天狼院インフィニティ∞リーディングで、おじいちゃんは未来に飛ばされた
*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:前田 さやか(ハイパフォーマンス・ライティング)
私は“おじいちゃん”だった。
やっと時代が動き出した。
危うく化石になるところだった。
それを免れたのはなぜか。
毎週参加している天狼院書店の「インフィニティ∞リーディング」のおかげだ。ここでは本だけでなく、映画や演劇、AIまで、次々と新しい世界と出会わせてもらっている。
インフィニティ∞リーディングとは何か?
毎週水曜日には、天狼院書店で無限に本を深ぼる未来型読書会が開かれている。
テーマは各週ごとに異なる。
小説・漫画・演劇・哲学書・ビジネス書など、幅広い本が課題に選ばれる。意外な一冊との出会いがあるのが魅力だ。最大の特徴はAIを使いまくるところ。店主がAIに質問をして、一冊の本からあらゆる知識を得ていく欲張りな会である。
今回はなんと!?
今週の課題本は、藤本タツキの漫画『ルックバック』。
先週の店主の予告に私は面食らった。 「来週は今話題の『ルックバック』ってマンガやりますからね」 「マンガ? 近頃全然読んでないし、そんなタイトル聞いたこともない」 つい先週は『歌舞伎 家と血と藝』という骨太なテーマだった。そこから一転して漫画? 頭がついていかなかった。
数か月前まで歌舞伎を知らなかった私が、襲名式を心待ちにするまで。学びが行動を変える── ≪インフィニティ∞リーディング体験記≫
漫画『ルックバック』とは何か?
藤本タツキの作品だ。
彼の代表作は『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』である。
2021年7月に集英社「少年ジャンプ+」で読み切りとして公開されていた。2024年に映画版が公開。53分の短編ながら高い評価を受け、Amazon Primeで現在配信をされている。
店主もアニメを絶賛していて、課題本として取り上げた。
簡単なあらすじを紹介しておこう。(一部ネタバレ含む) 小学4年生の少女・藤野歩夢と、不登校の同級生・京本大洋の二人を軸にした物語だ。漫画を描く才能と情熱を共有しながら交流を深めるが、やがて京本が美術学校での事件で命を落とす。 そして歩夢は自責の念に駆られるが……。
天狼院は「よろづや」なのか?
当日、店主は冒頭から宣言した。
「今回はネタバレありです。全部話しますからね」
さらに畳みかける。
「この作品、タランティーノのオマージュが入ってるんだよ。『ラ・ラ・ランド』観た?」
「観ました!」元気なアシスタントがすかさず返す。
「あとブラピが出てたやつ、あったでしょ。『ワンス・アポン・ア・タイム』。それと京アニ事件も意識されてるよね」
私は内心取り残されている感じがした。映画は結構好きな方だ。しかしタランティーノ作品をほとんど観ていなかったからだ。
私にはピンと来ない。
本屋のはずなのに、話題は映画へ。前回も歌舞伎だったし、天狼院はもはや「よろづや」だと感じた。
漫画家は映画監督?
開始して間もなくだった。私は雷に打たれた気分になった。
「漫画家ってさ、映画監督なんだよ。大事なのは絵の上手さじゃない、大事なのは話の流れなんだ」
店主が衝撃発言をした。
“え? 漫画家と映画監督って違う仕事じゃないの?”
毎回店主の発言が、私の脳をバグらせてくる。
店主は続けた。
「北条司って知らない? 『シティーハンター』の作者だよ」
「知らないです」アシスタントの答えに、店主は笑う。
「そっかあ。おじいちゃん世代か。めちゃくちゃ絵がうまかったんだよ。『ろくでなしBLUES』もそう。だけど、ある時期から“絵が上手いこと”が必須条件じゃなくなったんだ」
私は深くうなずいていた。同時に若者とのジェネレーションギャップも感じる。
“いや、でもおじいちゃんって言われるとなあ。なんか悔しい”
小学生の頃、ジャンプを学校帰りに買って読んでいた。好きだった作品といえば、絵の美しい漫画ばかりが浮かぶ。なんなら、絵がうまくないと「これ、読みたくない」と読むのをやめていた。
しかし今は違うらしい。
AIやアニメ化によって作画は補える時代になった。作家に求められるのは「何をどう語るか」。
だから漫画家は映画監督のようなのだ。
すかさず店主は言う。
「鬼滅の刃とかやばいじゃん。絵はそんなに上手いと思わないけど、映画が大ヒットしたでしょ。戦略がもう変わってるんだよ」
確かにそうだ。
鬼滅の刃は読んだ。アニメは一部しか見られていないが、話の展開や作り込みは凄まじい。アニメは絵の美しさが、昔の比にならない。アート作品を見ているかのようだった。
私の時計は“ジャンプ黄金世代”で止まっていた。
時代はもう進んでいる。
やっぱり私はおじいちゃんだった!
映画版を観て、私は未来に連れ出される?
読書会が終わり、Amazon Primeを開いた。
映画版『ルックバック』を再生する。
わずか一時間。セリフはほとんどない。なのに、心が大きく揺さぶられる。
二人の少女が机に向かう背中が物語を語っていく。
成功、挫折、出会い、成長、別れ、覚悟――人が経験する全てが濃縮されていた。
「なるほど、絵ではない。物語がいいからこそ、心が動かされるのだ」
私は観終わって納得した。
しかし引っかかる場面があった。
歩夢が破った四コマ漫画の切れ端が扉に吸い込まれ、そこから“もしも”の展開が描かれるあのシーン。現実ではありえない。あれは何だったのか。
「もしかしてタランティーノ監督のオマージュ?」
調べると、パズルのピースがハマった。
『ルックバック』とタランティーノは交差するのか?
気になってAIに尋ねてみた。
“タランティーノ監督作品のオマージュってどこ?”
AIは教えてくれた。
タランティーノは「もしも歴史が違っていたら」という大胆な改変を物語に織り込む作風で知られている。
『ワンス・アポン・ア・タイム イン・ハリウッド』では実際には悲劇に終わったシャロン・テート事件を、別の結末に書き換えている。
『ルックバック』の藤野歩夢もまた、京本を失ったあと「もしも別の未来があったら」と願う。その幻視が“オルタナティブな世界線”として物語に差し込まれる。
現実では覆せない悲劇を、創作の中で救済する。
観客や読者に「心の中でだけでも別の未来を見せる」。――そのアプローチは、まさにタランティーノの手法と響き合っていた。
頭の中でパズルがはまった瞬間だった。
店主が言っていた意味がようやく理解できた。
しかし、まだまだ驚きは続いた。
AIは店主と全く同じことを語っていた。
タランティーノ監督は派手な映像やスタイリッシュな演出に目が行きがちだが、根底には必ず「語りたい物語」がある。
『ルックバック』の藤本タツキが、絵のうまさよりも歩夢と京本の関係性、そして喪失からの再生という物語に全力を注いだことは、まさにタランティーノの作品に通じている。
私はハッとした。
“店主も言っていた。今は作画が大事ではない、内容が大事な時代。藤本タツキ自身も絵のタッチより、面白さを大切にしているんだ”
ようやく私は、作者が本当に伝えたいメッセージを理解できた。
これぞ本当の読書だと思った。本に書かれていない内容を読み解く体験が、インフィニティ∞リーディングにはある。
おじいちゃんをやめる決意
『ルックバック』を鑑賞して、私は決意をした。
「おじいちゃんのままではいかん。若返らないと」。
昔の漫画や映画の知識に安住していた自分を揺さぶられた。
再び漫画を読みたい。アニメを観たい。もっと語りたい。
天狼院書店に通い始めてから、AI、歌舞伎、演劇……新しい扉が次々と開いていく。
恐る恐る踏み込むたびに、私の中の古い自分が壊れ、新しい血が流れ込むのを感じる。
――今度は、時代に追いつくだけでなく、自分から踏み出していこう。
そう思わせてくれる一冊に出会えた。
***
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