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「生き方」が一番遠い人は、近くにいる姉だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

記事:山田美虹(ライティング・ゼミ7月コース)

 

「仕事に、やりがいって必要なの? そんなこと、考えたことないな」

 

その言葉に、一瞬、耳を疑った。

国家公務員として働いている姉に、何の気なしに「その仕事のやりがいって何?」と聞いた時のことである。

仕事には「やりがい」しか求めてこなかった私からしたら、この答えは衝撃的だった。

 

「仕事は、生活するためのお金をもらうためにやっているんであって、それ以上のものは何もない。みんな、そうじゃない?」

 

まあ、一般的にはそういうことであるが、それでも、一日の三分の一以上は仕事をして過ごすわけだから、何かしらのやりがいとか楽しさとか、自分にとってのメリットとか、何かなければ続けられないのではないかと思うのだが。

だから、みんな「生活のため」とは言いながらも、少なからず自分の好きなことや興味のあることを仕事にしているものだ、と思っていた。

 

「やりがいねえ。……強いて言えば、その日の書類とか業務とかをいかに効率よく片づけられるか、かな」

 

ええ?

ますますびっくり。

え、そんなことが「やりがい」?  

そんなこと、なんて言ったら失礼だが、そう言いたくなるくらいのショーゲキ。

もはや腹立たしくさえ思えてきた。

せめて、「この書類を処理すれば誰かの助けになると思うとうれしい」とか、何かないんだろうか。そんなのは、ドラマの世界なの?

姉とは、仕事に対する考え方が全く合わないなとずっと思ってきたけど、これじゃあ、合わなくて当然だわ。まさか、「やりがい」を考えたことがないとは…。

 

私は、日本語教師という仕事をしている。

小中高校の先生と同じように、授業前の準備やテストの採点、学期末の成績つけ、といった教師特有の業務が常について回る。大抵は、勤務時間外にやることになるから、仕事量と給料は全く見合わない。毎晩夜中まで仕事をし、終わらなければ土日も作業をする。時給に換算したら500円? 否、100円? ……そんな感じだ。

それでも20年以上も続けているのは、ただただ日本語が好きだから。そして、何よりもこの仕事に「やりがい」を感じているからにほかならない。

学生たちにこの文法を理解してもらうには、どうしたらいいだろうか。楽しい授業のアイディアはないか。学生たちに必要な日本語は何か。何ができるようになったら彼らの日本での生活が楽になるか……。

そんなことを考え、授業を組み立てる。

学生たちの反応を想像してワクワクし、一人でニヤリとする。

長期的には、学生たちが日本語を習得することで得られるメリット、広がる可能性、その先に広がる彼らの未来……そこまでを見据えて仕事に臨んでいる。

日本語を学ぶことで、その人が少しでも豊かな、幸せな、充実した人生(=私はこれを「happyな人生」と呼んでいる)を送ることができたらいい。日本語教師である私は、そのお手伝いをしているんだと思っている。

「日本語学習者がhappyな人生を送ることに貢献できる」というのが、私の仕事の「やりがい」だ。もはや「生きがい」の一つ、と言ってもいいかもしれない。

 

世の中の人は、みんな、何かしらこういう「やりがい」を持っている、あるいはそれを求めて仕事を探すものだと思っていた。

それを、一番身近な存在である実の姉に覆されるとは、思ってもみなかった。

 

「じゃあ、定年になったら、どうするの?」

「そんなの、もう働かないに決まってるじゃない。こんだけ働いてきたんだから、もうゆっくりしたいし。嘱託とかで65歳まで働いたら、仕事なんてしないよ。そのために貯金とかしておくんでしょ、普通は。」

 

え、働かないんだ。

私は、貯金のあるなしに関係なく75歳くらいまで何かしら日本語関係の仕事をしようと思っている。仕事がなくなっちゃったら、人生、つまらなくない? 何を楽しみに生きていけばいいのかわからなくなりそう。

 

私は、生活するために仕事をしている、という意識は薄い。好きなことをしてお金をもらえて、ラッキー、くらいに思っている。「ラッキー」はさすがに軽すぎるが、まじめな話、得意なこと・好きなことを生かして社会に貢献できるなんて、人として、こんなに幸せなことはないだろう。

かと言って、ただお気楽に好きなことだけしているというわけではない。私が今、「日本語教師のプロです。好きな仕事で食べています」と言えるのは、これまで自分で行動し、つかみ取り、そして積み上げてきた結果だから、堂々と胸を張れる。

 

若いころ、「仕事」について考えた時、自分の性格上、好きなことを仕事にしないとやっていけないだろうと思った。だから、好きなことを仕事に選んだ。その結果、給料は高くなく、贅沢な生活はできず、老後の資金も大して貯められない。おまけにかなりの激務で睡眠はいつも3・4時間、食事を規則正しくとれないこともある。家族や友人には「そんな仕事、よくやってられるね」と言われ続けた。悔しかったし正論では勝てなかった。でも、それでも、この仕事がしたい。そう思ってやり続けた。

これが私の仕事の選び方。

だって、仕事は、人生の大半を共にするものだから、どんなにネガティブなことを言われても好きでいられるものじゃなきゃダメじゃない?

仕事の条件は、「好き」と「やりがい」。

 

でも一方、姉(あるいは世間の多くの人)は、ある程度のお金がもらえる、という条件が重要で、仕事はお金をもらうための「手段」だと思っているわけだ。だとすると、貯金などが十分にあれば、もうお金をもらうための「手段」としての仕事は手放してもいい、ということになる。

 

なるほど。

最近は「年をとっても長く続けられる仕事がしたい」という理由で日本語教師になろうとする人が増えているんだけど、姉は真逆を行っているということだよね。

年を取ったら、仕事なんてしたくない。だって、もうお金を稼がなくてもいいから。といったところだろうか。

姉からしたら、私なんて、「年をとっても働か『なければならない』人」に見えているかもしれないな。

 

大学を卒業してから約30年、「働いて」きたが、姉と私では、得られた金額は大きく違う。そういうレースだったら、私の大敗だ。私たちは双子で、小さい時からずっと比べられてきた。今でも、そうやって比べようとする人はいるかもしれない。でも、そもそも、そんなことで競おうと思うなら、私はこの仕事を選んでいない。それに、よく考えてみたら、仕事に対する考え方、そして働き方もまるで違うのだから、同じ土俵にも乗っていないんじゃない?

つまりは、比べられないということ。違う価値観で生きているのだ。

これは負け惜しみではない。

ここまで来るまでにはかなりの葛藤があったけど、今ははっきり言える。

これが、私にとっての「最適」な「生き方」なのだ。

 

お金がないから75歳まで働かなければならない、のではなく、やりがいがあり、生きがいの一つで、ある意味天職だと思っているから、年をとってもやる。やりたい。ただそれだけだ。私が私として生きるために必要なこと。

何なら、死ぬまで現役でもいいかも。

 

まあ、でも、こんなこと、姉には理解されないんだろうな。

でも、それでいい。

姉は近くにいる人だけど、その「生き方」はとても遠い。

だから、理解しなくていいし、理解してほしいと思わなくていいのだ。

価値観は、人それぞれ。

私は、わたし。これを貫く。

私の「生き方」、バンザイ!

 

 

<終わり>

 

 

 

***

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2025-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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