レモンイエローの約束
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:きんもくせい(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)
その日、私は締め切りにむけて朝からパソコンで記事を書いていました。目も肩も脳もすっかり疲れようやく一区切りつき、少し外に出ようといつもの散歩コースを歩いていました。これは、その時に出会った一輪の花の物語です。
真夏の高い気温が嘘のように涼しくなった9月の夕方、私は横を通り過ぎていく人々を、揺れながら眺めていました。仲間たちが咲きだすのは、梅雨が明け、日差しがキラキラと輝きだす7月です。なのに、何を勘違いしたのか、私は一人だけその時期に咲きそびれてしまいました。時期になると、仲間たちは一斉にレモンイエローの花を咲かせ、初夏の真っ青な空を背景に鮮やかな色彩を放ちます。けれども、いまは夏の終わり。暑さがひと段落して、少し涼しくなった夕方です。仲間の花は誰もおらず、風に揺れているのは私だけ。
「今日は、日曜日。明日はどんな一日になるかしら」
呟いてみても答えはどこからも戻ってきません。私は少し寂しくなりました。
「誰でもいいから、だれか私に気が付いて」
と小さい声で呟きながら、ゆらゆらと体を動かしていました。すると、
「気持ちよさそうだね。ぼくも一緒に遊びたいな」
と、どこからか明るい声が聞こえてきました。声のほうを見てみると、1匹のセミがいます。
「あら。あなたは?」
「ぼくは、見てのとおり夏のセミさ。今日は、とても涼しいね」
「ええ。でも、私、少し寂しいの」
「なぜ?」
「だって、今は仲間がいないから」
「それなら、君が仲間に会いに行ったらいい」
「どうやって?」
「少しだけ、飛んでみるといいよ。今日は、風があるし飛ぶにはちょうどいい」
と言って、セミは琥珀色に輝く粉を私の体にふりかけました。すると、不思議なことに、私の体は枝から離れて風に乗って動くではありませんか。
「そうそう。じょうずに飛べている」
風に揺れるだけだった私は、飛ぶことができるようになったのです。
「セミさんありがとう。私、仲間を探しに行ってくる」
「どういたしまして! 仲間に会えるといいね。行ってらっしゃい」
と明るく笑うと、セミはミンミンと鳴き始めました。
宛先もなく飛んでしばらくすると、今度はたくさんのトンボたちと出会いました。
「ねぇ、ねぇどこにいくの? もう日が沈むよ」
「そうそう、日が沈む」
「明日も、きっと晴れるよ」
「そうそう、晴れるよ」
先に話したトンボの言葉を、ほかの仲間が続けます。
「ねぇねぇ、どこにいくの?」
「どこに行くの?」
「行き先はわからないの。仲間に会いたくて」
「それなら、海まで飛ぶといい」
「そうそう、飛ぶといい」
「どうやって」
「夕日を目じるしにするんだよ」
「するんだよ」
と繰り返します。そして、赤トンボたちは一斉に透きとおる粉をあたり一面にふりまきました。すると、その粉は夕日を反射して柘榴色の一筋の光となったのです。
「この光をたどってごらん」
「たどってごらん」
「まぁ……トンボさんありがとう。私、仲間を探しに行ってくる」
「仲間にあえるといいね。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
と同じように繰り返しながら、とんぼたちは飛び続けました。
「なんて、素敵なの。みんな、とても親切ね」
と、私はすっかり嬉しくなって上機嫌で海まで飛び続けました。
すると、海岸で小さな女の子を見つけました。
「何をしているのかしら」
と見ていたら、しゃがんで遊んでいた女の子のスカートが波で濡れてしまいました。
お母さんは女の子の手を引き、波から離すと白い貝殻を一枚見つけて女の子に渡しました。
女の子はポケットにその貝殻を大事そうにしまいました。
私は一人で咲いていたことを思い出し、また寂しくなりました。
「やっぱり、仲間に会いたいな」
と思い、寄せては返す波に体を降ろしました。
波にのって、行ったり来たりしながら私は流れていきました。どれくらい時間がたったのでしょう。あたりはすっかり暗くなり、空には大きな月が出ています。
「お月様がとってもきれい」
月の光は黄金に輝き、海を明るく照らします。
私は、波に流されながら月を眺めて思い出しました。
明るい鳴き声で鳴く 琥珀色のセミ
仲間と一緒に飛ぶ 柘榴色のトンボ
お母さんと女の子が拾った 白い貝殻
どれも美しく、私の心の中できらきらと輝いていました。
けれども、私が一番会いたいレモンイエローはありません。
「今度はみんなと一緒に、真夏の空に咲きたいな。
どうしたらみんなと一緒に咲けるのかしら……」
と顔をあげました。すると……
黄金色に光っていたお月様がゆっくりとレモンイエローに輝きだしたのです。
それは、まるで真夏に咲く仲間達のようでした。
「あぁ、きれい……今度は、みんなと一緒に咲くからね」
私はやっとみんなに会えた気がして、秋の夜に輝くお月様と約束しました。そして、静かに眠りました。
散歩中に出会ったのは、花鶴が浜公園周辺で1輪だけ咲いていたハマボウです。本当なら、夏の盛りに一斉に咲く花なのに、その日はなぜか1輪だけ風に揺れていました。今度は、みんなと一緒に咲けるでしょうか。この場所でたくさんのハマボウと出会えますように。
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