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たった一つの「問い」が、僕を徳島まで突き動かした話〜鬼滅の刃を知らない僕が、丸一日かけてたどり着いた答え〜


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山岡達也 (ハイパフォーマンス・ライティング)

日曜日の昼下がり。僕は、徳島のあるカフェの窓から、目の前を流れる川をただ、じっと眺めていた。
ごく普通の、都市部を流れるありふれた川だ。観光名所でもなければ、絶景というわけでもない。しかし、僕の胸には、言葉にならないほどの熱い思いがこみ上げてきていた。
「本当に、来てよかった。この景色を見るために、僕はここに来たんだ。すべてが、報われた……」
冷静に考えれば、我ながら馬鹿げたことをしている。
同じ事をするなら、自宅でAIを使いながら情報を引き出して、あとは近くの映画館に出かけるほうがよっぽど効率的だ。しかし、僕はいまここにいる。
きっかけは、オンライン読書会でのほんの些細な一言。その場のノリと勢いだけで、週末の貴重な時間を使って、わざわざ四国の徳島まで足を運んでいるのだ。
カフェにたどり着くまでの道中、何度も自問自答を繰り返した。「一体、自分は何をやっているんだろう?」と。
けれど、この窓越しの風景を目の当たりにした瞬間、そんな迷いはすべて吹き飛んでしまった。僕の中で、何かが確信に変わった。そして、強烈に思ったのだ。
「この衝動を、この感動を、書き留めなければ。そして、誰かに伝えなければ」と。
これは、一冊の本との出会い方を変える読書会が、僕の日常に投じた一つの「問い」から始まった、ほんの少しクレイジーで、最高にエキサイティングな旅の記録である。
目次
ついて行けなかった読書会
コスパ度外視の旅で見つけた「風景の共有」
ギャラリーの線画が導いた、次なる「問い」
エンドロールに浮かび上がった、決定的な「答え」
あなたの「問い」は、どこに連れて行ってくれるだろうか?

ついていけなかった読書会
すべての始まりは、9月24日水曜日の夜だった。
僕が参加したのは、天狼院書店が主催する「インフィニティ∞リーディング」という読書会。毎週水曜日の夜、決められたテーマに沿って、店主の三浦崇典さんがファシリテーターとなり、一冊の本を深く、深く掘り下げていく。その様子は会場である天狼院カフェSHIBUYAから、ネットを通じて全国に配信されている。
第4水曜日は、クリエイター達が紡ぎ出したいろんな物語を、ただの消費者として受け取るのではなく、創り手の視点で読み解いていく。物語の構造、キャラクターの位置づけ、伏線の張り方、テーマの昇華……。その視点を手に入れると、普段何気なく触れている小説や映画、漫画が、まるで違う姿を見せ始める。
しかし、その日に取り上げられたテーマは、僕を大いに戸惑わせた。
『鬼滅の刃』
言わずと知れた、社会現象にまでなった大ヒット作である。
だが僕は、原作の漫画を読んだことも、アニメを観たこともなかった。もちろん、名前くらいは知っている。けれど、それだけだった。
読書会が始まると、店主の三浦さんの熱のこもった解説が展開される。会場でリアルで参加している方からも、興味深いコメントが飛び出してくる。
その熱狂の輪の中で、僕一人が完全に置いていかれていた。キャラクターの名前も、物語の展開もわからない。三浦さんがどれだけ巧みに物語の構造を解説しても、僕の頭には「?」マークが浮かぶばかり。正直、話についていけなかった。画面のこちら側で感じる疎外感。それは、少しばかりつらい時間だった。
「今回は、参加するんじゃなかったかな……」
そんな後悔が頭をよぎり始めた、その時だった。
三浦さんが、アニメ制作の舞台裏について語る中で、何気なく放った一言が、僕の耳に突き刺さった。
それは、あのアニメを制作したスタジオ、ufotable(ユーフォーテーブル)の場所に関する発言だった。
「ufotableって、四国の会社じゃなかったんだ。四国だったと思ってたんだけどなぁ」
その瞬間、僕の中で何かのスイッチがカチリと音を立てて入った。
四国?あの大ヒットアニメを生み出したスタジオが、なぜ?
自分も四国の片隅に住んでいるので、その違和感はよくわかる。
僕は読書会の内容そっちのけで、すぐさま「ufotable 四国」とPCに打ち込んで検索した。
検索結果はすぐに出た。ufotableは、徳島県徳島市にスタジオと、さらにはカフェやシアターまで持っているという。
その事実を知った途端、僕の頭の中は、次から次へと湧き上がる「問い」で埋め尽くされた。
なぜ、アニメスタジオの多くが東京に集中する中で、彼らは徳島に拠点を置いたのか?
徳島のスタジオは、一体『鬼滅の刃』の制作にどれくらい深く関わっているのだろうか?
あの、世界中を魅了した圧倒的な作画クオリティと、徳島の風景や風土には、何か関係があるのだろうか?
徳島で働くスタッフたちは、どんな想いを抱いて、日々あの凄まじいクオリティの作画に向き合っていたのだろうか?
画面の向こうの熱狂とは別の、僕だけの熱が、体の内側からふつふつと湧き上がってくるのを感じた。リアルの議論には全く参加できなかったけれど、僕の頭の中は、誰よりも目まぐるしく回転していた。
そして、一つの結論にたどり着く。
この「問い」の答えは、自室でネット検索を続けていても、決して見つからない。現地へ行くしかない。自分の目で見て、肌で感じるしかない。
こうして、読書会から11日後の日曜日、僕は徳島に向けて列車に乗り込んでいた。
コスパ度外視の旅で見つけた「風景の共有」
アニメや漫画の舞台となった土地を巡る「聖地巡礼」という言葉がある。
だが、今回の僕の行動は、それとは少し違う。徳島は『鬼滅の刃』の物語の舞台ではない。スタジオを見学できるわけでもない。徳島の風景を見たからといって、作画との関連性を安直に結びつけるのは、あまりにも短絡的だろう。
それでも、僕を突き動かしていたのは、「知りたい」という純粋で強烈な好奇心だった。読書会で生まれた「問い」が、僕に「行け」と命じている。それに従うだけだった。
約3時間の列車旅を経て、昼前に徳島駅に到着した。
僕がまず向かったのは、「ufotable cafe」だ。とりあえずランチでもとりながら、現地の空気を感じてみよう。そんな程度の考えだった。
カフェはどうやら川沿いの遊歩道に面しているらしい。遊歩道ではマルシェのような出店が並び、賑わいを見せている。心地よい風景だ。僕はその一本裏の、ほとんど人通りのない道を歩きながら、カフェが入っている建物を探しあてた。
カフェが入っているビルは、ただのビルではなかった。戦前に建てられた旧館の上に新館を増築したというハイブリッドな構造で、旧館部分は国の登録有形文化財に指定されているという。歴史の重みとクリエイティブな空間が同居する、不思議な場所だった。
ビルの2階にある店内に入り、レジで店員から説明を聞いたのちに、窓際に座った。
そして、窓の外に目をやった瞬間、僕は息を呑んだ。

目の前には、穏やかな川が流れていた。

遊歩道を行き交う人々、水面を滑る遊覧船、対岸の少しレトロな街並み。
冒頭で書いた通り、それは特別な景色ではない。けれど、僕にはその風景が、何よりも雄弁に物語っているように思えた。僕は、すべてを察したのだ。
「ああ、そうか。ここのスタッフたちは、この風景を見ていたのか」
Googleマップで確認すると、ufotableの徳島スタジオは、このカフェと同じビルの4階にある。つまり、制作スタッフたちは、僕が今見ているのとほぼ同じ角度から、この川の流れを日常的に目にしていたはずだ。
想像が膨らんでいく。
世界中を熱狂させた、あの緻密で、情熱のこもったアニメーション。その制作の合間に、ふと窓の外に目をやり、この穏やかな川の流れを眺めて、心を休めていたのかもしれない。あるいは、刻一刻と表情を変える水面の光や、空の色に、創作のインスピレーションを得ていたのかもしれない。
僕が今、この瞬間に見ている風景と、彼らが見ていたであろう風景が、時間と空間を超えて重なり合う。その感覚は、僕に強烈な感動をもたらした。
風景の共有。
それは、単なる情報や知識とは全く違う、身体的な理解だった。僕は、彼らの創造の源泉に、ほんの少しだけ触れることができた気がしたのだ。
ギャラリーの線画が導いた、次なる「問い」
感動に浸りながらランチを終え、レジで会計をしようとした時、ふと店内の奥にあるギャラリースペースに飾られているものに目が留まった。
そこに展示されていたのは、『鬼滅の刃』のキャラクターが描かれた画だった。それは完成されたイラストではなく、鉛筆か何かで生々しい線画で描かれ、着色の指示などが書き込まれている。おそらく、アニメ制作の過程で使われた、キャラクターデザインの資料か何かだろう。
その一枚の紙を前にして、僕は再びドキッとした。新たな「問い」が、雷のように頭を撃ち抜いたのだ。
「この画は、一体どこで描かれたものなんだろう?」
もちろん、東京のメインスタジオで描かれたものが、徳島に送られてきて展示されているだけなのかもしれない。
だが、もしかしたら、この徳島のスタジオで、この場所で、この線は描かれたのではないか?
もしそうだとしたら……。
先ほど僕が窓から見た川の流れ。その風景を知るクリエイターの手によって、このキャラクターたちは生み出されたことになる。
この「問い」の答えは、どこにある?
どうすれば、それを知ることができる?
方法は、たった一つしかない。
映画のエンドロールで、その答えを確認するしかない。
幸運なことに、ufotableが直営する映画館「ufotable CINEMA」は、このカフェから歩いて数分の距離にある。
こうして、僕の徳島探訪は、予期せぬ形で「映画鑑賞」という明確な目的を持つことになった。カフェを出た僕は、迷わずシネマへと足を向けた。
エンドロールに浮かび上がった、決定的な「答え」
ufotable CINEMAへ向かう道は、少し遠回りして、先ほどカフェから眺めた川沿いの遊歩道を歩いてみることにした。マルシェの賑わい、人々の楽しげな声、川を渡る風。そのすべてが、僕の興奮を後押ししてくれているようだった。
やがて、シネマのある商店街にたどり着く。そこは、県庁所在地とは思えないほど、静かで落ち着いた雰囲気だった。巨大なシネマコンプレックスとは違う、「街の映画館」という言葉がしっくりくる。
館内では、映画上映と共に、様々なアニメ関連グッズが販売されていた。僕が鑑賞するシアターは、客席がわずか35席ほどの、こじんまりとした空間。けれど、この場所こそが、あのufotableの直営シアターなのだ。その事実に、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
映画が始まった。
もともと作品を全く知らなかった僕だが、そんなことは関係なかった。スクリーンに映し出されるのは、ただただ圧倒的な映像美。凄まじい作画と、縦横無尽に駆け巡るカメラワーク。ストーリーを追うというより、もはや一つの「映像芸術」として、その世界に完全に没入していた。
約2時間40分の上映時間があっという間に過ぎ、物語がクライマックスを迎える。
これだけでも、徳島まで来た甲斐があった。

そして、ついに、僕が待ち望んでいた「その時」がやってきた。
エンドロールだ。
次々と流れていく、膨大な数のスタッフの名前。
映画という創作物が、いかに多くの人々の情熱と技術の結晶であるかを、改めて思い知らされる。
僕はスクリーンに全神経を集中させた。
ufotableに所属するスタッフの名前が流れていくが、どこの拠点に所属しているかまではわからない。
「もしかしたら、拠点の名前までは出てこないのかもしれない……」
一抹の不安がよぎった、その瞬間だった。
僕の目に、決定的な証拠が、はっきりとスクリーンに映し出された。
ufotable 徳島
その文字の下に続く、20名ほどのスタッフの名前。
見つけた。
あった。ここに、あったんだ。
僕の心臓が、ドクンと大きく鳴った。
もう少し注意力があれば、彼らがどのパートを担当したのかまで把握できたかもしれない。だが、そんなことはどうでもよかった。
徳島のスタジオは、確かに、この作品の中枢を担っていた。
あのカフェで僕が見た川の流れ。
あの風景を日常としていたクリエイターたちが、確かにここに存在し、この歴史的な作品を生み出していた。
読書会で生まれた、ほんの小さな「問い」。
その答えを求めて徳島までやってきた僕は、このエンドロールの数秒間で、すべてを確信した。
カフェの窓から川を見た瞬間に感じた「報われた」という感覚。それは、この瞬間のための序章に過ぎなかった。点と点が繋がり、一本の線になった瞬間。知的好奇心が、揺るぎない確信へと変わった瞬間。これほどの快感を、僕は他に知らない。
あなたの「問い」は、どこに連れて行ってくれるだろうか?
僕の徳島への小さな旅は、こうして幕を閉じた。
振り返ってみれば、この旅は、天狼院書店の「インフィニティ∞リーディング」という読書会から始まった。もし、あの日、僕があの読書会に参加していなかったら。『鬼滅の刃』を知らないからと、参加をためらっていたら。
僕は、徳島のあの川の風景を見ることも、エンドロールに徳島のクリエイターたちの名前を見つけて震えることも、決してなかっただろう。
「インフィニティ∞リーディング」は、単に本の内容を解説して、感想を言い合うだけの場所ではない。
それは、世界を見るための新しい「視点」を手に入れる場所だ。
クリエイターの視点、編集者の視点、マーケターの視点……。様々な角度から一つの物語を解剖していくことで、僕たちの思考は立体的になり、世界はより深く、面白く見えてくる。
そして何より、この読書会は、僕たちに強烈な「問い」を与えてくれる。
「なぜ、この主人公はこういう行動をとったのか?」
「なぜ、作者はこの構成を選んだのか?」
「この物語が、現代の私たちに問いかけるものとは何か?」
そして、僕のように、「なぜ、このスタジオは徳島にあるんだ?」という、物語の外側への「問い」が生まれることだってある。
その「問い」こそが、僕たちの日常を突き破り、新しい行動を生み出す原動力になるのだ。コスパやタイパなんていう窮屈な価値観を、軽々と飛び越えさせてくれるほどの、熱狂的なエネルギーになる。
僕を徳島まで突き動かしたのは、間違いなく、あの読書会で生まれた「問い」の力だった。
この記事を読んでくれているあなたにも、きっとまだ出会っていない「問い」があるはずだ。
その「問い」は、あなたをどこに連れて行ってくれるだろうか?
どんな新しい景色を、あなたに見せてくれるだろうか?
もし、あなたが今の日常に少しだけ物足りなさを感じているのなら。
もし、何かに熱中するきっかけを探しているのなら。
ぜひ一度、「インフィニティ∞リーディング」の扉を叩いてみてほしい。
そこには、あなたの人生を、ほんの少し、いや、劇的に変えてしまうかもしれない「問い」と「熱狂」が待っている。
次の水曜日の夜、あなただけの「問い」を見つける旅に、一緒に出かけてみませんか?
▼天狼院書店「インフィニティ∞リーディング」の詳細・お申し込みはこちら
https://tenro-in.com/category/infinity_reading/

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2025-10-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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