メディアグランプリ

母のことを「家族」と呼ぶ理由


*この記事は、「絶対麗度ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

絶対麗度ビューティー・レコーディング・ラボ

 
記事:izmy(絶対麗度ライティング)
 
「何か理由があるのかもしれませんが、文中で『家族』と書かれている部分は、具体的な関係性を書いた方が読者にとってイメージしやすく、共感も生まれやすくなると思います」
 
母がインフルエンザにかかって看病に苦戦したことをライティング講座の課題として2000字以内にまとめ提出。これはその記事に対してのフィードバックの一部である。
 
母が病気にかかったことを積極的に公開するのも母のプライバシー的にどうなのか? と考えてこの時は関係性を伏せたが、ライティング以外にも職場の人や友人に母のことについて話すときは「家族」と呼んでいる。
 
私の家族は3人。母と弟と私。
 
両親は中学生の時に離婚し、母は身体を壊しながらも弟と私を育ててくれた。
離婚する前は母のことが怖くて嫌いだった。いつも怒っていて鬼だと思っていた。しかし、離婚騒動の中で人間らしく女性らしい……自分に正直で愛にまっしぐらで奔放で、喜怒哀楽すべてで構成されている母のことが大好きになり「母のことを守りたい」といつからか使命感のようなものを感じるようになった。
 
「どんなときも働き続ける」ということをモットーにバイトも家事も仕事も懸命にこなすうちに、私は経済的な大黒柱になり、自由に遊び歩く余裕も出てきた。
 
母もいつしか男を卒業し、旅行もドライブもお買い物も、ほぼ私と遊ぶようになった。特に、シュノーケルは母と共通の趣味。家族ならでは気兼ねのなさもあいまって、遊びの90%が母と旅連れなのだ。
 
20代くらいまでは「親孝行だね」と言ってもらえたので「母と遊びに行きましたー」と外向けにも話していた。
しかし、30代後半から世間の目が変わった。
「親離れ、まだできてないの?」
「こども部屋おばさん」
「マザコン」
「毒親」
周りの人は私のことを実はそう思っていると認識させられた。SNSの年齢ターゲティング広告で心を乱された。
 
ああ、私って世間からは「格好悪い」やつなんだ。
 
好きな家族と過ごしていて、家族を経済的にも家事でも助けているのに、酷評。
 
プライドも傷つけられる、ありのまま話せばひとり親家庭であることを気遣われる、どちらも嫌で、母のことを「家族」と呼んで話すようになった。
そして「家族」と話せば、未婚かつ実家暮らしを断定されづらく、自分の属性をオブラートに包むことができて都合が良いと感じた。
 
世間と自己認識のギャップに苦しみ、悪いことしてないのに、なんで隠すんだろう、という違和感が頭の中からしばらく離れなかった。
 
心理カウンセラーさんに話を聞いてもらったり、趣味のダイビングに行ったりして、外の世界に触れることで、だんだんと
「確かに、誰かに憧れられるような生き方でもない。揶揄する人がいたとしても、その人ってどのくらい私のこと知ってくれてるんだっけ? 勝手に言わせておけばいい。自分のことは自分しか幸せにできないよ」
と諦め、世の中と距離を置くような気持ちになっていった。すると、なにかふっきれたのか、秘めフォト撮影ではカメラのレンズを見ることができるようになった。
 
数ヶ月後。
職場のランチタイム後、前の上司Aさんとすれ違い「あとで私の席にきてね」と声をかけられた。
Aさんの席に行ってみると、和風で高級感のあるおせんべいの袋を3つ取り出して「これ、どうぞ」と手渡してくれた。
「えー! 伊勢に行かれたんですね!」
「そうなの、母の米寿記念でね」
Aさんは普段のキリッとした表情とは違って、柔らかな笑顔で嬉しそうに話してくれた。
しばらく旅先のことを話した後、
「おめでとうごさいます。素敵なお裾分けをありがとうございます」と伝え、自席に戻った。
 
銀色に輝くおせんべいの袋を眺めながら、しばらくAさんの笑顔を思い出していた。
 
Aさんは社会人になってからしばらく後にお父様を亡くし、その後はAさんとお母様と2人で暮らしている。ひとりっ子だから、Aさんがお母様を長年に渡って支えているのだろう。家族を支える娘、という境遇が似ているところもあって、また、女性が独身でいることの肩身の狭さもきっとあったはずの時代の中で、働き続けて管理職として長年活躍されているAさんには心を寄せていた。
 
お母様を旅行に連れて行って、優しいな。
日常も母娘で支え合って、お祝いのタイミングも一緒に旅して、それを嬉しそうに話してくれて、素敵だったな。
母が長生きしてくれて、私も旅行に連れて行けるパワーがあって、米寿のお祝いに伊勢神宮行けたらいいな。
 
じんわりとあたたかな気持ちになって、心の中のぬくもりを噛み締めていた。
 
Aさんの笑顔、美しかった。
まっすぐに自分が良いと思う生き方を築き上げてきた自信が宿っていた。
私は、Aさんの笑顔の向こう側にあるストーリーを想像できたから、その美しさに気づき、心に響いた。
美しさとは、相手に惹かれる何かに私自身も重ねることで「共鳴」して生まれるものなのかもしれない。
 
私自身のことも、私の大事な存在も、ぼかしたり消したりしなくてもいい。
自分の辿ってきた道に後ろめたさを感じることなく表現すればいい。
世間が推奨する幸せに無理に合わせに行かなくてもいい。
 
取り繕うことなく、堂々と、笑いなさい。
 
きっとこんなメッセージをAさんは私に体現してくれたのだと思った。
 
 
支えたい大切な人で、時には大親友のような母と一緒に多くの時間を過ごせることは、当たり前のことではなく、本当は儚くて、かけがえのないひとときなのかもしれない。
 
暑いだの寒いだの腹減った金ない、誰それにあんなこと言われたぎゃー! とピーチクパーチク好きなように気持ちをだだ漏れさせて、そんな母に私は辟易として無視するか、イライラ返答をするかしてしまうことが多い。
 
あれ?待てよ?
 
母は普段とてもうるさいけど、私の人生に対しては何にもうるさいこと言ってこない。
進学先、就職先、転職先の選択はもちろん、結婚したほうがいい、孫が見たい、は一切言わない。彼氏のことも突っ込んでこない。(唯一、彼氏を家に招くときはお土産の要求はしていたな……)
 
「離婚してあんたたちにも苦労させたから、私がとやかく言えないよ……あんたが幸せならそれがいい」と話していたけど、これは母の弱みでは無く、優しさだ、と気づいた。人生を任せてくれるなら、普段母から発せられる賑やかなサウンドは元気印として、うまーく流して、優しい言葉をかけてあげようかな、そんなふうに感じた。
このライティングを書いている向こう側で、母は何かの申請Webサイトの不親切さに対して、非常に賑やかなサウンドを発している。はいはい、もうちょっとしたら様子見に行って少し助けに行ってあげようかね。
 
ママ、これからもしぶとく愉快に思いのまま生きていこう。
たくさん泣いた分、笑顔倍返し!!
楽しい思い出を入れる冥土の土産袋、とびきり大きいの持ってきな!!

 
***
 
この記事は、天狼院書店の「絶対麗度ライティング」にご参加の方が書いたものです。

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2025-10-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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