「ち」でつながる昭和の名残
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:美濃部 康代(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)
「一体いくらかかると思ってるのよ!」
娘の部屋の扉を開いた瞬間に「ギョッ」とした。350ミリのペットボトルの数々が6畳の部屋に転がって床を覆いつくしている。確かに学校から帰る途中にペットボトル飲料を毎日のように買ってきては部屋に入る姿を見ていた。飲んだら捨てるは当然のことだと教えてきたつもりだし高校生がわからないはずはない。ゴミ袋に入れて置くならまだ許せるがゴミ屋敷のようでしつけができていない証のようでショックだった。
「バイト先で知り合った彼と長崎へ1泊で旅行したい」と18歳の娘のお年頃の願いを解らなくはない。今まで大きな我儘も言わずにいてくれたからとしぶしぶOKした。そして女性ならではの注意事項をいくつか伝えておいた。宿泊先も聞いたし旅館に着いたら無事の到着を知らせるものだと安心して許したが夕方過ぎても連絡がない。安否を確認したく直ぐに娘の携帯に電話を入れるとコソコソと小声で話す娘の様子に違和感があり何をしているのか聞くと彼の父親が駅まで迎えに来てくれて移動中の車内だと言う。とりあえず安心したが何故に二人での旅行に親が居るのか? と、かすかな疑問は安心とともにかき消され翌日、我が家に飛び込むようにしておみやげの湯煎ペイを差し出し「すいませんでした」と頭を下げる彼の姿。私の怒りは彼に向かう。未成年の娘を託した親の気持ちを何だと思っているのか! 成人した男なら親に連絡を入れるように促すのが誠意というものだ! 二度と二人の旅行は許さん! と瞬間湯沸かし器のように喝を入れる。
当然、娘にも同様に喝。既に娘に尻敷かれる彼には心配しかないのだが父親がいない我が家は必要な時に権威を示すのも重要な任務なのだと自負してきた。
私は仕事に明け暮れあまり子育てを上手にできたわけではない。保育園の延長保育はお馴染みで保育の先生の方が私といるよりずっと子どもの助けになるだろうと思っていたし子どもは喜んでいたと親の目線ではそう映っていた。
毒親だと言葉が飛び出したころには既に娘は家を出て社会人になっていた。
毒親の造語。誰が言い出したのか憎たらしくて仕方がない。それに乗っかり親をののしる子どもにも腹がたつ。絵に描いたようなドラマティックな家族関係を夢見てるんじゃないよ! 声を荒げて喧嘩した日々が懐かしい。いつまでも親のせいにするんじゃない! 嫌だと思うなら親を反面教師として生きたらいいだけの話だ。そう言い放つ私は悲しみと寂しさを覚えながらも反抗期を迎えた子育て現象に安堵した。複雑だ、親子って……。
お友達家族が増える時代のなかで私は20歳までには生活できる基盤をつくることが役目だと信じきって育てたことは娘にとっては窮屈で厳しかったのかも知れない。
喧嘩してもいつかきっと娘が母親になり子どもを育てる時期がくればきっと解ってくれるだろうと甘い期待を抱えて「いつかきっと……」と願うものの自然なカタチでの雪解けは来ないと気がついたこの頃。
4年前、25歳の娘の誕生日にメッセージカードを送った。数日後、所在不明の返還が届き驚いたが、同時に不安になり担当の郵便局に電話を入れた。「受け取り拒否」なのか「引っ越し」での返還なのかをただ確かめたかった。
お決まりのネット検索では「娘との疎遠」「関係の修復」「着信拒否」似たようなワードもググってみると、親の子育ての不適切さを叩くコメントばかりで面白くない。なかには心痛む反省するべきことも見つかるが、人様の状況はそれぞれだが、子どもとの距離感や家族の悩みは共通していることが発見だった。
私の母親は全盲で出産し子どもの存在を確かめるために手で探りながらたどり着く所作をしてきたのだろうが、乳児の私からはベタベタと皮膚に障る感覚が妙に落ち着かずに体内に残っている。おそらくそれは皮膚に接触されることを極端に嫌う私の特性に繋がるもので生まれて57年経過して判明した事実であり、わが子へ連鎖した触れ合いの少ない家族のはじまりだった。だからこそ家族の絆を目に見える確かなモノにしたかった私は娘には不幸を避けて欲しい願いが強い。
昔、助産師から教わった当時は30歳前位が子宮の状態と母体のこころの安定のバランスが良いのよ! との知見を私ならず娘にも同棲した時からさり気なく言い聞かせ「先ずは子どもが産めるような身体づくりを基本に不摂生をしない生活を心がけるように、年齢は27,8歳くらいが良い頃合いだよ」と付け加えることも忘れなかった。
今どきは少子化と騒がれるほどに子どもを産みたい女性は減少しているようで残念だ。
先日、ふとしたきっかけから公的な書類を取り寄せる用事があり役所へ出かけた。
そういえば今年の正月、娘婿から数年ぶりに電話が入ったことを思い出した。幼い子どもをあやす声が聞こえるが、スピーカーフォンで娘婿は一向に話をしない。5分経過しても変わらず酒に酔った気配もあり、今から風呂に入ろうという矢先であり「お元気そうで良かった」と半分怒りを感じながら私から切ったことを思い出し「戸籍の附票」を併せて申し込みをした。少し手が震えるようにドキドキしながら附票に視線を下すと、確かに娘家族の居所と孫の存在が載っていた。そして27歳で出産していたことも孫の生年月日から知ることができた。彼とは同棲を始めて結婚した今を含めて10年は経つのだから母としての私の想いを受け止めてくれたように想い嬉しくなった。会わなくてもまるで強い絆があるかのように大切なことは余韻として耳に響いてくるのかもしれないと思いたい。
わたしがそうだったように……。
ももちゃん、はじめまして。いつか、遭える時まで大切に胸に閉まっておくね。
「家族のひとりになってくれてありがとう」ってね……。
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