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加齢万歳!!《週刊READING LIFE Vol.369「フリー」》


 

 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

 

 

記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「それは加齢が原因かもしれませんね」

お世話になっているヘアスタイリストさんの言葉に驚いた。年齢を重ねることで、子供の頃から憧れていた理想の自分に近づくことができるなんて、思ってもみなかった。同時に、もう一つのコンプレックスも年齢が解消してくれたことを思い出した。同じ境遇の人と「でもさ、これって…… 年をとったからなんだよね」と、笑いながら話したことがある。

「大人になる」とか「成長した」という表現であれば、年を重ねることはポジティブに捉えられるが、「年齢のせい」とか「年だから」という表現になると、途端加齢は悪者になる。仕事だって恋愛だって、何だか若い人の方が得をしているんじゃないかと、もやもやしていたアラフォーの時、私は年を重ねることで「なりたかった自分」になれていることに気がつくことができた。

それまでは、年齢を重ねることに、漠然とした恐怖心を抱いていた。今の自分に満足をしているわけではない。もっと成長したいという思いはある。でもそれは年齢を重ねることで会得するのではなく、例えば「『翌朝目を覚ましたら、理想の自分になっていた』なんておとぎ話のようなことが起きないかな」という夢見がちな思いだった。

そんなことはもちろん起こらないわけで。でも時間が、理想の自分を作ってくれていることを知った時、「歳をとることは悪くない。むしろ私にとっては、いいことばかりだ」ということに気がついた。

時間よ、ありがとう。加齢万歳である。

 

 

 

「お母さんに似て、あなたも癖毛ね」

子供の頃、私の髪を結いながら、母がよく言ったものだ。ただ母の癖毛と私の癖毛は種類が違った。母は猫毛で細く、伸ばすと緩いウェーブがかかる髪質だった。それに比べ、私の毛はしっかりとしていて太くボリュームがあり、毛先は外にはねていた。

ショートやボブだと爆発しがちなため、髪を伸ばして結わくことでごまかしていたが、背中に届く程の長さながら、毛先まで真っ直ぐでサラサラヘアーの人を見ては「いいなぁ…… 私もあんな髪質で生まれていたら」と恨めしく思っていた。

社会人になり、初めて縮毛矯正をしたとき、美容師さんと会話する中で接客業をしていることを告げたところ、「この髪型で接客しているんですか? ちゃんとセットしたほうがいいですよ」と注意されてしまった。数年の付き合いの友人にその話をしたら「サイドの髪の毛いつもはねてるよね。ずっと寝癖だと思っていた」と言われ、友人にも身だしなみが整っていないと思われていたことを知り、ショックを受けた。

そんなこともあり、何年も縮毛矯正を続けていたところ、知人に「ヘアスタイリストさんがいる美容室に行った方がいい」とお勧めの美容室を紹介してもらった。

「どんな髪型にしたいですか?」と聞かれ、とにかく自分の癖毛が嫌だった私は「癖毛が分かりづらい髪型でお願いします」と伝えた。「癖を生かす髪型もかわいいと思いますよ」と言いつつ、長かった髪を短く切ってくれた。短くなってボーイッシュさが増したように思いつつ、扱いやすくなった髪型で快適に過ごすことができた。

1、2年経った頃だろうか。雨の日は相変わらず爆発気味ではあるものの、今までのコンプレックスであった毛先の外はねが気にならなくなっていることに気がついた。いつの間にか縮毛矯正をしなくても、まとまりのある髪質になっていた。

ヘアスタイリストさんの技術力のおかげだと思い、「ここでお世話になってから癖毛が気にならなくなりました。ありがとうございます」と告げたところ、「そう言ってもらえると有り難いです。でもそれは、加齢が原因かもしれませんね。歳を重ねると、ホルモンバランスが変わるでしょう。それによって髪質が変化することがあるんです。今まで癖毛だった人の癖が落ち着いたり、反対にストレートだった人が癖毛になったりすることもあるんですよ」と教えてくれた。

年齢を重ねることで髪質が変わることがあるとは初耳だったので、「本当に!? 私がお礼を伝えたから謙遜で言っているのかしら」と思いつつ、そう言えばと思い出した。子供の頃から目が一重で小さいことにコンプレックスを持っていたが、30代になったころ、目の形が変わっていることに気がついた。シワ一つ無くのっぺりとしたまぶたに、いつの間にか筋が入り、まるで二重のようになったのだ。

 

 

 

我が家は父も母も姉も二重で、目が大きい。対照的に私は一重で目が細く、子供の頃は「私だけ目が小さいなんておかしい。もしかしたら私は拾われてきたのかもしれない」と真剣に悩んだことがある。

目が細いことに加え、表情が豊かでなかったことが影響してか、子供のときは「目つきが悪い」「いつもにらんでる」と、よくからかわれたものだ。中学生のときにイラストを描くのが好きな友人が私の顔を描いたとき、目を線で表現していて「こんな顔と思われているんだ」とショックを受けたことを、今でも覚えている。

大人になって容姿をからかわれることがなくなっても、自分の顔に自信を持つことはできなかった。目の大きい友人を見ては「可愛くていいな」とうらやましがり、雑誌やテレビで一重で切れ長の目をしたモデルが活躍をしているのを見ても「この人たちは一重であるデメリットを凌駕するプロモーションだから活躍できているわけで、私はそうじゃないし……」とすねていた。

そんな私に転機が訪れた。30代に入ったころ、気がついたら両方のまぶたにスッと筋が入り、まるで二重のようにくっきりとくぼみができるようになった。

子供のころ、熱を出すと片方の目だけ二重になるときがあった。家族に「目が大きくなったね」と笑われたものだが、子供のときは熱の辛さが吹っ飛ぶくらい嬉しかった。目が大きくなるのはもちろん、シャープさがなくなることで、優しい顔立ちになったように思えた。どうかこのまま二重でいられますようにと願ったものの、熱が下がると同時に二重も消えていき、ひどくガッカリしたことを覚えている。

 

熱を出さずとも、長い間憧れていた二重になれている。しかも持続可能だ。何もしていないのに、なぜだろう。変化したことと言えば、歳を重ねたことだ。肌は20代半ばにピークを迎え、それ以降は下がっていくと言われている。徐々に肌の張りが失われていく課程で目元にシワができ、結果二重になったのだろう。

職場の同僚達とお昼時にそんな話しをしていたら、一人の同僚が「私も一緒。子供の頃は一重だったのに、いつの間にか二重になったのよ」と教えてくれた。「でもさ、これって…… 年をとったからなんだよね」と笑いながら話していたら、私よりも年下の一重の同僚が「うらやましい。私は一重のままです」と言うので、「あと数年待ってみて。変わるかもしれないから」と伝えた。

ネガティブに捉えていた「歳を重ねる」ということが、いつの間にかコンプレックスから私を解き放ってくれていた。これって外見のことだけだろうかと思いを巡らせてみると、そうではないことに気がついた。

 

 

 

「隣の芝生は青い」という言葉がある通り、人はどうしても他者と自分を比べてしまう習性がある。私は30代後半くらいまで、周囲と自分を比べては「いいな、いいな」とうらやましがってばかりいた。それならば「いいなと思う人を真似してみたらいいじゃない」となるところだが、それはそれで「どうせ自分なんて……」と自分を卑下して、行動できずにいた。単なる臆病者なのだが、周囲からはそう見えないようで、「あなたは自分を持っている人だよね」と言われることが多かった。そう言われる度にポーカーフェイスでつくろっていたが、内側ではドロドロした思いを抱えていた。

30代半ば頃、仕事でもプライベートでも行き詰まることが多くなるとともに、段々自分に嫌気がさしてきた。自分はいつまで同じところをグルグル回るだけで、変わろうとしないのだろうか。

「もう、いいんじゃない。素敵なあの娘と自分を比較してうらやましがったり、上手くいかない自分にダメ出しするのは、もう止めよう! 誰かにOKしてもらうんじゃなくて、自分で自分にOKを出していこう」

そう決めて、時間やお金に糸目をつけずに、やりたいことをやり、行きたいところに行き、会いたい人に会いに行くようにした。一番効果があったのは、「会いたい人に会いに行く」だった。憧れの人に会い、直に話し、そしてその人が「やってみたら」と言ってくれたアドバイスを、「どうせ」とか「私なんて」という思いを封印して、まずはやってみる。

上手くいくときもあれば、思ったような成果を出せないこともある。上手くいった時に「あー、よかった」で終わらせるのではなく、なぜ上手くいったのか、以前の自分と比べて今の自分はどう変化したかを振り返ってみる。思った結果にならない時は、なぜできなかったのか、次回はどうすればよいかを考える。そうすると出来事を良いとか悪いで判別することなく、自分にとって「必要な経験」として捉えることができ、「今度同じ事があったら、こうしよう」と自分の引き出しを一つ増やすことができる。

20代の私だったら、「こんなにお金を一気に使うなんて、できない」とビビってやらなかっただろう事にお金を出すことができたのは、今まで働きながら貯めてきたお金があったからだ。そして、それまで何度も「もう無理だ……」という経験をしながらも、なんとかやってきた自負心があったからだ。歳を重ねる中で「なんとかなる」環境を作ってきたことで、「えいやっ!」と飛び込むことができた。

そして飛び込んだ先で、トライアンドエラーを繰り返しながら自分に向き合い、「自分に問う」ことで自分の見方が変化し、思考・言葉・行動が変わり、自分に「OK」を出せるようになった。

 

以前は金曜の夜が一番元気で楽しい時間帯だったのに、今では週の中で一番グッタリする時間帯に変わってしまった。「お腹パンパンでこれ以上無理!」と言いながら食べ続けていたのに、いつからか食べ過ぎによる胸焼けを恐れて食べる量をコントロールするようになった。休暇となれば最終日ギリギリまで旅行に行っていたのに、今では最低1日は休む日を準備しておかないと体が保たなくなってしまった。

 

歳を重ねてできなくなったことは増えた。では若かりし頃を憂う気持ちがあるかというと、「今が一番良い」と思う自分がいる。なぜなら、外見も内面も、こうでありたいと思う自分になれているからだ。

 

加齢万歳!!

 

 

ライタープロフィール

松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。東京都在住。

2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。

「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。

 

 

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