失敗は成功の親、「人を見て法を説く」の発見!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松田紗也加(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なに、ぬかしとるねん! 子供の使いやあるまいし、そんなことでいちいち出直せるか ちゅうねん!!」
「ひえぇぇぇ〜〜〜〜」
学卒で入社した金融機関の窓口で、私はよく怒鳴られていた。
印鑑証明証がいるのに「持ってへん」というから、「手続き出来ない」と、正当なことを言ってるのに、なんで怒鳴られるのか、訳がわからなかった。
そんなある日、上司から呼ばれた。
「窓口の仕事は、『相手を怒らせずに、自分の言い分を通す』ちゅうことを学んでもらわなあきません。怒らせても良かったら、自分の言い分を通すことは簡単です。逆に、相手の言いなりになって、必要な書類を省略して手続きするのも簡単です。けど、それでは業務が滅茶苦茶になります。あなたは、ボンボン自分の言い分だけを杓子定規に言うてるから、苦情が絶えません! 改めてください」と、言われた。
(そんなこと言うても、どうしたらいいかわからへんし……)
心の中ではふて腐れながらも、「はい。工夫してみます」と、口では返答していた。
けれど、その日から、仕事が益々憂鬱になった。
(どーせ、出来の悪い社員と思われてるし……)
どよ〜〜〜んとした気分で嫌々仕事をこなしていたが、少しして、退職してしまった。
それから数年後、一つのメルマガに目が止まった。
『人を見て法を説け』という、お釈迦様の言葉について書かれた記事だった。
お腹がペコペコの人に、食べ物を与えたら喜ばれますが、満腹の人に食べ物を差し出しても迷惑なだけです。どんな人にも、その人の状況に合わせなければ価値がありません。また伝え方も相手に合わせた内容でないと伝わりません。幼児に大学生レベルの話をしても相手はちんぷんかんぷんですね。人間関係の本の中で「こうしたら人は喜ぶ」というようなことがたくさん書かれていますが、それは一般論としては正しいですが、個別には該当しないケースもあります。大事なことは相手がどういう状況なのかを見抜く力が必要ですね。 というようなことが、書いてあった。
「相手がどういう状況なのか、見抜く力か……」
もう、ずっと前に忘れてしまっていた、上司に注意を受けたあの日のことが、フラシュバックのように甦った。
小学生の頃、親に連れられて、よく、お寺の石庭を見に行った。とにかく退屈で、私はさっぱり良さがわからなかった。「はよ、帰りたい」と思った。ところが、大学生になって、再びその石庭を訪れた時、何か語りかけてくるような気配を感じ、何時間も座り続けた。もっと大人になって、枯山水の庭園の意味を知って、それから訪れた時は、そこに込められた思いを深く感じ、様々な気づきが得らた。心も休まった。
世の中には、すぐにわかるものと、すぐにはわからないものがあるのだと思う。すぐにわからないものは、目には見えないけれど、紙一枚ずつ知らぬ間に積み重ねられていって、ある程度の厚みになった時に、フッとわかり出すのだ。
人生には、どんなにわかろうとあがいたところで、その時が来るまで、わからないものがあるのだ。そんなふうに思った。
それから、「相手を感じる」ということに興味を持つようになった。そういうアンテナを立てると、それにふさわしいものが惹きつけられて来る。心理学やコミュニケーション論などを学ぶ機会が現れた。
そこで発見したことは、物事は相対的だということだ。
例えば、真ん中にあるものは、下から見れば「上にある」と言うし、上から見れば「下にある」と言う。つまり、同じものが、その人の見る位置によって、下になったり、上になったり変化するのだ。同じものを見ていても、その人の立ち位置によって、感じ方が様々に変化すると言うことだ。
これがわかってから、自分とは異なった物の見方・感じ方を、愛でられるようになった。そうすると、応対も変わってくる。自然と相手に共感する言葉がまず出てくる。すると、不思議なことに、こちらの言い分が、無理しなくても通るのだ。
人生ってどこでどうなるかわからない。
あの若き日の失敗が、今こうして、人の相談にのるカウンセリングという職業に繋がったのだから。
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