メディアグランプリ

地獄から這い上がるために足を揉む


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記事:でこりよ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「イタイイタイイタイ……!!!」
2018年5月末日、あと一ヶ月で40歳という節目を目前としていた私は、左ふくらはぎを揉まれながら声にならない声をあげながら悶絶していた。正直いって、どんな表情で、何を叫び、もがいていたのか覚えていない。ただ、地獄から這い上がるために、必死で痛みに耐えたことだけは覚えている。
 
生涯を通して一生付き合っていくことが定められた自分の身体は、当然、生まれた時から「自分自身」だ。しかし、私たちは自分の身体の中身を、自分の目で直接確認することはできない。レントゲンやMRIなどの特別な機械を使わなければ、何が起こっているのか把握できないし、その映し出された映像を目にしたとしても、医者の力を借りなければ理解することもできない。
 
「自分のことなのに、自分じゃわからないなんて、なんて理不尽なんだ!」
原因不明の体調不良という地獄に突き落とされた私は、いつも心の中で叫んでいた。
 
問題が表面化したのは、36歳をすぎたいわゆるアラフォーと呼ばれる年代に突入した頃だった。突然、女性特有のバイオリズムに体と心が左右されるようになったのだ。踏ん張れないほどの脱力感、無気力感で身体のコントロールが効かなくなる期間が周期的にやってくる。おまけに偏頭痛という厄介なものまで引き連れて、定期的に私を襲うようになったのだ。「女に生まれたのだからしょうがない。そういうものなんだ」と何度も言い聞かせたが、それに争う自分もいた。結局、私はそのもう一人の自分の声に耳を傾け、改善に向かう方法を考えることにした。
 
薬に頼ったこともある。生活改善をしなければならないこともわかっている。「月経前症候群」という名称を振りかざして言い訳にしていたこともある。しかしそれで症状が変わるわけでもないし、根本的な改善策が見つかるわけでもない。私はそのわからない「何か」を探し求め、モヤモヤとした日々を過ごしていた。
 
この出口が見えない地獄に閉じ込められて早4年が経とうとしていた時、何か上から糸のようなものが垂れ下がってくるのを感じた。私はそれに気がつくと、とっさにパッとつかんだ。それが「官足法」と呼ばれる足をもむ施術法だった。Facebookで「官足法」に関する本を出版したという友達の友達であった前澤香苗さんの記事を目にしたのだ。私は糸を掴むかのようにその本『病気のサインは足裏で読む』を購入し読み始めた。足の反射区をもみ、滞った老廃物を細かく砕いて、血液やリンパに流し外に出す、というシンプルな考え方が私を魅了した。また、体の老廃物を溜め込まないようにセルフケアを中心に、年に何回か大掃除をするように、プロの施術を勧めているということも気に入った。つまり、自分自身で足から体の調子を知ることができる、という点に感激したのだ。私はすぐにケアに使用する専用の棒を手に入れ、見よう見まねで足を揉み始めることにした。
 
「おおお!」
思いがけず親指の内側面に激痛が走った。「ここは何の反射区なのか?」本を開くと「偏頭痛」と書いてある。もう騙されても良い。私はこの吊るされた糸をよじ登る決心を固めた。
 
早速、前澤さんが主催するワークショップに参加した。すると、私の足をみるなり彼女は「足の先が真っ赤ですね。頭に悪血が溜まって、下に上手く流れていませんね」と呟いた。私にはもう前澤さんがお釈迦にしか見えなかった。そして、私はワークショップが終わるなり、彼女に懇願した。「施術をお願いします」と。
 
一呼吸置いて「ものすごーく痛いですよ」と私の顔を覗き込むと、施術を受けたことのあるベテラン参加者の方が、「今日の非じゃないですよ。あれが1時間くらい続くんですよ!」と念押しする。それでも、私は地獄から這い上がれるのであればどんな痛みでも耐えます、と言わんばかりに「お願いします!」と力強く答えた。「わかりました。でも、本当に痛いですからね」とお釈迦様のお許しを得た私は、2週間後にさらに地獄に落とされるとも知らず、満面の笑みを浮かべて帰路に着いた。
 
2週間後、私は畳の間に敷かれたヨガマットの上に仰向けになって横たわっていた。「それでは始めますね」と前澤さんは私の股関節から揉み始めた。苦悶の表情を浮かべる私に対して「はい、痛いですよねー」と優しい言葉をかけながら、容赦無く揉みしだいていく。「我慢強いですね。初めてなのに、まったく逃げませんね」というありがたいお言葉に励まされて、何とか足裏を終えると、前澤さんは2つの瘤のようなものが付いた赤い棒に持ち替えた。「それではこれでふくらはぎを下から上にかけて5回揉み上げますね。頑張りましょう。せーの!いーち、にーい……」
 
想像を絶する苦痛、それを人は地獄と呼ぶのだろう。私の40年という人生の中で溜め込んだ老廃物が断末魔の叫びをあげてつぶされていく。私を地獄に突き落とした悪魔の張本人は老廃物だと確信した。私にとり憑いていた悪魔は、今ここで御釈迦様によって握りつぶされた。小一時間に渡った施術が終わった時、私は真っ当な人間になれたような気がした。
 
私の不調の改善策は老廃物を溜め込まず「巡り」を良くすること。ただそれだけだった。それがわかった今、また地獄へ舞い戻らないよう、私は今日も足を揉み続けている。

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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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