メディアグランプリ

私の読書の正解—お作法よりもムフフ優先


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:キャサリン.(ライティング・ゼミ7月コース)

本好きにも、いろんなタイプがいる。活字そのものが好きな人、物語が好きな人、知識を得るのが好きな人。

私の場合はというと、「モノ」としての本に愛着を持っている。だから内容以前に、儀式のように本を撫でまわすクセがある。目と手、時には鼻まで使って、表紙、レイアウト、配色、紙質……それらを縦から横から、ナナメから。気づけばもう、やってしまっている。つまり私は、「ブックデザイン」という目線でその本の全体像を愛でているのだ。目次を眺めたり、内容に入るのはその後だ。

小学校のころは、図書室が学校の中で1番好きな場所だった。借りた本は図書室の静けさをまとっているようで心地よかった。昼休みを迎えた、笑い声と椅子のきしみが入り混じるカオスな教室の中でも、本を開けば図書室にワープできた。

表紙にエンボス加工や箔押しが施されている本は、そのうっすらとした段差を繰り返しなぞってしまうし、その国の香りを吸い取ってきたような洋書は何度深呼吸しても楽しい。

じゃあ文庫本は楽しみが少ないのかというと、そんなことはない。あの機能性の高さこそ愛おしい。小さくて軽く、柔らかさが手に馴染んで心地よい。いつも鞄の中で、私が手に取るのをただただ待っていてくれる健気さもたまらない。

そんな私の読書はこれまで、「モノ」としての姿形を変えたくないばかりに、ページの端を折ることも、線を引くことも御法度だった。そんな風に本を”消費”するなんて考えられなかった。付箋を使えばいいし、好きな箇所は手帳やノートに書き写せばいい。

けれどいつからか、そんな作法に従う自分を、少し億劫に感じるようになった。素敵な本に出会って夢中で読み進めたいのに、付箋を持ち合わせていなくて中断する。外で読もうとすると、付箋、筆記用具、ノート……読む以外の荷物で、決して少ないとはいえない私の荷物がまた増える。私は一体、本を読みたい人なのか、それとも本を綺麗に保ちたい人なのか。実際はどちらでもあるけれど、私は「純粋に本を読みたい人」でいることを選んだ。

お気に入りの本を綺麗に保つことはうれしい。けれどそれは、自分より本を上に置き、優先してしまっている状態ではないか。そういえば読書に限らず私はそういう傾向が強い。自分の希望より相手の希望を優先する。自分の望みよりタスクを優先する。自分の考えより本の内容を上位に置く。そうして私は、いつも簡単に自分を引っ込めては端に追いやってきたのかもしれない。

……ごめんね、わたし。これからはあなたはいつも真ん中にいていい。だってあなたの大切な人生だもの。

今世は一度きり。折り返し地点をとっくに過ぎているのだから、残りの時間くらいはいつも真ん中にいたい。少なくとも読書の時くらいは。もしかしたら私は、好きな本に出会うたび、本に自分の気配が紛れ混むのが嫌だったのかもしれない。そんなの、本を崇めすぎだ。

今をときめく書評家・三宅香帆さんの本に、こう書いてあった。

「私にとって、読書は、戦いです。」

本×三宅香帆=戦い=書評、ということだ。彼女の読書はもちろん「自分が真ん中」にいる。だからこそ戦える。自分と本が同等だからこそ、戦いとして成り立つ。ただし、戦いゆえに負けることもあり、本に引っ張られることもあるらしい。それもまた、読書の醍醐味だ。

最近の私は、「戦い」とまではいかないが、本と自分がコラボしているような感覚で読むようになった。好きなフレーズのあるページは容赦なく端を折る。こないだ読んだ吉本ばななさんの本は、折りすぎて本の左上だけがブワッと膨らんでしまった。いびつな形になったその本を見て、心の中でムフフ、と不敵に笑ってしまう。

ページを折るのは、ほんの数秒の動作だ。新しく手に入れた本のページを初めて折るとき、心の中でひと呼吸ぶんのせめぎ合いがある。けれど、折り目をつけた瞬間に訪れる「この本はもう私のものだ」という感覚は、何度味わっても爽快だ。

だって、この本を未来の私が開くとき、きっと自分の変化や成長を感じられるのだから。

再読のときは、いっぱい線を引こうと思っている。付箋もノートも手放し、ペン1本で自由に本に没頭する。好きな本であればあるほど、私の気配が隅々まで行き渡る。その本と今の私の感性が、どこで響きあったのかが刻まれる。好きなページ、好きなフレーズ、なんとなく気になるテーマ……久しぶりに開いた本でも、すぐに思い出せる、過去の私の価値観。

きっとこれからも、本の端はどんどん折れていくでしょう。

だって――お作法よりも、ムフフを優先しますもの。

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2025-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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