保育園児に笑われたい!!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:奥津光佳(ライティングゼミ・2026年5月開講/通信・4ヶ月コース)
名古屋のとある書店の演劇のワークショップに参加した。
それは「子どもにウケたい!!」という自らの欲望からだった。
仕事柄、保育園へお邪魔する事が多い。保育園に行っては、子どもたちと身体を動かしたり、テーマを決めて遊んだりする。
たくさんの4-5歳の子どもたちがいる中で、活動を進めていくために重要なことは何か? それは子どもの注目を常に集め続けることである。しかし、これが本当に難しい。この年齢の子どもたちは、とてつもない速度で飽きてしまうのだ。それはもう一瞬で。
飽きてしまって、「まだやるの〜」「もうイヤー」と言われるのはまだいい。いや、それも凹むけれど…。
それ以上に申し訳ない気持ちになるのは、みんなが「いい子」なことである。それの何がいけないのかと思われるかもしれない。みんな真面目に最後まで付き合ってくれる。飽きたとも言わないし、イヤとも言われない。
ただ、表情がない。それはつまり、いい子で、真面目で、優しくて、外から来たおじさんに付き合ってくれているのだ。これが本当に胸が締め付けられる。
どの子も本当は楽しく遊べるのだ。園庭で、教室で、自由な時間と空間さえあれば、子どもたちはどれだけでも遊んでいける。いま、この瞬間を楽しい時間で埋め尽くせるのに、おじさんに時間をくれているからそれができない。もうたまらない気持ちでいっぱいになってしまう。
しかし、ごめんよと謝ったところで、誰の得にもならない。少しでもいい時間にしようと、一生懸命変な動きをしたり、精一杯のギャグを飛ばしてみるが、ますます場は冷めていく。あーやっちまった、とこわばった表情で呆然としていると、みかねた先輩が助けに入ってくれる。
これがまた悔しいことに、その先輩が入ると子どもたちの表情が一気に変わるのだ。ある子には大ウケ、ある子は夢中になって話しかける、ある子はなんじゃそれー! とツッコミを入れる。それを見ている保育士さんたちも笑っている。さっきまでとは打って変わった場の盛り上がり。
このままじゃいけない! と思いどうすればいいのかを考え始めた。
手始めに、お笑い芸人の真似を練習する。ギャグのやり方、とぼけ方、ポーズの取り方…。さて、どんなもんかとビデオを撮り、確認をしてみると、そこには奇妙な生物が写っていた。自分でやっておいて悲しいが、まったく面白くない。表情は固いし、動きも固い。お笑い芸人の真似をするロボットのようであった。これ、スベるならまだいいけど、泣く子もいるんじゃないかな…と思ってしまい、このビデオは永久に封印することにした。
その後も色々と調べて、練習してみる。コントに、落語、漫才、体操のお兄さんなどなど…。どれもしっくりとこない。あーどうしようと、頭を抱えてSNSを眺めていたら目に入ったのが「演劇ワークショップ」であった。内容を見てみるとどうやら近々名古屋であるらしい。しかも、定期的ではなく不定期開催だ。これを逃したら次はいつになるのかわからない。初心者も歓迎とのこと。何か掴めるかもしれないと思い、えいや! と参加の申し込みをした。
ワークショップ当日、仕事を急いで片付け、車を飛ばして高速道路で名古屋へと向かう。
その書店は、名古屋のテレビ塔がよく見える公園の端に立っていた。
僕は、演劇なんて全く経験のない、正真正銘の初心者である。何をこれからするかなんて検討もつかない。緊張からかそわそわしてしまい、書店の前をうろうろする。でも、来たんだからやるしかないと覚悟を決めて書店へと入っていった。
店内の広い部屋には、四方の壁に沿うように椅子が並べてあった。どうやら今日の会場らしい。店員さんに促されるままに、席に着く。しばらくすると他の参加者も入ってくる。おしゃれなお兄さん、素敵なマダム、スラリとした若い女性に、弾むような明るいお姉さん…。実に色々な人が参加している。なんだか、みんな演技が上手な役者さんみたいに見えてしまう。ここから2時間半、果たして上手くやれるのか、緊張が最大に高まる中、講師の先生の一言ともにワークショップが始まった…。
結果からいうと、最高の時間だった。
今まで経験したのことのない体験が詰まりに詰まっており、気づいたら2時間半、いや参加人数が多く、延長してくれたので、計3時間。濃密なのにあっという間に終わってしまった。
「演じる」ということ、身体を使って表現するという事が、こんなにも楽しいものだとは知らなかった。
人にウィンクを飛ばしてみたり、受け取ったり。ペアの人の言葉に応じて、彫像になってみたり。お題に合わせて、チームで一枚の絵を描くようにポーズで物語を作ってみたり。まったくの初対面の人と即興劇してみたり。
未知の体験だった。どうみられるかな? 変に思われるかな? なんてまったく気にする事がない。表現をする事が、相手とやり取りをする事がただ楽しい。
いつもは人とコミュニケーションをすることにおよび腰。どうやって話しかけようと頭の中でシミュレーションをしながら言葉を選んで会話をするのに、ワークショップの間はまったくそんなことはしなかった。相手が自分の表現を受け取ってくれる安心感、表現するほどに場が高まっていく感覚。そんなに言葉を交わしたわけではないのに、参加しているみんなとなんだかつながりが生まれた感覚があった。
「演じる」というのは、ある役そのものになりきることだけではないのかもしれない。それよりも、自分の中にあるものを、普段は表現しない何かを外の世界へと引っ張り出してくれる行為なのではないかと思う。何かのテーマに沿って演じること、何かの役になって演じること、実はそれは自分という存在も表現してるのではないだろうか。自分の中にあるものをテーマや役を媒介として他者が受け取れるものにする事が演じるという事なのではないか。
全くの初心者が何を言っているのかと思われるかもしれない。だけど、それが自分の中で腑に落ちる感覚があった。
僕は子どもたちの前で、上手くやろうとしていたのではないかと、はたと気が付く。失敗して恥ずかしい思いをしたくないから、無難な言葉を選び、無難に表現し、無難に進めていく。それは、子どもたちがつまらなく感じて当たり前だ。自分が心からその時間を楽しんでいないのだから。
もっともっと心の奥底から楽しむべきだった。もっともっと自分の心を、楽しさを、言葉に乗せて身体に乗せて表現するべきだった。子どもたちに受け取って欲しい事を全力で伝えるべきだった。
きっとこっちが本気で楽しむから、子どもたちも本気で楽しんでくれるのだ。
スベってもいい、失敗してもいい。でも、全力で表現しよう。子どもたちに伝えよう。
そんなヒントを得て、書店を出ると遠くに立つテレビ塔が美しい光で照らされていた。
≪終わり≫
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