情報の海で浮かび上がってお茶を飲む
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:及川佳織(ライティング・ゼミ7月コース)
気づけば、一日中、情報におぼれて生きている。スマホを開けばニュースやSNSの投稿が流れ込む。街には無数の広告や告知が貼られ、店に入るとお勧めを知らせる放送が続く。仕事や暮らしを成り立たせるためには、情報収集は必要だ。けれど、よく考えると、本当に自分が必要とする情報って、ごくわずかなんじゃないか。スマホやタブレットを開くのは、もう惰性だ。でも気づけば指先が終わることなく画面をなぞり、更新ボタンを押している。これは「必要な情報を得る」ためではなく、「情報に触れ続ける」ためにやっているにすぎない。
こうした状況に疑問を持たなくなったのは、そもそもテレビじゃないかと思う。物心ついたころから、家では常にテレビがつけられていた。ニュースやバラエティ、ドラマやワイドショー。最初は貴重な娯楽だったはずなのに、必要かどうかを考える前に癖でスイッチをオンにするようになった。そんな習慣がそのまま、スマホやタブレットに引き継がれていて、テレビがついているのと同じようにSNSや動画が目に入らないと落ち着かなくなっている。
受け取る情報は、デジタルだけではない。たまにスマホを切ってみても、家の中では案外たくさんの情報にさらされる。洗面所に行けば洗濯機にたくさんの服が放り込まれている。足元を見ると、フローリングの汚れがそろそろ掃除の時期だと知らせてくる。クローゼットでは古びた服が「そろそろ処分した方がいい」と言っている。それも立派な情報だ。さらに、ネット通販のカタログが目に入り、いったんサイトを見てからカタログを処分しようとパソコンを開くと、思いもかけなかった商品まで気になり出す。こうして、いつもの情報の渦に巻き込まれていくのだ。
私には、忘れられない体験がある。数年前、海外の友人を訪ねたときのことだ。街を一緒に歩き、夕方に彼女の家へ戻ると、彼女はお茶をいれてくれた。ソファに並んで座り、湯気の立つカップを手にする。テレビはつけず、音楽も流さず、スマホはバッグに入れたまま。歩き疲れたのもあって、言葉も少なく、ただ時間が流れていった。久しぶりに会って話もたくさんあったはずなのに、何も話さず、ただ一緒にいた、あの「透明な時間」が、鮮明に心に残っている。音も情報も遮断された空白のようなひとときは、驚くほど豊かだった。あの時間を再現したいと思うのだが、なかなかうまくいかない。なぜ彼女は、あんなにも自然に、当たり前のように何もない時間を作り出せたのだろう。なぜ私にはそれができないのだろう。
それは、私が「聞こえてくるもの」に神経質なのも理由だろう。何か作業をする時にラジオを流していると、気づけば耳がそちらに引き寄せられ、内容を理解しようとして手が止まってしまう。オーディオブックも試してみたが、朗読者の声色や抑揚が余計な情報に感じられて落ち着かない。やはり文字だけの読書の方がニュートラルで、頭にすっと入ってくる。音楽も同じだ。歌詞のない音楽ならいいと思ったが、知っている曲だとついメロディを追いかけてしまい、気持ちが休まらない。かつてクラシックに夢中になって、たくさん聴いていたせいで、有名曲は聞き流すことができない。
今年、仕事の都合で一人暮らしを始めることになったのだが、まず決めたのがテレビを買わないことだった。デジタルデトックスを実現するには、まず「アクセスできない状態」をつくるのが一番である。スマホのトップ画面からはYouTubeやX、Instagramを消し、通知もなるべく鳴らさない。無意識に開いてしまう扉を、物理的に閉ざしてしまうのである。
仕事をしている平日はしかたないけれど、用事のない週末は、短くてもいいからあの「透明な時間」をすごしたい。だから、土曜日はあえて1日中家事をする。買い物をして作り置きの料理をつくり、掃除や洗濯を終わらせる。パソコンを開いて様々な返信やら、書類づくりやらを片付ける。平日にできずにたまっていたことを片づけると、視界がすっきりし、頭の中も驚くほど軽くなる。
そして日曜日は、情報の波を避けてひきこもるのである。本を読み、静かな音楽を聴き、ぼんやりと過ごす。頭をからっぽにすると、思い出や最近気になったこと、行ってみたい場所などがふっと浮かんでくる。そして、浮かんだことをノートやブログに書き留める。私が文章を書くのは、頭の中がまったく白紙になってからのようだ。
さあ、今日は日曜日だ。家事は昨日のうちにすませた。なかなか進んでいない読みかけの本を読もう。読み疲れたら先日の中国旅行で買ったジャスミン茶を飲もう。外のわずかなノイズしか聞こえない、何もしない時間を過ごそう。
***
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