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ギーって何者?


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:音森ねこ(2026年4月開講・京都/通信・集中コース)

 

あれは小学4年生の頃だった。

私は自室で勉強をしていた。二段机の棚から教材を引っ張り出し、裏表紙から開く。その日はなんとなく国語の気分だった。それ以上の深い理由はない。でも、その選択が、私の人生を180度変えることになるなんて、当時は思いもしなかった。

私は勉強そのものが好きなタイプの人間だ。これは今も昔も変わらない。だが、読書は苦手な子供だった。親からことあるごとに読め読めと言われるのが嫌だったのか、それとも近所の読書家な同級生と並べられて、読書をしない自分がいかにも惨めな存在に思えてくるのが嫌だったのか。

いずれにしても、当時の私にとって、読書は苦行以外の何ものでもなかった。字がひたすら並んでいるものを何ページも読むなんて、一体何が楽しいのだろう。それよりもゲームをしたりラクガキをしたりするほうが楽しいじゃん。なんならいろんな教科を勉強するほうが幾分もましだった。

でも、あの日。たまたま取り組んだ国語の読解問題で、教材として使われていた小説。世に出てから二十年近く経った今でも、知らない人はいないくらい有名な作品だった。もちろん当時の私にそんな知識はない。「これを解かないといけない」くらいにしか考えていなかった。

さっそく教材で切り抜かれていた冒頭を読み進める。

え、早。これでおしまい?

もう問1がくるの?

何度見返しても、目の前には文字しかない。しかも教材用だから、本当の意味での書き出しも結末も読むことはできない。それなのに、私の目の前にはその作家さんが紡いだ景色が一本の映画のように再生されていた。

それだけではない。

読めば読むほど、活字から音が脳内で響いてくる。音声ボタンも何もないのに、私の意思とは無関係に音を鳴らす。たぶん、もう一人の自分が、現実の私に代わって目の前の活字を音読して聞かせているのだろう。いわば、セルフオーディブル状態。

視覚だけではなく、聴覚をも刺激するなんて、一体何が起きているのか。ある意味頭の中が混乱していた私でも、一つだけ確かに言えることがあった。

めちゃくちゃ面白い。

その読解問題は、自分でもびっくりするくらいすんなり解き終わった。それからの行動は異様に早かった。休日に「本屋に行きたい」と親に言って、目当ての文庫本を何冊か手に取った。その作品はシリーズものだったから、一冊読み終わったら次、というように何回かに分けて買ったように思う。当時の親も相当びっくりしたんじゃないかな。あんなに読書を毛嫌いしていたのにって。

あの日を境に、私は読書が大好きになった。

字だけが並んでいると思っていた本は、その字の奥に映像やたくさんの音を巧妙に隠していたのだ。これを知ってしまったらもう戻れない、そんな予感は見事に的中した。

わかりやすいところでいえば、勉強そっちのけで小説に浸ったり、文章を読むスピードが徐々に速くなったり、とにかく私生活でいろんな影響が出た。でも一番は、本に関わる仕事がしたいと思うようになったことだろう。それに読むだけではなく、今は自分で書くことにも手を出しているのだから、思っている以上に影響が大きかった。どこかに隕石が落下したとか、正直そのくらいのレベルかもしれない。

もちろん、この世に出ているどの本も全部好きかと言われるとそうではない。

文体の相性もあるし、読んでも訳わからんとなる本だってある。

なんなら「今は読書から遠のきたい」と思ったことだってある。

たぶん、私にとって読書は白いご飯なんだと思う。それが炊き立てでも冷凍でも、白いご飯って大半の日本人なら毎日食べるもの。でも時々パンが食べたくなったり、麺類がほしくなったりする。私にとって読書も毎日のように行うもの。でも時には映画を観たり、ほかのコンテンツを楽しんだりする時間も私には必要だ。

幸いにも、この社会には読むもので溢れている。それを好んで読む人が少なくなっているだけで、モノ自体がなくなっているわけではない。

なんて恵まれた環境にいるのだろう。

だから私は読書をやめないし、これからもたくさんの活字を映画のように再生する。いろんな言葉の音をリズミカルに鳴らしていく。それをとても素敵なことと思える感性は、これから先も、なんなら死ぬまで大切にしていきたい。

数多の作家さんたちが残してくれた、いろんな種類の白米を味わいながら、私は今日も文章を綴っていく。

《終わり》

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