メディアグランプリ

ペットボトル、思い込みには気をつけて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤原 宏輝(ラィティング・ゼミ5月コース)

 

 

「宅配便に凍らせたお水を入れてあるから、明日受け取ってくれたら大丈夫だと思うよ」

日頃から大変お世話になっている社長さんから、ご丁寧に明日届く荷物の事でお電話をいただいた。

そして、翌日の午後‘御中元’が届いた。凍らせたお水と聞いていたので、クール便かと思いきや普通の宅配便。

 

私は箱を開ける前にその社長さんに早速、御礼の電話をかけた。

「ペットボトルの水は、大丈夫だったかな?」

と尋ねられ、お水まで同梱してくださるという、なんとも粋でご丁寧なお心遣いに、

「まだ開けていないのですが、大丈夫だと思います。お水までご丁寧に本当にありがとうございました」

箱の外側が部分的に濡れていた事を、咄嗟に見て見ぬふりをした。そして、宅配便がクールではなく普通だった事を確認するのも気が引けたので、慌てて電話を切った。

 

夕方、届いた箱をスタッフが開けてみた。

可愛いひまわりのイラストの包装紙に‘夏のご挨拶’と外熨がかかっていた。しかし、そこにある社長の会社名とお名前は、水で滲んでいた。

包装紙を丁寧に外し箱のふたを、そーっ! と開けてみた。

 

中身はなんとっ、スタッフみんなが大好きな‘焼き菓子の詰め合わせ’だった。

一緒に入っていたペットボトルのお水は、案の定すっかり溶けて、ペットボトルの凍らせた状態から、少しずつ溶け出し外箱までぐちゃぐちゃに濡れてしまっていた。

すぐにそのお水は誰も飲まなかったので、とりあえず冷蔵庫で冷やしておくことにした。

個包装のおかげで、個包装の焼き菓子は問題なし。

スタッフみんなで「わぁ美味しい」と分け合い、ほっと一息つく甘い時間を楽しんだ。

 

さて、翌日。

私は冷えたペットボトルを冷蔵庫から取り出し、みんなにコップを配り、

「昨日のお水、なんだか美味しそうなやつだよ。みんなで、いただきましょう」

と声をかけた。待っていました。とばかりに、昨日届いたペットボトルを楽しみにしていた。

おしゃれなラベルにスーっとした、スリムなペットボトルを眺めながら。

「あの有名なブランドのお水だ。社長さんの気遣いに感謝しなきゃ」と思っていた。

 

とっ! ところが……。

キンキンに冷えたお水を一口飲んだスタッフのひとりが、眉をひそめて叫んだ。

 

「これ、なんですか!? なんか、味おかしいです。このお水って、こんなにマズかったですか?」

場が、一瞬で凍りついた。私も慌てて、口をつけてみた。

「あれ? え? なんだこれ?」

‘有名ブランドの美味しい軟水’のはずなのに、あのかすかな柔らかい口当たりとは、全然味が違う。それどころか、飲み慣れた水道水よりも、どこか変な風味がする。

 

何が起こったのか? 

私もスタッフのみんなも、頭の中が疑問でいっぱいになり、私はあたふたするばかり。

 

すると、冷静なスタッフの1人が口を開いた。

 

「もしかしてこれ、中身とラベル、全然違うんじゃないですか? これ、ただの水道水とか?」

 

みんなで、顔を見合わせた。ラベルは確かに、某有名ブランドそのものなのだ。

けれど、口に含んだ瞬間に広がる味は、それとは似ても似つかぬものだった。

 

そう、私たちは完全に“思い込み”にやられていたのだ。

ラベル=本物、という前提を何の疑いもなく信じ、さらに「社長からのお心遣い」というストーリーまで加わって、

「あの有名な高級なお水に違いない」

「焼き菓子の詰め合わせだから、とお水まで入れてくださった」

などと、勝手に思い込んでいたのである。

 

実際は、ただの水道水(しかもおそらく凍らせて保冷剤代わりにされたもの)だった。

社長さんにとっては善意の工夫であり、何も悪気はない。けれど、私たちはそれを「特別なお水」と解釈してしまったのだ。

 

思い込みとは、かくも恐ろしい。

 

思えば、日常にはこんな思い込みが溢れている。

「この人は、きっとこういう人だろう」

「この商品は、高いから安心に違いない」

「相手はきっと、私の気持ちを分かっているはず」

 

恋愛でも仕事でも、人間関係でも。

トラブルが発生する時は、大抵この“勝手な思い込み”から始まるのではないだろうか。

 

私自身も仕事の場面であり得る事だ。

ご新郎・ご新婦様のちょっとした言葉を、自分の経験値だけで解釈してしまい、実は違う意図だったと気づくのは、後から。

確認を怠ったばかりに、余計な準備をしてしまったり、逆に見落としたり。

 

恋愛でも、そうだと思う。

相手が少し黙っているだけで「きっと、怒っているんだ」とか「私のことなんて、本気で好きじゃないんだ」と思い込んだり。

そんなマイナス感情にどんどん落ちていったり、逆に「私の気持ちを、わかってくれている」と期待したり。

その思い込みがすれ違いを生み、悲しい誤解に発展することもある。

 

人間は自分の“物差し”で世界を測ろうとする。

けれど、その物差しは意外と不正確だ。人によって長さも基準も違うからこそ、確認するという、ひと手間が不可欠なのだ。

 

あの日の「ペットボトルのお水事件」は、笑い話で済んだから良かったものの、改めて私に大切なことを教えてくれた。

 

思い込みには注意し、冷静に判断すること。

自分の目で確かめ、耳で確かめ、心で確かめること。

ラベル(外見)の美しさよりも、中身(本質)を確かめる目を持つこと。

そして、自分の思い込みを“疑う勇気”を持つこと。

 

これらが人生のあらゆる場面で、きっと大切な知恵になるのだと思う。

今日も私は、あの不思議な“お水の味”を思い出しては、苦笑しながら自分に言い聞かせている。

「思い込みには、気をつけて」

 

 

***

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2025-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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