シャンパンを突きつけられて気づいた、愛想笑いの弊害
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ニシモトユキ(ライティング・ゼミ朝コース)
昔から、人づき合いが苦手だった。
高校生の頃。
同じ塾に通う女友達と3人で、自転車で帰宅する場面がときどきあった。
他の2人は同じ部活で、2人がその話で盛り上がっているときや、話題に入れないとき、どうしていればいいか分からず、1人で自転車をぐんぐんこいだ。
「自転車こぐの速いよね!」
なんて言われたけれど、本当はたぶん、寂しかったのだ。
私も話に入りたい。
一緒に盛り上がりたい。
けれど、自分の気持ちを言葉にするすべを持っていなかった。
もっと言えば、自分から話題をふったり、話に入っていったり、そんなことができる器用さも持っていなかった。
大人になって、仕事に支障をきたす、みたいなことはなく、ちょっとはマシになった部分もあったけれど、依然として、人づき合いを「うまくやれてる」感覚はなかった。
「懇親会」みたいな場面になると、誰と、どんな話をしていいか、さじ加減がよく分からなかった。
周りに話を合わせようとしてみたり、相手がどんな話をしたいのか探ろうとしたり。
なんとかしようともがいてみたけど、それでも会話は盛り上がることはなかった。
うまく話せている感覚もないのに、ただただ消耗して、帰ると、どっと疲れを感じた。
そんなことが続くと、人づき合いも面倒になってくる。
気心の知れた親しい人と話したり、食事をする分にはいい。
けれど、勉強会のあとの懇親会や、仕事での立食パーティーなどは気が重く、行かずに済みそうなものは、徐々に行かなくなってしまっていた。
そんなとき。
1年くらい、一緒に仕事をしているデザイン会社のオフィスに行って打ち合わせをしていたときのこと。
いつも飲み物を出してくれるのだけど、暑かったこともあって、早々にソーダを飲み干した私に、社長が、
「何飲む?」
と。
「いえ、もういただいたので大丈夫ですよー」
と半ば反射的に、にこにこしながら答えた私に、
「シャンパンも冷えてるけど、どうする?」
……えっ?
一瞬、思考回路が停止。
えっと、今は打ち合わせ中だし、しかもシャンパンって……?!
確かに私は、お酒が好きだ。
特別な感じのする琥珀色のシャンパンも、もちろん大好きだ。
けれど、今は仕事中。
冗談か何かかと、
「いやそんな、シャンパンだなんて……笑」
と笑いながら濁す私に、社長は一瞬、真顔になって、
「どうしたい? 飲みたい?」
と潔く問いかけてきた。
もう、なんて答えるのが正解か、よく分からなくなって、でも、返事をしなきゃいけないし、思考停止したまま、
「…………飲みたい……です」
と本音がぽろり。
社長は、何かに満足したように、冷えたシャンパンとグラスをふたつ、抱えて戻ってきた。
どんな顔をすればいいか分からなくなりながら、シャンパンをひとくち。
そこに社長が、
「こうやってさ、一緒に仕事始めて1年くらいだよね。なんか、ちゃんとしよう、って自分を抑えてる感じがして。見てると、つまんなそうっていうか」
冷えたシャンパンを顔にかけられた、のかと一瞬思った。
それくらい、目が覚める感じがした。
確かにいつも、自分がどうしたいかじゃなくて、相手がどうしてほしいのか、何を求めているかばかり考えていた。
それが、「仕事」だと思っていた。
でも、ほんとは違ったのかもしれない。
相手に話を合わせる。
にこにこ頷きながら話を聞く。
それが、うまくやるコツだと思ってきたけど、大きな間違いだった。
「私はこっちが面白いと思う」
「絶対これを入れたほうがいいものになると思う!」
こうしたい、とか、これが大事とか、そういう自分の想いを出さないんだったら、私がやる理由が、意味が、ない。
誰がやってもいいことになってしまう。
そこからは、シャンパンを飲みながらの、社長からの即時ダメ出しタイム。
「今はいい顔してる」
「あー、またつまんない表情になった」
いかに自分が普段、自動的に愛想笑いしてるかが、浮き彫りになっていった。
ほっとくと、相手に合わせた自動応答モードになってしまう。
自分が本当はどう感じているか。
自分のそのままの反応はどうなのか。
そんなことすら、立ち止まって、自分の中を探ってみないと分からなくなってしまっていた。
ここから変わっていくのは、きっと大変だ。
ついつい自動応答モードに入ってしまうことも、しばらくは多いだろう。
けれど、私が私らしく働いていくために、間違いなく必要なことだ。
これからは、常に自分の中に、この問いを置いて過ごそう。
「私は今、どうしたい?」
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