことにショックを受けた。そして、昔ニュースで観た女性と同じように、こう思った。
まさか、私が。
詐欺被害にあわないためには自衛が大切だ。自分の身は自分で守る。自分は、「自分は大丈夫」と信じて詐欺の被害にあったあのニュースの女性とは違う。まさか、私が、詐欺の被害にあうわけがない……。
結局、私は「自分は大丈夫」から抜け出せていなかったのだ。「自分は大丈夫」の危険性を知っていたのに、危機感ももっていたのに。心のどこかで、気を付けてさえいれば、「自分は大丈夫」だと思っていた。
私が代金引換の荷物を受け取った場面で、「受け取っちゃダメでしょ」と呆れた人にこそききたい。
あなたは本当に「大丈夫」?
用心していたとしても、人間はいつでも合理的な判断を下せるわけではない。どれほどの人が、何気ない日常の場面で、とっさに詐欺の被害にあうリスクを想定できるだろうか。もちろん、日頃から代金引換を悪用した詐欺を想定していれば、「詐欺かもしれない」と立ち止まることができるかもしれない。しかし、詐欺は年々巧妙化する。さらに、日常に潜むリスクは詐欺だけではない。それらすべてのリスクに対して日頃から用心し、いざという時に冷静に判断することはできない。私たちは皆、同じように、さまざまなリスクを抱えて日常を生きている。
「自分は大丈夫」という信念から抜け出すことは難しい。そのような自分の誤った信念の存在に気づき、どのようにリスクを最小限に抑えるかを常に考え続けなければならない。
確かなことは、どのような場合においても、決して、被害者が「自衛が足りない」と責められるべきではない。
昨日、来月の旅行にむけた準備を進めた。自分の貯金と相談しながら、交通手段と宿泊先を調べた。来月までに詐欺の被害にあって旅行に行けなくなる可能性なんて、微塵も考えていない。
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