ナビしてゴメン
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川戸恵子(ライティングゼミ7月コース)
『ウドちゃんの 旅してゴメン』という番組があったが,私の場合,「ナビしてゴメン」である。
カーナビなどなかった時代,旅行に車で行く時は,あらかじめ地図帳で道を調べておくものだった(夫が)。インターネットを使うようになると,最寄りの高速道の乗り口から目的地までの地図を印刷しておいて,それを見て前日までに道順を頭に入れておいた(くどいけれど夫が)。
とはいえ,夫とて頭に道のすべてが入っているわけではない。だいたいの方向と主要道路,地名などを覚えているくらいだろう。という何様目線はさておき。
当然,運転中の夫から,指令が出る。
「〇〇までの道,ナビして」
あわあわと,地図を見る私。〇〇はどこだ。あった。
しかし,気づく。 今,どこ? どの道を走っているの?
そのあたりの戸惑いを夫が察知したのだろう。
「今●●あたりを走っとる。そこからの道見て。」
私は●●を探し,〇〇への道をたどる。その間にも車は進む。
「まだ?」
と夫から催促。
「ちょっと待って」
急かされるとよけいにわからなくなるやん! とは,声に出して言わない。
何とか,現在地と目的地がつながる。
しかし遅かった……。
「あ,今の交差点,左折やった……」
ナビしてゴメン。である。
当時,『地図が読めない女 話を聞かない男』という本がベストセラーになっていた。
男女の脳の構造の違いを説いていると聞いて,読んでもいないのに私は妙に納得したものだった。
でも待てよ,と,子どもの頃を思い出す。家族旅行の時,母が助手席で地図帳を見ながら,運転する父に道順を教えていたはず。
たしかその時,母になぜすっと道が分かるのかと聞いたら,ああいうことは「慣れ」だと言われたのを覚えている。
もちろん,私が子どもの頃だから今から半世紀も前,走る車も多くはなかったし,地図も道路も今ほど複雑ではなかったと思う。
だとしても,地図が読めるかどうかというのは性別とか脳の構造とかいう問題ではなく,きっと人それぞれなのだろう。
つまり,「私」が,「地図が読めない」のだ。
それでも,何度か苦境に立つ(夫に迷惑をかけている)うちに,わかってきたことがある。目的地〇〇という「点」だけを見ていても,だめだということだ。
道路の上に掲げられている案内板に,〇〇が表示されているとは限らない。だから,〇〇までの途中の地名(できれば複数)や,〇〇のさらに先の地名(それもやはり複数)を知っておく。そして,それらの「点」と「点」とを繋いで「線」として捉えておくことが大切。
そう学習した私は,やっと少しはマシなナビができるようになった。まあ,「慣れて」きたとも言えるだろう。
しかし,である。
カーナビの時代が来た。
地図を見なくてもよいのである。
私も一人で出かける時には使うことがある。
とても便利。複数の行き方があると,どのルートで行きたいか選ばせてくれる。どの交差点で曲がればよいか知らせてくれるし,目印となる建物も教えてくれる。残りの距離や到着予定時刻も表示される。渋滞があることもアナウンスしてくれる。
これで私は夫の「ナビ係」から卒業できるのだ。
しかし,である。
その便利なカーナビを,夫は使わないと言う。使ったことがない。使い方を知ろうとすらしない。使わないのだから覚える必要はない,と言う。
ということで,夫の車のカーナビは眠ったままだ。私も操作したことがない。
夫の運転で出かけるとき使うのは,今でもネットで調べて印刷しておいた地図。
結局,私は「ナビ係」のままである。
時々道がわからなくなって,スマホで調べようかと聞いてみるが,夫は,
「それは最終手段にしとく」
と,のたまう。
スマホに頼ったら「負け」とでも思っているふしがある。
でもきっと,意地なのだろう。世の中が便利だとありがたがっている物になんか,誰が頼ってやるもんか,という意地。
私もそれ、なんとなくわかる気がするから。
手軽で便利なものは楽である反面,マイナスもあると思う。人間が本来持っている能力,長年かけて培ってつけてきた力を奪っていくような気がするのだ。
地図を読む力もその一つなんだろう,多分。
「手軽」「便利」「コスパ」などがもてはやされる時代。昭和ど真ん中に育った私たち夫婦は,技術の進歩や社会の変化に戸惑い,押し寄せてくるその流れに少しだけは逆らいたいと思っているのかもしれない。
だが,私たちはもう地図帳を車に積まなくなった。
それは,つまりスマホに依存し出したということではないだろうか。わからなければその時スマホで調べればいいと,「便利さ」の方を選んだのだ。なんたることか。
しかし,である。
実をいうと,私はスマホの経路案内を使うのがあまり好きではない。電車で出かけ,降り
た駅から目的の場所まで使うことがあるが,2分の1の確率で失敗する。
スマホの地図は地図帳より小さく,老眼には厳しい。拡大すれば目的地が分かりにくくな
る。よくわからないのが,スマホを動かすと画面までぐるぐる動くことがある時。どちらに向かえばいいのか混乱する。実はこの前,地下鉄を降りて名古屋の天狼院書店さんまで歩く時も,逆方向に向かって歩き出すところだった。危ない,危ない。
だから自分から提案しておきながら,夫からスマホで調べてと頼まれると,ドキッとする。
先日,片道4車線ぐらいの道路を走っていた時のこと。バイパスに乗るのか下の側道に入るのかよくわからない,という状況があったので,仕方なく,スマホで調べ始めた。
しかし案の定,すぐにはわからない。
「もうええわ,いったん側道に入るから」
と夫。その後でわかった。
「あ,バイパスに行くんやった……」
いや,ほんとうに,「ナビしてゴメン」です……。
***
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