幼い頃の夢
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:福乃 玲(ライティング・ゼミ名古屋会場)
三十数年前、私には夢があった。
作家になることだ。
本が好きな子どもだった。
読書好きの母に連れられて、休日には、きょうだいと図書館に行くのが定番だった。
当時は、予約制度なんかも今ほど確立されていなかったのだろう。
お気に入りのシリーズ本があり、まだ読んでいない本が棚に並んでいるか、胸を躍らせながら図書館に足を踏み入れていた。
読み切るのが勿体なく、最後の方はわざと失速しながら読んだ。
幼いながらに、本を読むと、一瞬で現実とは離れ空想の世界に飛び込めるのが好きだった。
その後、小学校の2年間、父の転勤で海外に住むことになった。
私は、インターナショナルスクールに通っていたので、たちまち英語が第二外国語になった。
ある日、学校で読書大会なるものがあった。
1か月に読んだ本の数を競い、校内で一位を決めるというものだ。
1冊読む毎に親からお金をもらい、その合計額を寄付するような企画だった。
お金の額は、家庭により自由だった。
一冊読む毎に5,000円くらい貰っている友人もいた。
当時の私からしてすごい額! と驚いたので、もしかしたら5,000円ではなく、1,000円だったのかもしれない。
私は、一冊読む毎に10円をもらった。
それくらい、額はバラバラだった。
読む本のジャンルは問わない。
そして、同じ本を何度読んでも一冊として数えてよいというルールだった。
その日から、私は一位になりたい! ともの凄い数の本を読んだ。
学校から帰ってくると、自分の部屋にこもり、ひたすら本を手に取った。
言語に縛りは無かったと思うが、家にあった英語の本を片っ端から何度も何度も読んだ。
1ヶ月後、私はぶっちぎりで一位になった。
賞金は3,000円のCDショップで使える金券だった。
金券を握りしめ、街中のCDショップに行き、
当時流行っていたディズニー映画のサウンドトラックを購入した。
初めて自分で手に入れたお金を使って買い物をした記憶は、今でも心に残っている。
優勝するまで、負けるかもしれないと思っていた。
蓋を開けてみると、一桁の数しか読んでいない人もいて「なんだ。 こんなに頑張らなくても良かったんだ~」と思った記憶がある。
この企画が、貯めたお金の額だったら、私は負けていたと思う。
そのスクールは、大半は経済的に余裕がある家庭だったが、そうじゃない家庭もあった。
今思えば、あのルールは、どんな家庭の子も同じように競えるよう考えられていたのかもしれない。
今思えば、この出来事は、その後の私に大きな影響を与えたのだと思う。
努力は裏切らない、誰にも負けないくらい努力しよう、そう思ったのだ。
2年後、日本に帰国した。
相変わらず本は、好きだった。
いつの間にか私は、作家になりたい、と夢見るようになり、気が向いたら空想の世界にふけり、物語を書いていた。
その頃は、エッセイという分野があることも知らなかったので、物語という選択肢しか私にはなかったのだろう。
失恋したら読むことにしていた本があり、「こんな辛い思いをしているのは、私だけじゃないんだ」と、心が軽くなった。
受験勉強に疲れたら、寝る前に本を読める! というご褒美を自ら課し、
大好きな小説家の本を読んだ。
夜中に本を食べていたこともあった。朝起きたら、ページが無くなっており、唖然とした。
受験勉強に相当追い詰められていたのかもしれないが、それくらい本は私にとって切っても切れない存在だった。
でも作家になる夢は、いつの間にか消えていた。
「作家で生計を立てられる人はほんの一握り」、「相当の覚悟が必要だ」
そんな現実を見聞きしたのもあったのだろう。
気付いたら、大学、そして大学院に進学し、
就職した。
仕事は大好きだ。
働き始めて15年、私の人生の一部になっている。
ただ、どこかで「作家になりたい」と本気で思っていた幼い私のことがずっと心の片隅で気になっていた。
そんなとき、友人から文章を書く講座に誘われた。
その友人は自分で本を作って既に出している。
私が、作家になる夢があったことを何気なく話したとき
「じゃぁ本、出そう!」と言ってくれたのだ。
とりあえず、お試し一日講座を受けてみた。
面白かった。
でも本講座に入ると、毎週2,000字の課題を出さなければいけないと聞き、
私には無理だ、と躊躇した。
でも、友人からの誘いもあり、飛び込んでみた。
そこから、毎週課題を提出した。
正直、もう今週は無理だ、と思う日もあった。
でも、出した。
文章を書くことは、楽しく、苦しい。
大切な友人が亡くなったとき、ぼろぼろ泣きながら文章を書いた。
苦しかったけど、いつの間にか癒やされていることに気付いた。
良い文章を書けた、なんて思ったことは一度もなかった。
読んでくれている人の目も気になり、そんなことを考えている自分に嫌気がさした。
否が応でも自分自身と向き合うことになり、心の奥にいる自分と闘いながら、文章を書いた。
でもそれでいいんだ、と思った。
現代は、AIで文章を書く手伝いをしてもらえる時代になった。
それでも、私は、心のこもった文章を読みたいし、自分の文章もそうでありたい。
古い考えなのかもしれない。
けれど、自分の言葉で悩み、癒やされ、葛藤しながら書く時間があるからこそ、誰かの心に届くのではないかと思う。
これから、本を出すという夢が叶うと嬉しい、と思う。
もしその日が来たら、「夢が叶ってよかったね」と、作家になりたかった幼い私に、伝えたい。
そして、その本を一番最初に、あの頃の私へ手渡してあげたい。
《終わり》
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