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美術館で足裏マッサージ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:YokoKita(ライティング・ゼミ7月コース)

 

タイトル: 美術館で足裏マッサージ

定期的に美術館に“通って”いる。

だいたい月に1、2回、観たい展覧会が多くあるときは週1ペースになることもある。と書くと、やたらと美術、芸術方面のことに精通していて、知識(というか蘊蓄)でもあるのかと思われそうだが、ほぼ、無い。美術館という場所が好き、そして、単純にただ絵を観ることが好き、なのだ。

美術館ほど落ち着く場所はない。もしかすると、家に居るよりも落ち着けるかもしれない。
何によって落ち着くと感じるかは、人それぞれの感覚があるから一概には言えないが、私にとってのそれは「デジタルデトックスが出来る(強制的にではなく自然に)」ことと、「静かである」ということだ。今のご時世でそれを叶えてくれる場所は、私には美術館と、トイレだけだと言ってもよい。

家に居れば、これといった目的もないのについスマホを見てしまう。ピンポーンと宅配便が突然届くこともある。騒音とまではいかなくても、隣近所から聞こえる音も間断なくある。もちろん家族の生活音もある。(家に居てそれらが遮断されるのはトイレだけだ)
静かな場所、という点では図書館もいいのだが、やはり、何気にスマホを見てしまう、気が付けば本も読まずスマホばかり見ていた、ということもある。

美術館では、まずスマホは見ない。撮影OKの作品の写真を撮るためにカメラ代わりに使うくらいしか用がない。館内に設置されたイスやソファに座って休憩するときでも、何しろ眼福な作品の数々に囲まれているのだから、わざわざスマホの小さい画面で何かを見ようとか、検索しようとか、そんな気にならないのだ。

そんな落ち着く場所で、素晴らしい作品の数々を眺め回ることができるなんて、至福のひとときなのである。


絵画を観る時、個人的に好きなポイントが2つある。

1つは、なんといっても「深呼吸」が出来ること。
素晴らしい絵を前にして「はぁ~……」という深いため息のような感嘆の息が何度も繰り返されたり、ただただ見入ってしまって絵の前に佇んでいる内にいつの間にか呼吸が深くなっていったりする。
好みの差はあれども、美術展に出るような作品はどれも素晴らしいものばかりなので、だいたいどの作品の前でも「深呼吸」できる。1つの展覧会で、数十枚~百数十枚の絵を観ると、入口あたりではどことなく日々の疲労感や、よそいきの緊張感を纏っていたのに、出口に来るころにはすっかりリフレッシュされて、まったく違う身体感覚(身体が軽くなっているような感じ)を得ている、というのが、常である。

もう1つは、画家の筆使いを間近で観ることだ。ギリギリまで顔を近づけて様々な筆のはらいや、色の乗せ方をじっくり観る。どんなジャンルの絵にも、その画家の手の動きや、思惑、あるいは偶然の産物のようなものがどこかに必ず残っていて、それが何百年前の絵画であっても、今もその絵は「生きているんだな」と感じずにはいられない。しばし向き合っていると、こちらに何か話しかけているような気もしてくる。
展覧会によっては、ガラス越しに、1メートルほど隔てて観ることしかできないこともあるが、しかし、隔てられても尚感じる息使いのようなものに出会うときもある。そんなときは、まさに「はぁ~……」と深呼吸の出番になるのである。

以前、インドの細密画の展覧会に行ったときのこと。細密画とは、その名の通り、風景や人物(衣装や持ち物も含めて)などが、非常に細かく描き込まれた絵のことである。
インドの細密画で特徴的なのは、どれも大体20cm四方程度の大きさしかなく、その小さな画面に、細かく、とにかく細かく様々な物や人が描き込まれているということだ。インドでは、「観る人と絵が1対1で対話する」という考えがあるそうで、この小さな絵を手に取ってまじまじと観ながら、同時に自分自身の内観もしていくということらしい。多くの作品には「作者名」が記されておらず、あくまでも、“絵そのもの”と、観る者との“静かな対話”が促される。
たしかに、観れば観るほど、線描の細かさや彩色の複雑さに引き込まれ、没頭していく。やはり呼吸が深くなってくる。そして、絵が語りかけてくるのだ。そんな感覚になったこと覚えている。


定期的に足裏マッサージに通っている友人がいるが、彼女いわく、もうそれが習慣になっていて、行かずにはいられない、行かないと調子が出ない、らしい。マッサージに行くことで、乱れた調子が整えられ、疲れも取れて元気がまた出てくる、ということだろうが、私にとっては、美術館通いが、まさにそれに当てはまる。深く呼吸しているうちに心身のバランスが整ってくる。絵の中に引き込まれて没頭し、知らず知らず絵と対話すると、落ち込んだり、悩んだりしていることが薄まるように感じる。そうして美術館を出る頃には、まるで足裏をモミモミしてもらったかのように、軽やかな足取りになっているのだ。

そういえば、私自身は、足裏マッサージに行ったのがいつだったか、まったく思い出せないくらい、もう長らく行っていない。足裏マッサージにも匹敵する効果を、美術館で得ているのかもしれない。

私も、美術館に行かずにはいられない、行かないと調子が出ない、のだ。


<おわり>

 

***

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2025-10-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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