メディアグランプリ

小学校5年生の1月の話をしよう


*この記事は、「絶対麗度ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

絶対麗度ビューティー・レコーディング・ラボ

 
記事:伊藤美那(絶対麗度ライティング)
 
冬休みが終わったばかりのある日の夕方。

習い事が何も入っていなかったということは、確か火曜日。

暖かいコタツから抜け出してトイレに行った時、下着の汚れに気づいた。
 
こんな風に始まるのか。
 
学校で説明も受けていたし、周囲にも何人か初潮を迎えている子はいたが、いざ自分の身に起こってみると、不思議な感じがした。

一瞬、誰にも知られたくない、と思ったもののそうもいかず、台所にいる母親に声をかけた。
 
夕食作りの手を休めて、母親は対応を教えてくれた。

けれど、合間合間に唇が微妙に歪んでいたのは、きっと私の気のせいではないはずだ。
 
「まったく、アンタはませてるんだから」
 
台所に戻る前の母親から出た言葉には、隠しきれない不快さが滲み出ていた。忌々しい、という言葉がぴったりくるような。

洗面所で汚れた下着を手洗いしながら私は、どうしようもない罪悪感を味わうしかなかった。

仕方ないじゃん、私だって自分で選べるなら今じゃなかったよ。
 
私の3歳上、当時中学2年だった姉はまだ初潮を迎えておらず、母親がそのことを案じていることは知っていた。

そんな中で、妹が先に、となれば親として思うところもあるだろう。

今になってみれば、そんな母親の気持ちを理解できる、とまでは言えないが多少想像することくらいはできる。

けれど、小学5年生の私には、何かとんでもなく悪いことをしてしまったような、そんな気分にしかならない出来事だった。
 
痩せぎすで中学生になっても少年のような姉。

対して私は、小さい頃からよく言えば丸みのある、悪く言えば脂肪を溜め込みやすい体形だった。

そんな私を母親があまり良く思っていないことは、子供心に感じていた。

「この子はませてるから」何度となく繰り返されるその言葉に含まれるニュアンス。

決して良い意味で言っていないことは、子供にだってよくわかる。

小学校時代は髪を伸ばすこともスカートをはくことも認めてもらえず、男の子のような格好ばかりしていた。

もともと母親が、下の子には男児を望んでいたことを散々聞かされて育っていたこともあり、そういうことなんだな、と諦めて可愛い服を着たい気持ちには蓋をしていた。

人形遊びよりドライバーセットで何かを解体することの方が好きなんだ、と自分に言い聞かせていた。

「もう、男の子みたいなことばかりして!」と言う母親が嬉しそうだったから。
 
着道楽な父親は「本当にそんな地味な服が好きなのか?」と言い、外出した際にはよく服を買ってくれた。

出先のデパートで、上から下まで全部着替えさせられたこともある。

それらの服は帰宅すると母親の手によってしまい込まれ、次に着る機会はなかなか訪れなかった。

そしてまた翌日から、男の子のような服を着てスニーカーで学校へ通う日々。
 
けれど身体は。

服装と違って、誰かの思う通りにはコントロールできない。

母親の思惑はどうあれ、私は年齢平均より少し早い足取りで【大人の女】に近づいていった。

そのことが、何だか申し訳なく思えて、些細な体形の変化に気づくたびに落ち込んだ。

自分自身が女でいることに、どうしようもない居心地の悪さと罪悪感を覚える思春期だった。
 
高校に入り、少しだけ髪を伸ばしてみた。

母親は「そろそろ切りに行かないの?」としきりに言ってきたが、塾や部活が忙しいと適当にやり過ごすことを覚えた。

バイトは許されなかったがお小遣いやお年玉をやりくりして美容院に通い、友人と洋服を買いに行く楽しみを知った。

そんな時、いつも暗い色やパンツばかりを選ぶ私に、友人が言ってくれた。

「ね、今度のディズニーお揃いの服で行かない?」

その服のことは今でも覚えている。

淡い水色のふんわりしたワンピース。少しだけ踵の高い靴を合わせたら、不思議と晴れやかな気持ちになった。
 
「こういう色の方が似合うと思ってたんだよねー。でも頑固だから、お揃いとか理由がないと買わないでしょ」

いたずらっぽく笑う友人に、照れ隠しで「頑固ってなによ」と悪態をつく。

鏡の前で回ってみると、少し遅れてスカートがついてくる感覚が心地良かった。
 
それから少しずつ、私のクローゼットの中は変わっていった。

制服のスカートをちょっとだけ短くして、ブレザーのポケットにはマスカラとリップグロスが常備されるようになった。

時折、母親の目線や言葉に心が冷えることもあったが、それ以上に自分が本当に好きな格好をする喜びが強くなっていった。
 
大学に入りバイトを始め、自由になるお金が増えると物欲大爆発期を迎える。

本当は色鮮やかな服が好きだ、と気づいたばかりの私にとって、世の中には可愛いものがあり過ぎた。

当時買った服の何点かは、もうすっかり痛んで着られなくなったけれど今でも捨てられずにクローゼットの奥に眠っている。

夜中にそっと手に取ると、自分の好みを確立しようともがき、美しい色彩に心躍らせていたあの頃を思い出す。
 
そして今。

私は毎日、刺繍や色とりどりのプリントが華やかなスカートを揺らして身支度をする。

7cmのパンプスを履いて家を出る。

髪は気が済むまで伸ばすし、爪だって好きな色に塗っている。

そして月末には、秘めフォトの撮影で自分が女性であることを大いに味わいそして楽しんでいる。
 
誰が何といおうと、女性としての生き方に、罪悪感を覚える必要なんて全くない。

華やかに着飾って、ヒールを慣らして今日も歩いていこう。
 
***
 
この記事は、天狼院書店の「絶対麗度ライティング」にご参加の方が書いたものです。

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2025-10-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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