SNSキモいけど、実物イケメンですね
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:石川隆敏(ライティング・ゼミ)
◆いきなり、キモいと言われた
「SNSだとキモいけど、実物はめっちゃイケメンですね」
初対面の男性から、そう言われた。
東京、代官山。店のなかに、螺旋階段をまるごと1本入れてしまったような、ぜいたくな作りのカフェだった。オレはホットのカフェラテを両手で持ったまま、3秒くらいフリーズしていたと思う。
褒められたのか。けなされたのか。
とりあえず、両方だった。
◆ずいぶん見る目のある人たちだな
そもそもオレは、この日この人たちに会う予定なんてなかった。
家族でやっているタカファミリーのInstagramに「いま東京にいます」と書いたら、「会ってみたいです」と連絡をくれた人がいた。それがこのご夫婦だった。オレは妻が2人いる。第1夫人のえりさまと、第2夫人のあやさま。子どもは4人いる。一夫多妻という珍しい家族の日常を、赤裸々に動画で語っている。そういうアカウントだ。それを見て「ただものじゃないと思った」らしい。ずいぶん見る目のある人たちだな、と思いながら会いに行った。
会って3分で、見る目がないのはオレの方だとわかった。
旦那さんは、夏らしい白いポロシャツにハーフパンツ。爽やかさを絵に描いたような格好だった。仕事のできそうなイケメンが、そのまま夏らしさをまとってやってきた、という感じだ。
法律を扱う仕事をされていて、話し方が静かなのに、言葉の置き方に芯があって、いちいち正確だった。仕事ができる人特有の、あの余裕と余白のある喋り方をする。
奥さまは医療従事者で、そのうえご自身でも事業をされている方だった。何を着ていたかはもう思い出せないけど、ただ「代官山を歩いていて一番しっくりくる人」の服装だった、という記憶だけがある。洗練という言葉は、この人のために作られたに違いない。
美男美女で、しかも2人ともたくさんお金を稼いでいるパワーカップルで、そのうえ人格者だった。
神さまは、たまにこういうことをする。
◆失礼を承知で、踏み込んだ
3人で話しはじめると、2人はぽつぽつと悩みを打ち明けてくれた。中身はここには書かない。それはあの2人のものだからだ。
ただ、聞いているうちにわかったことがある。この2人は、お互いをものすごく大事にしている。大事にしすぎて、言えなくなっていることがある。
だからオレは、初対面のくせに、ずかずかと踏み込んだ。
思ったことを、そのまま言った。オレの家も特殊な家だから、夫婦の話については、たいてい世間の常識の外側から言うことになる。失礼だったかもしれない、と話しながら何度か思った。
◆怒られると思っていた
そのときだ。
旦那さんが、まっすぐこちらを見て言った。
「SNSだとキモいけど、実物はめっちゃイケメンですね」
嬉しかった。
理由は、たぶん普通の人が思うのと違うところにある。
この手の話は、逆のパターンをよく聞くのだ。SNSではキラキラしているのに、実際に会ったらぜんぜんだった。あの人、加工と言葉づかいだけで生きてたんだね。そういう感想を、オレは何度も人から聞いてきた。
うちは、逆だったのだ。
◆なぜキモいのか、白状します
しかも、これはオレの努力の成果ではない。単に、SNSのオレが本当にキモいだけである。
正直に書く。うちの動画に映っているオレは、かなりキモい。第1夫人のえりさまと、第2夫人のあやさまの前でだけ発動する、甘えモードのオレだからだ。声が1オクターブ上がる。デレデレする。子どもみたいなことを言う。つまりあれだ。甘えているわけだ。全国甘えん坊検定、1級である。
その顔のまま、カメラを回している。
あれは、外に出す顔ではない。それを、あえて外に出している。
人はたぶん、1つの塊ではなくて、面がいくつもある多面体だ。仕事のときのオレは、あんな声では喋らない。数字の話をするときのオレは、たぶんそれなりに切れている。ただ、その面をわざわざ撮ってはいない。撮っているのは、家族に甘えている、いちばん締まりのない面だけだ。
だから「キモい」は、わりと正しい評価だと思う。ありがとうございます。
◆その夜、メッセージが届いた
そして、そのうえで「実物はイケメン」と言われた。
でも、それが嬉しかった本当の理由は、その夜に届いたメッセージのほうだった。
旦那さんから、こう書いてあった。
「顔とか、雰囲気とか、オーラの話じゃなくて。生き方が、イケメンですね」
うわーーーーーーー、と声が出た。
そして、メッセージはこう続いていた。
「妻に言おうと思っていたけど、ずっと言えなかったことがあって。それを、今日タカさんが言ってくれました。初対面なのに、ちゃんと配慮しながら言ってくれて、すごく良かったです」
◆イケメンかどうかは、自分では決められない
念のため書いておくと、オレは戦略でキモくしているわけではない。
「あえてダサいところを見せて、ギャップで勝つ」みたいな計算ができる人間なら、もっと早く成功していたと思う。あれは計算ではない。えりさまとあやさまの前だと、ただ本当にああなってしまうのだ。そして、なってしまったまま、カメラを止めなかっただけだ。
隠さなかった。それだけしかしていない。
オレは今、30代だ。
若さと顔で勝負ができる時期は、たぶんもう終わっている。だからここから先は、生き方のイケメンでいるしかない。それなら自分で決められることだから、まだ勝負になる。
ただ、ここでひとつ問題がある。
生き方がイケメンかどうかは、自分では判定できないのだ。
ドラゴンボールに、こういう場面があったと思う。フリーザ様が強すぎて、クリリンにも悟飯にも、その強さがまるで測れない。桁が違いすぎると、人はもう相手の大きさを読めなくなる。それどころか「こいつ、たいしたことないんじゃないか」と勘違いすることさえある。
強さを測れるということ自体が、実力のうちなのだ。
だから、あの日オレの生き方を「イケメン」と言い当てたのは、あのイケメン旦那さんの器がでかいからだ。オレの手柄ではない。初対面の相手にずかずか踏み込まれて、腹を立てるどころか「良かったです」と言えてしまう人だから、こちらの中身まで見えたのだと思う。
生き方がイケメンかどうかを見抜けるのは、生き方がイケメンな人だけだった。
オレにできることは、2つしかない。
生き方を磨くこと。そして、キモい面まで全部さらけ出すこと。
隠していたら、見抜ける人が目の前に来ても、なにも起こらない。
キモさは、たぶん一生直らない。えりさまとあやさまの前では、この先もデレデレしていると思う。
でも、そのキモさごと、全部さらけ出しておく。
そうしておけば、いつかまた、それを見抜ける人が向かいの席に座ってくれる。ホットのカフェラテを飲みながら、こう言ってくれるかもしれない。
「SNSだとキモいけど、実物はめっちゃイケメンですね」
そのときオレは、もう3秒もフリーズしないでいたい。
《終わり》
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