メディアグランプリ

平成生まれが“昭和は良かった”に共感する日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塩田 健詞(ライティング・ゼミ5月コース)

 

 

「今日の東京・原宿です。白いルーズソックスを履いています」

「えー、何か、インスタでかわいいなと思って」

「結構周りの子も、ちょこちょこたまにルーズソックス履いてたりしている。普通の靴下は寂しい。ボリュームが出てアクセントになる」

 

朝食の納豆をかき混ぜながら、何気なく観ていたテレビのニュースに手が止まった。

「なぜ今さらルーズソックスが流行っているんだ?」

 

そう思ったのは、報道が出る少し前に、街で偶然ルーズソックス姿の女子高生を見かけていたからだ。

「あぁ、昔流行ったものを身につけて個性を出したいのかな」

その程度に考えて気にも留めなかった。だが、テレビで“社会現象”として取り上げられると、話は別だ。

ルーズソックスに限らず、平成を象徴するアイテムが次々と再評価されている。学生カバンへの落書き、プリクラ、写ルンです……。さらに2025年8月には、たまごっちが累計出荷1億個を突破したというニュースもあった。

「もう29歳になるけれど、どれも自分がリアルタイムで触れてきたものだ」

それが今“レトロ”と呼ばれているのだから、妙な気分になる。

 

また別の日、YouTubeでこんな動画を見つけた。

「ORANGE RANGE – イケナイ太陽 (令和ver. Music Video)」

令和verと銘打ちながら、映像は平成を代表するカルチャーで埋め尽くされていた。新垣結衣のポッキーCM、ドラマ『ごくせん』、GReeeeN『愛唄』、そしてハンカチ王子。2025年7月の公開からわずか1か月で1800万再生を超えている。

 

コメント欄には、

「致死量の平成を浴びました」

「これ、もう歴史の教科書だろ」

といった声が並んでいた。思わず笑ってしまったが、同時に考え込んだ。視聴者は平成世代だけではない。今の若者も、この“平成の洪水”を楽しんでいるのではないか。

 

なぜ、若者に刺さるのか。

私なりに理由を整理してみた。

 

ひとつには、SNSの存在が大きいだろう。インフルエンサーが「昔のもの」を掘り起こせば、瞬く間に流行が拡散する。ルーズソックスも、プリクラも、いったん映える素材として認知されれば、再び脚光を浴びるのは自然なことだ。

もうひとつは、家庭の中での伝達だ。コロナ禍以降、家族と過ごす時間が増えたことで「お母さんの昔の写真を見せてもらって真似した」という声もよく聞く。親世代の“かわいい”や“かっこいい”が、世代を超えて共有され始めている。

また、忘れてはならないのは、社会全体の空気感だ。物価高や将来への不安がつきまとう令和の時代だからこそ、平成の「明るく、無邪気で、勢いのあった空気」に憧れを抱くのかもしれない。過去を懐かしむだけでなく、“知らないはずの過去”を新鮮に感じられることもまた、若者が平成に惹かれる理由だろう。

そしてふと気づいた。

「平成は良かったな」

こんな言葉を自分の口から発する日が来るとは思ってもみなかった。

実際に写ルンですを持ち歩き、ゲームキューブに夢中になり、卒業アルバムに将来の夢を書いていたあの頃。そこには、SNSに振り回されず、ただ目の前の楽しさに夢中になっていた自分がいた。

「平成のドラマは面白かった」

「放課後にプリクラを撮って笑い合ったのは最高だった」

そうした記憶を辿ると、良くも悪くも“擦れていない自分”がそこにいる。

今の若者が平成カルチャーを楽しむ姿に羨ましさを覚えるのは、彼らがその「素直さ」をまとっているように見えるからかもしれない。私自身、いつしか効率や成果ばかりを意識し、心の余白をなくしていたのだと気づかされる。

「昔は良かった」という感情は、決して年配者だけの専売特許ではない。誰にでも、自分の原点となる「無垢な時期」がある。その頃に触れたものは、時を経ても輝きを放ち続ける。だからこそ過去を振り返ることは、今をより良く生きるためのヒントになる。

平成生まれの私が「昭和は良かった」という感覚に共感してしまうのも不思議ではない。大切なのは、“昔に戻る”ことではなく、“昔を通じて今の自分を見直す”ことなのだ。過去のカルチャーや記憶は、単なるノスタルジーではなく、現在を照らす鍵になる。

「昭和歌謡曲の曲ばっかり。お父さんテレビのチャンネルを変えてよ!」

このように父に反発していたころの自分を思い出す。それでも父は昭和歌謡曲を聴き続けた。今となってはその当時の父の気持ちに少し共感できるかもしれない。きっと私も自分の子どもができたときにはかつての私のように怒られるのかもしれない。しかし、平成を味わっている時間。それが私にとっては必要な時間なのだ。

たまには立ち止まり、過去を振り返ってみるのも悪くない。今の自分を形づくっているのは、間違いなくあの頃の経験なのだから。そして、その気づきを胸に、また一歩前へ進んでいけばいいのだと思う。

 そうして、私はAqua TimeZの『虹』を聴きながらこの記事を書いている。

 

 

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2025-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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