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傘をさすなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩田 佑子(ライティング特講)

朝は晴れていたのに、気づけば空には厚い雲が広がり、ポツポツと雨が降り始める。春のにわか雨のように、突然で短いけれど、体は意外にも冷たくなっている。そんな時、あなたの傘はどこにあるだろう。

 

人生には、思いがけず雨が降る日がある。体調がすぐれない日、心が落ち込む日、誰かとの関係に疲れてしまう日。空は晴れていたはずなのに、気づけば冷たい雨に打たれている。そんなとき傘があるかないかで、心と体の受けるダメージは大きく変わるものだ。

 

私も、かつては傘を持たずに走り続けていた。慣れない仕事で無理をして体が思うように動かなくなり、同僚や友人との関係がぎくしゃくして心がすり減り、さらに家族のもめごとまで重なり、心の中は雨でいっぱいになった。そのころの私は、「ちょっと濡れたって、走れば大丈夫」と思っていた。でも本当は、大丈夫どころか、どんどん弱って疲れがたまっていた。

 

そんな私を少しずつ助けてくれたのは、大きな決断や特別なことではなかった。ただの「小さなセルフケア」だった。仕事帰りにカフェに寄り、一杯のホットコーヒーをゆっくりと味わった。春の雨の匂いが、コーヒーの香りと重なり、体の奥まで染み込むようだった。夜はスマホを置いて、湯船に好きな入浴剤を入れ芯から温まった。湯気が立ち上る中で、手先や足先の冷たさがふっと溶けていく感覚があった。またとある日は「今日もよく頑張ったね」と自分に声をかけた。ほんのささいなことだったけれど、その積み重ねは、やがて雨の中で開く小さな傘になっていった。

 

傘を持っていても雨は止まなかった。でも不思議なことに、「この傘があるから大丈夫」と思えるようになった。冷たさは和らぎ、足取りが少し軽くなった。傘が守ってくれる安心感が、心と体に回復する余地を作ってくれたように思う。

 

セルフケアを続けてみて、私が気づいたことは「自分の引き出しが増えた」ということだった。毎日の生活をどうにか続けるためにやっていたセルフケアだったけれど、それは同時に、誰かに手を差し伸べる方法として私の中に少しずつ増えていった。悲しいとき、つらいとき、落ち込んで会社に行きたくないとき、誰にも理解されないと感じるとき。助けを必要とする人が居たときに、私は寄り添う方法を持つことが出来た。これは自分が体験してみないと分からなかったことだった。そして、時によって人によって、求められるものは違うことにも気づいた。楽しい時間で気持ちを吹っ切れる人もいれば、ただそばにいてほしいときもある。その違いを感じながら、少しずつ「癒しを届ける人」になりたいとも思った。

 

けれど、いつも上手くいくわけではなかった。気持ちを和らげるつもりが、余計な苦労や不快感を増やすこともあった。だけどそのころには笑いながら、「完璧じゃなくてもいい」と思えるようになっていた。

 

雨は容赦なく降るけれど、傘の差し方を工夫するだけでも、心は少し守られるのだと感じた。たまにその雨が上がると、秋のしとしと雨の後のように、空気は澄んで清々しく遠くには薄く虹がかかり、光が葉っぱの上の水滴に反射してキラキラと輝く。そんな風に疲れや心のモヤモヤも、少しずつ洗い流されていくように感じた。

 

自分を守る傘を持つことで、いつのまにか私は自然と他の人にも優しくなれた。そのことが周りに良い影響を与えて、お互いに安心できる環境ができ、自分自身のパフォーマンスも上がっていった。家族との関係も少しずつ良くなり、助け合える状況が生まれ、感謝や労いを伝え合える関係ができていったように思う。

 

セルフケアというと、特別なことをしなければならないと思う人もいるのかもしれない。でも実際は、普段からカバンに入れておける折り畳み傘のように、気軽で小さなことで十分だった。疲れたら深呼吸をひとつする、頑張った自分を「よくやってるね」と褒める、好きな音楽を聴いて気分を切り替える。それだけでも、心と体は少し守られる。

 

傘を広げることは、自分を守るためだけじゃなく、誰かの傘を広げる助けにもなるのだ。

 

今日、あなたの傘はどんな形をしているだろう。

自分に合うセルフケア、それは深呼吸かもしれない。お気に入りのハーブティーかもしれない。あるいは、誰かに「ちょっと話を聞いてもらえる?」と声をかけることかもしれない。

その傘を開いてあげるだけできっと、世界の見え方は変わっていくように思う。

 

 

 

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2025-08-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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