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スーパーのかごをのぞくと

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本知歩(ライティング・ゼミ 7月コース)

 

スーパーに入って最初に手に取るのは、買い物かごだ。プラスチックのかごは、赤や緑や青などの色違いが並んでいるけれど、私はだいたい一番上に積まれているものを迷わず取る。底の方からきれいなかごを選ぶ人もいるし、取手の動きがスムーズかを試してから選ぶ人もいる。そういう姿を横目に見ながら、私はいつも「なんでもいいや」と思ってしまう。けれど、なんでもいいやで手に取ったかごの中身には、その人らしさがちゃんと表れるから、不思議だなと思う。

最初に牛乳を入れる人もいれば、野菜から選ぶ人もいる。スーパーの動線によって順番は変わるのだけれど、かごの底に何を置くかはその人の性格を映している気がする。私の母は、かならず玉ねぎやじゃがいもといった硬い野菜を一番下に置き、その上に肉や魚を重ね、最後にパンや果物をふわりと置く。母の几帳面さが、その順番から伝わってきた。私はといえば、どうしても途中で順番を間違えて、パンの上に缶詰を落としてしまったりする。そういうとき、かごの中のぐちゃっとした様子が、私の性格を代弁しているようで、少し恥ずかしい。

かごを持ちながら歩くと、人の買い物のかごが目に入る。見知らぬ人のかごの中身は、ちょっとした性格診断の答え合わせのようである。若い女性のかごに豆乳とサラダチキンとヨーグルトが入っていると、「今ダイエット中かな」と思う。スーツ姿の男性のかごに缶ビールと冷凍餃子とカップ麺だけが入っていると、なんだか一人暮らしの生活が想像される。年配の夫婦が一緒に押しているカートには、きちんとバランスよく野菜、魚、漬物が並び、暮らしのリズムが整っていることが伝わってくる。まるで、診断結果のグラフを眺めているようだ。

私が学生の頃、一人暮らしを始めたばかりの買い物かごはひどいものだった。冷凍チャーハン、スナック菓子、チョコレート、インスタント味噌汁。冷蔵庫に並べてみても、そこからちゃんとした食事は生まれそうになかった。けれど、そのときはそれで満足していた。レジで隣の主婦のかごに新鮮な野菜や魚が整然と並んでいるのを見ると、「大人は違うなあ」と思った。自分もいつか、そんなふうに計画的に食材を選べるようになるのだろうか、と少し憧れた。

社会人になってからのかごは、また違う顔をしていた。残業帰りの夜、スーパーに寄ると、頭も体も疲れていて、手に取るのはついレトルトカレーや出来合いの惣菜ばかり。翌日のことまで考える余裕がなく、その日の空腹を満たすものだけがかごに積まれていく。そんなときのかごは、私の余裕のなさを正直に映していた。ある夜、レジの順番を待ちながら、前に並んでいた年配の女性のかごをふと見た。青菜や豆腐、魚が整然と並んでいて、「私もちゃんと作らなきゃ」と思ったけれど、結局その日は唐揚げ弁当を買って帰った。診断結果を知っても、すぐに改善できるとは限らない。性格診断の結果に「あなたは飽きっぽいです」と書かれて、「そうかも」と思うのに、翌日もまた同じことを繰り返すように。

最近は、週末にまとめて買い物をするようになった。野菜を選んで、肉を選んで、牛乳や卵を入れて、最後にちょっとしたおやつを入れる。気がつくと、かごの中が以前より落ち着いた配色になっている。青、緑、白、赤。自然にバランスをとるようになったのかもしれない。昔はパンとお菓子で埋まっていたかごが、今は小松菜やトマトや鶏むね肉で埋まっている。診断の結果が、少しずつ変わってきたように見える。生活が変わり、心の余裕が変わると、かごの中身も変わるのだろう。

あるとき、友人と一緒にスーパーに行った。おしゃべりしながら買い物をしていたのだが、レジでかごを比べた瞬間に笑ってしまった。彼女のかごは、きっちりと三食を想定して食材が並んでいて、私のかごはというと、気まぐれで選んだプリンやアイスが目立っている。性格診断を横に並べて見せられたような気分だった。友人は几帳面で計画的、私は楽観的でその日暮らし。けれど、不思議とそれでいいのだと思った。診断結果は、欠点ではなく、ただの特徴に過ぎない。

そう考えると、スーパーのかごはちょっと優しい。どんな組み合わせでも、レジを通せば「はい、○○円です」と言ってくれる。ダメ出しはされない。かごにカップ麺とビールだけが入っていても、バランスのいい野菜や魚が並んでいても、同じように会計は終わる。診断結果を突きつけるだけでなく、「まあ、それもあなたですね」と受け入れてくれるのだ。そういうところが、性格診断に似ている。厳しく分析するのではなく、ただ「あなたはこうですね」と鏡を差し出してくれる。

今日もまた、スーパーのかごを手に取る。底に何を置き、何を積み重ねるか。その小さな選択が、私の一日や一週間をつくっていく。かごの中身を見れば、今の自分の状態が少しわかる。忙しいのか、落ち着いているのか、誰かと食卓を囲む予定があるのか。性格診断のように、かごは私の今を教えてくれる。

レジを通り、袋に詰めた食材を持ちながら帰る道すがら、ふと考える。今日のかごはどういう診断結果だっただろう。卵、牛乳、ほうれん草、バナナ、そしてプリン。きっと「あなたは真面目だけれど、ちょっと甘いものに弱いタイプ」と書かれるのだろう。なるほど、それは当たっている。私は笑いながら、少し重たい袋を提げて家路についた。

 

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2025-09-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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