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最高のスパイス料理っつーのは、やはり……《週刊READING LIFE Vol.367「スパイス 」》


 

 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

 

 

記事:まるこめ (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

 

あぁ、暑い……

梅雨が明けたと思ったら、猛暑だ。

 

外に出るだけでH Pが削られていくのを、ヒシヒシと痛感している。

それなのに、どうしたもんだ。息をするだけでも、ダラダラと汗が額を滑り落ちていくのに、カロリーは一向に消費されていないように感じる。それどころか、これから猛威を振るう夏に抗うように、余分な脂肪は私の体にしがみついて離れてくれない。

 

うーん、冬に蓄えたエネルギーって、夏に消費するって聞いていたんだが……

 

それもそのはず、夏はとにかくビールがうまい!

仕事終わりのビールは、何にも代え難い。これが、夏になるとその尊さは言うまでもない。

汗を流して働いたカラダに、キンキンに冷えたグラスに注ぐ、これまたチンカチンカのルービーはこの世で一番の味方なんじゃないかな? と思わず錯覚してしまう。キレのある喉越しと、オトナになったから感じるようになった旨味が、ヘトヘトに疲れた私に「お疲れぇ!」と言いながらバシバシと背中を叩いてくれる。

 

「あぁ、晩御飯何にしよう……」

 

時刻は、16時を回ったところだ。仕事中とはいえ、主婦と2足の草鞋を履く兼業主婦としては、帰宅後も仕事みたいなもんだ。むしろ、本業の会社員よりも帰宅後の方が限られた時間でタイパよく立ち回り、料理から風呂、寝かしつけまでのオペレーションを分刻みのスケジュールで行わなければならない。良い仕事を行うためには「準備が9割」なんて言われることがあるように、下準備とイメトレは欠かせない。とはいっても、幼い子供がいるとイメトレ通りに進むことは皆無なのだが、色んな想定を事前にしておくことである程度のピンチには対応できるようになっている。やはり「準備が9割」なのかもしれない。

 

今日は、大忙しだったから濃い味のものが食べたい。

先週、そうめんを数日間堪能したので、そろそろガツンとしたものが食べたい。

 

暑い時に食べるそうめんのような冷たい食べ物は大好きだけど、やっぱり夏は汗をダラダラ書きながら食べるスパイシーなものが時々欲しくなる。この暑い夏に打ち勝てるような、熱々でスパイシーな

 

 

「カレーが、食べたいなぁ」

 

 

あぁ、カレーだ。カレーにしよう。

そういや最近、スパイスカレー作ってなかったなぁ。

 

カレーを食べに行くほど好きなあまり、自分が食べたいときにすぐ作れるよう「スパイス」は常備している。涼しい顔で電話をとりながら、テキパキと目の前のパソコンをカタカタと鳴らしているけれど、頭の中ではカレーを作り始めていた。

 

まずは、タマネギを用意……からしたい。

本当は、ちゃんと微塵切りして手間暇かけて飴色にしたい。そんなこと仕事終わりのバタバタの中始めたら、長女は「私もやる!」と言って楽しめそうだけど、腹ペコで帰宅する旦那さんは、待ちきれずに機嫌が悪くなるだろう。カレーはまだおあずけの大飯ぐらいの次女に至っては「早くあたいのメシ食わせろ!」と言わんばかりの癇癪を起こすに違いない。

そんな私に取っての救世主が、業務スーパーには、ある。

冷凍の「オニオンソテー」があれば「飴色タマネギ」が完成した状態から、スタートすることができる。タマネギを、みじん切りにして手間暇かけて丁寧に飴色にしていく時間を一瞬で短縮することができる代物だ。

 

そこに、カットトマトを入れて、水分が飛ぶまで一緒に炒めていく。

 

休みの日であれば、手間暇かけたい。

私が仕事をする理由の一つに「家事が苦手」というのがあるのだが、仕事を免罪符に使う代わりに唯一人並みにできる「料理」だけはどうにか仕事が忙しくても出してあげたいと思っている。「できる限り自分が作ったもの」を出すためには、多少はズルというか、手段を選んでいる場合じゃない。

 

そんな、私の腹黒さとまではいかなくとも焦げ茶色に色が変わっていたところにニンニクと生姜を加え、ある程度置いたところで、ようやく主役がやってくる。

我が家のスパイスカレーの「三種の神器」とも言えるターメリック、コリアンダー、クミンだ。

 

(それにしても、1つ1つが美味しいわけじゃないんよな……)

 

実は、1度だけ3種の神器をそれぞれペロッと舐めてみたことがある。

なんとなく、料理に使うものだから、そのそれぞれの味を知りたいという探究心が私にそうさせたのだ。

 

結果から言うと、それぞれが美味しいとは程遠い。

ターメリックは、なんというか土っぽい。けれども、酒飲みの私に馴染み深い感覚があったのは、その正体が「ウコン」だからだ。ウコンの力を飲んだ時の、なんかこう土っぽいのはこれだったのか! と改めて気付かされた。

 

クミンは少しほろ苦い。だけど、香りは「カレーそのもの」だ。

そして、コリアンダーはくすんだグレーの見た目に反して、口にするとほんのり甘みがあって、なんと言うか柑橘のような爽やかな香りがした。

 

そんな3種3様のスパイスが、どう化学反応を起こしたら「美味しいカレー」なるのかは、何度作っても不思議でならない。スパイスカレーを最初に作った人は、相当に綿密な計算ができる賢い人だったのか、はたまたノリと勢いであれこれ混ぜたのか……タイムマシンがあるのなら、是非とも会いに行って話を聞いてみたい。

 

そんなスパイスたちの饗宴が始まると、部屋中に食欲をそそるいい香りが立ち込めてきた。

 

そこに、ココナツミルクを加え、お好みの具材……我が家の定番は鶏肉かエビにブロッコリーだ。そして味を見ながら塩を足してしばらく煮込むと部屋中に良い香りのハーモニーが広がっていく。

 

一見すると、個性の塊でしかない「スパイス」たち。それが、鍋の中で出会い、溶け合い、やがて「スパイスカレー」と言う名の調和を生み出す。

ふつ、ふつと沸き立つ鍋を思い浮かべながら、カレーってまるで人生そのものだなぁと思った。

 

ターメリックの土っぽさは、まさに人生の「土台」そのものだ。

毎日、淡々と繰り返す家事や仕事。それ自体は単調で、なんの意味があるのかな? なんて思うかもしれない。けれども、時間をかけて煮込むように、当たり前をきちんと積み重ねていくと、カレーの「あの色」同様に自分を作るベースの「色」になる。

 

クミンは、自身の「個性」と言ってもいい。

目立ちすぎてしまうと、よくない印象があったとしても、周りとうまく調和されることで、短所が長所と紙一重なように、自分自身を鮮やかにする「スパイス」となる。

 

そして、コリアンダーは「甘さ」だ。

尖った生き方は、カッコ良いけれど、やっぱり疲れてしまう。自分だけじゃなくて、周りまで巻き込んだ形になってしまったら、もうそれはカッコ良くもなんともない。

どこか「愛される人」と言うのは尖った生き方をしていたとしても「抜け感」だったり「スキ」を魅せることができる人だと思う。そういう「甘さ」を出せる人がきっと魅力的で、安心できるのかな、と思う。

 

そんな、人生を食べることができる「スパイスカレー」って良いじゃない。

 

今夜は「スパイスカレー、キミに決めた」と心の中でぼやきながら、仕事を大急ぎで片付けた。

 

「お疲れ様でしたー!」

 

定時でGO! 首尾よく次女を迎えに行き、導線よく買い物を終わらせ、意気揚々と家路を急いだ。体はヘトヘトだけど、足取りは軽い。カレーだ、スパイスカレーを食べるんだ。

口の中が、食べてもないのにカレーの味になっている。身体も間違いなく「刺激」を欲している。勢いよく玄関を開けた。

 

「ただいまー! お! んん??」

 

2階から、なんともスパイシーな香りが漂ってくる。

これは、もしや……という思いを抱きながら、私は2階への階段を足早に駆け上がった。

 

「おおおおおお! 考えることは同じやったね!」

 

カレーだ、カレーが、いた。

母の作るカレーがそこにいた。

 

ルーを使ったカレーだが、母のカレーは何種類ものルーを掛け合わせ、水分はキャベツなど野菜の水分を使って作る所謂「無水カレー」だ。ドロドロとしたルーが炊き立てのご飯と最高にマッチングして、良い。

 

「これ、食べていいと!?」

 

「食べて良いけど、じいじの分は少し残してね」

 

1階に降りると、3種のスパイスたちがこちらをじっと見つめている様な気がした。

 

「え? 今日、俺たち……使うよね?」

 

すまない、スパイスカレーは確かに好きだ。でも、オカンの作るカレーには勝たん。

誰かに作ってもらったご飯が美味いし、何より自分の母親の料理に勝るものは無い。

台所にあったスパイスたちには引き出しの奥に引っ込んでもらった。ごめんね、今日はお呼びでありませんでした。

 

今日買ってきた材料は違う料理に使ってしまおう。

使う時に思い出し笑いしそうだけど、これも人生のスパイスみたいなもんだ。

 

これから起こる、いろんな出来事も日常に刺激をもたらす「スパイス」と思いながら生きていくのも良いかもしれない。時に行き詰まっても、ちょっと立ち止まって煮込んで仕舞えば美味しくいただける日がやってくるだろう。

 

 

いやー、それにしても母のカレーはマジで美味い。

母のカレーしか、勝たんわやっぱり。

 

 

【終わり】

 

❏ライタープロフィール

まるこめ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

日常のあれやこれやに思いを馳せながら、ある時はペンを握り、ある時は包丁を握り、ある時はマウスを握る。自動車販売会社に勤める傍ら、9歳差の姉妹を育てる兼業主婦リーマン。今日も夕飯の献立が浮かばない。

 

 

 

 

 

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