酒はときどきうそをつくが、練習はうそをつかない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:YokoKita(ライティング・ゼミ7月コース)
「あら、今日はとてもよくできていますよ」
「動きもなめらかでキレイですね」
日頃あまり褒めてくれることのない太極拳の先生が、目を細めながら、めずらしくお褒めの言葉をかけてくださった。
(え!? そ、そうなんだ……)
いつもなら嬉しくてニヤニヤしてしまうところなのだが、今日に限ってはややフクザツな気分である。
と、言うのも、今日のレッスンが始まる数時間前、友人とのランチでたんまりとビールを飲んでしまったのだ。「昼間からアルコール」という心地よい背徳感にプッシュされ、この後に太極拳のレッスンがあることを時折思い出しつつも、ついつい飲み過ぎてしまった。
が、レッスンが始まるのは18時。それまでにはなんとか酔いも抜けるだろうと踏んでいた、のだが……、抜けなかった。顔つきだけはシラフな感じだが、なんだか頭はぼんやりとして、眠気も少し感じていた。正直に言えば最初からあまり集中できておらず、なんとなくフワフワした感覚で動いていたのだ。
(今日のレッスンは悪目立ちしないように、粛々とこなそう)
と、思っていたのに、褒められた。めったにそんなことないのに! ……なんでだろう。
他の生徒の皆さまには、厳しいアドバイスを(いつものように)しているところを見ると、たまたま今日は先生のご機嫌が良い、ということでもなさそうだ。
まさか私の技量が急激に伸びて上達した、ということでも、もちろんなさそうだ。(その証拠に、翌週のレッスンではやはりいつものように、キビシいご指摘を受けてしまった)
後から振り返ってその理由を探ってみると、思い当たるのは、ただ一つ。“(昼間に飲んだ、いや、飲み過ぎた)ビール、つまり酒の力”。
この時、私は太極拳を習い始めてすでに5、6年経っていて、一通りの動きは出来るようになっていた。もともと運動好きだから、自分でもある程度動けていると感じていた。
が、しかし、この“決して上手くはないが、ある程度は動けるようになった”、という時期に生じてくるのが、“無駄な動き”だ。
厄介なことに、この無駄な動きは心身両面から発せられてしまう。身体の動きとしては、“無駄に”大きな動きになったり、“無駄に”手足に力を入れようとしてしまったりする。そして心の動きとしては、“周りに良く見られたい、見せたい”、“先生から褒めてもらいたい”、“上手くなったと認めてもらいたい”、といった、無駄な自己顕示欲や、承認欲求、といったものである。
残念ながら、こう思えば思うほど、“お褒めの言葉”からは遠ざかり、むしろ、その時の自分の持っている技量を下回るような動きになってしまう。そんな無駄なことをしなければ、実はもっと上手く動けるのに、自分で自分の持っている力を削いでしまうのだ。
おそらく、この日の私は頭がぼんやりとしていたせいで、思いがけず“無駄な動き”が取れて(正確に言うならば、そんな無駄な動きをしている余裕などなく)、太極拳に求められる自然な滑らかさのある動きになっていたのだろう。
昼間からビールを飲み過ぎたおかげで(?)、図らずも普段のレッスンでは自分がいかに無駄に動いているかを知るいい機会になったのだが、とはいえ、毎度毎度そうするわけにもいかない……。酒の力など借りずに、“無欲で自然な動き”になるためには一体どうすればいいのか……。
いや、さほど大げさに考える必要はない。答えはいたって当たり前のこと。そう、ただただ、「練習」するのみ。とはいっても、その中身はそんなに単純なものではない。決して愉しくはない基本練習の繰り返しだったり、自分の限界を広げていくために苦しさやしんどい思いもしたりする。その言葉のシンプルさとは裏腹に、「練習」とはとても難しいものなのだと思う。が、「練習はうそをつかない」という言葉がある。つい先日まで行われていた高校野球でも、この言葉をスローガンに掲げているチームがあった。練習は決してうそをつかない。「練習」した分だけ、上手くなれる、力がつく、出来なかったことが出来るようになっていく。「練習」すればするほど、考えなくても身体が動くようになっていく。
スポーツに限らず、芸事や、音楽、絵画、そしてこのライティングゼミのように文章を書くことにも、もちろん当てはまるだろう。
以前、大相撲のある力士が語っていたことが印象的だった。その力士は好調に勝ち星を重ねていたのだが、前日の取組で負けてしまった。“今日は勝ちたい、なんとかして勝たなければ”、と、どうすれば勝てるかあれこれ策を練りながら、ずっと考えていたのだが、いざ取組前になったら、もう何も考えられなくて、もういいや、と考えることをやめてしまった。そうしたら、その日の取組では自然と身体が動いて、勝つことができた。「普段、稽古していることが自然と出ました」と振り返っていたのだが、まさにこれが「練習はうそをつかない」ということなのだろうと思う。
酒の力を借りると、普段言えないことが言えたり、考え過ぎていることが些細なことに思えて楽になったり、時には、身体の動きがスムーズになったり、よいことも確かにある。が、しかし、練習と違って、酒はときどきうそをつく。言わなくていいことを言ってしまったり、ちゃんと考えなければいけないことを“ま、いっか”で済ませてしまったり、スムーズな身体の動きは実力ではなかったと後から分ったり。
どんなことでも、ほんものの成果を得ようと思ったら、地道に「うそをつかない練習」を重ねていくのみだ。と、太極拳を続けながら、あるいは、こうしてライティング課題に向き合いながら、しみじみ思う。……昼間から酩酊する愉しみも、それはそれであり、として。
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