ときめきの行方
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記事:りりぃ(ライティング・ゼミ5月コース)
恋に恋していた時代から、「推し」に恋する今のわたしへ。
振り返れば、いろんな出来事のひとつひとつが、今につながっているように思います。
31歳のとき、息子と一緒に「親子テニススクール」に通い始めました。きっかけは単純でした。
夫との別居という現実の中で、息子に寂しい思いをさせたくなかったのです。
父親と離れて暮らすことになり、幼いながらに不安を抱えていた息子に「大丈夫だよ」と伝えたかったのです。
でも口先だけでは伝わりません。だからこそ、一緒に汗をかいて笑い合える時間を持ちたかった。親子で同じ方向を見ながら楽しめるものがあれば、きっと息子の心にも少しは安心が届くのではないかと思ったのです。
土曜の午後のテニスコート。
青空の下、ラケットを振る息子の笑顔を見ると、「来てよかった」と心から思えました。
小さな体で必死にボールを追いかける姿に、わたし自身も励まされていました。
生活の大半を仕事と子育てに費やす日々の中で、あの時間だけは親子で「ただ楽しい」気持ちを共有できたように思います。
ところが、そんな矢先でした。
練習中の一瞬の動きで、突然アキレス腱が切れてしまったのです。
鈍い音と激痛。
立ち上がれないわたしを見て、コートの端で心配そうにこちらを見ていた息子の表情は、今でも忘れられません。
救急指定病院に連れて行かれ、手術が決まり、入院生活が始まりました。
けれど病室に見舞いに来る大人はいませんでした。
実家は遠く、実家の姉は息子を迎えにきてくれ、最低限の入院に必要なものをもってきてくれたけれど、別居の際に引越しをしていたので、近くに知人もなく、頼れる人はいなくて、手術も入院もすべて一人で乗り越えるしかなかったのです。
消灯後の静まり返った病室で、点滴の機械音だけが響く中、「どうしてこんなに孤独なんだろう」と涙がにじんできました。
息子に心配をかけまいと明るく振る舞いながら、実際は自分自身が誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらいたかったのかもしれません。
でも、この時の経験こそが、後にわたしを助ける強さに成長させたとも言えます。
退院後は実家に頼らざるを得ず、息子とともに姉家族のもとへ身を寄せました。
ようやくギプスが外れ、これからリハビリだと前を向いたその日に、松葉杖を滑らせて転倒。手術したばかりのアキレス腱を再び断裂してしまいました。
二度目の手術は、膝裏の腱を移植する大がかりなものとなり、ギプスは太ももまで固定、入院は一か月半に及び、リハビリも半年続きました。
「このままではいけない」
子どもに寂しい思いをさせてしまった悔しさ、そして自分の無力感。その両方が、わたしに離婚を決意させたのです。
立ち止まるのではなく、ここから立て直して生きていこうと、ようやく心が定まりました。
実家には姉家族が同居してきたので、わたしたち隣町にアパートを借りました。
シングルマザーの暮らしは決して簡単ではありませんでした。
それでも不思議なことに、そんなわたしを支えたのはまた「恋」だったのです。恋は痛みを一瞬忘れさせるけれど、同時に新しい切なさも運んでくる。
振り返れば、わたしはずっと「恋に恋していた」のだと思います。学生の頃は、好きな人がいること自体に酔っていました。相手を深く知るよりも、「好き」と言える自分に夢中だったのです。大人になってからも、その延長のような恋を繰り返し、気づけば心が置いてきぼりになっていたこともありました。
その時は本気で大好きだった思いの幾つかの恋愛をして、最後の恋から6年の時が経ち、その間年齢を重ね、また命に関わる大きな病を経験して思うのは、1番大切なのは、「生きていくこと」だと思うようになりました。
恋愛しなくても生きていけるけれど、重い病気になったら生きていけないこともあるということ。
そこから『日々』を大切に思うようになっていきました。
日々の中にある小さな幸せを感じられるようにしたい。
明日が来ることは幸せなことなのだと忘れずにいようと。
そして、ときめきは恋愛だけだはなくて、他のことでも感じられると。
そこで出会ったのが「推し」でした。
好きな作家、好きなアーティスト、好きな物。
好きが高じて、推し活に繋がって行くことで、楽しいが枝葉を広げていき、更に楽しくなる。
推し活は片思いではなくて両思い、そうWinWinなのだと。
今のわたしは「恋に恋する」のではなく、「ときめきに恋している」のだと思います。
推し活を通して、日常の小さな希望や喜びに敏感になりました。
息子と一緒に笑い合ったテニスコートでの思い出も、その延長線上にある「生きるためのときめき」だったのかもしれません。
あの日の孤独や痛みは、決して消えることはありません。
けれど、それを経験したからこそ、「誰かに共感できる自分」になれたように感じています。恋に恋していたあの頃のわたしに、今ならこう伝えられます。
「ときめきは、人を前に進ませる力になるよ」
そして今は、自分自身も推しを見つめるひとりの女性として、前を向いています。
孤独や寂しさの中でも、希望の火を絶やさないでいられるのは、あの31歳の親子テニスから始まった小さな挑戦のおかげなのかもしれません。
きっとこれからも
たくさんのときめきに出会い、感じていけると……
***
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