メディアグランプリ

大きな愛に気付かずにいた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:みずがめ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
突然の別れのようなものでした。あと10年は、ともに過ごす時間があると思っていたのです。それは、まだまだ「時間がある」だったし、「世話をしなければならない」といううんざりした義務感でもありました。
 
中学生の長女の話です。親離れは、二十歳前後だろうと思って、すっかり油断していました。それは彼女が中1の初夏、突然やってきたのです。
 
あの子が生まれて、20年は、一緒にいるもんだと思っていました。一人の時間は諦めようという、落胆と覚悟とともに。
 
ところが娘は、中学生になってすぐ、スマホ片手に、どこへでも行くようになりました。おしゃれな娘は、洋服も本も、一人で買いに行き、上手に好みに合ったものを見つけてきます。
 
生活のすべてが学校と友達優先になりました。合唱部に、青春のすべてをかけています。部活のない日は、トドの様に寝ているか、友達と買い物に行ってしまいます。お金がないからスタバで3時間しゃべってきた、と、上機嫌で帰って来て、またトドの様に寝ます。土日にキャンプに行こうよ、と誘っても、「たぶん部活だから、私はいいや。みんなで行ってきなよ」とあっさりふられてしまいます。
 
考えてみれば、極めて健全な成長過程です。自分の過去を振り返っても、中高生女子が、私たち中年夫婦や弟妹と一緒に休日を過ごすというなんてこと、あり得ないのです。
 
ほんの10年前は、滑り台も滑れないほどの怖がりだったのに。ちょっと私の姿が見えないと、泣きながら追いかけてきていたのに。一日中おっぱいで、夜中はずっと抱っこで、トイレにすらひとりで入れず、寝ても覚めてもずっと一緒で、早く一人になりたい、私はいつもそればかり考えていたのに。
 
私には、ずっと重かった。いつも繋がなければならない手。のしかかる体重。それ以上に、彼女が私に寄せる信頼と愛が、重かったのです。それよりも、彼女の全力の愛情が怖かった。
 
「私はそんなに頼られるような大人じゃない」という思いが、いつもありました。どうやら娘は私のことを「お母さんは、何でもできる人」と思っているようだけれど、私はカンペキからはほど遠い人間なのに。だって私、そもそも子どもなんてそんなに好きじゃなかった。私は、全部放り出して、一人になりたいんだもの。私は、家事も育児も苦手で、できないことだらけの人間だもの。
 
けれど娘はそんなことはお構いなしに、毎日毎日、「お母さん!」と抱き着いてきました。歩くときは手をつなぎ、知らない人がいたら後ろに隠れ……まるで、私さえいれば幸せで、何が起きても大丈夫かのように。
 
今振り返って思います。
 
何の根拠もなく、こんな私を愛し、信じる彼女の心こそが、「無償の愛」だったのではないでしょうか。
 
無償の愛は、親から子へと注がれるものだと聞くけれど、違う、子どもの、親に対する眼差しこそが無償の愛だったのではないか? 親から子よりも、子から親への愛の方が、無条件で、大きいのではないか? 娘は、私に報いることを求めてはいなかった。ただただ、私のことを大好きだよ、ということを、伝え続けてくれていたのです。
 
でも余裕のない新米母親の私は、彼女の気持ちのあまりの大きさに応えることもできず、罪悪感を抱いていました。それ以前に、受け取る資格がないという、思い込みもありました。
 
そもそも、愛される根拠についてなんて、考える必要はなかった。愛される資格の証明なんて、求められていなかった。そんなこと考えず、ただただ、彼女を抱っこしていればよかったのだ、と今では思います。
 
子どもはみんな、まねっこが上手です。体の使い方も言葉も、周りの年長者のことを、お手本だと思って、真似て習得していきます。それも、この世のすべてをすてきだな、いいものだな、と感じているから。そういう風に生まれてくる子どもという生き物は、愛され上手ではなく、愛し上手といえるでしょう。
 
だったらお母さんとして私は、難しいことを考えずに、ただ愛され上手になるだけでよかったのです。娘が小さいころに気付ければ、尚よかった。余裕があって、両想い時代を堪能できた母子を見ると、ちょっとうらやましく思います。でも私の周りは片思い母子が多く、それが大半の現実かもしれません。子どもからの大量の愛に、少し、苦しい思いをしてきました。もったいなかったな。
 
今、私の元を軽やかに離れて行こうとする娘を見て、今さら私は、彼女を支えたいと思い始めています。人生、これからが本番。進路を選び、努力を重ね、社会で生き抜いていく彼女には、たくさんの試練が待っています。「お母さんはカンペキ」ではないことも、いい加減ばれているはずですが、邪魔にならないように、束縛しないように、でも辛いときには寄りそえるような、そんな存在になれたら……。
 
子育て編・第二幕が始まり、知らず知らずのうちにたっぷりもらった愛情を、私から娘に注ぐ番が来たのかもしれません。すれ違いの片思いですが、そんなこと、どうでもいいのです。報われない、見返りを求めない、その愛の強さを、子どもたちから教わりました。

 
 
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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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