メディアグランプリ

裁縫ときょうこさん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:熊井 香織(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
久しぶりの休みだ。
一ヶ月ぶりの休みだった気がする。こんな時はゆっくり家で寝たいのだけれど、今日はママ友、「きょうこさん」との約束があった。前々から約束していた時は、だいたいその日になると、あー行くのがめんどくさくなってきたな、と思う時が多いけど、今回は違った。前々からやりたいと思っていたけど、億劫でほとんどできなかった「裁縫」をママ友である「きょうこさん」に教えてもらうのだ。
 
彼女は裁縫が得意だ。身に着けているほとんどの洋服が手作りで、もちろん子どもの服や小物など何でも作れてしまう。子どもを通わせている保育園が一緒で、彼女とはたまに会う程度だった。
きょうこさんの子どもが着ている服があまりに可愛くて、それってもしかして手作りなの? って話しかけたことがきっかけで、たわいもない話をするようになった。そうしていくうちに、彼女の身に着けているものがほとんど手作りなのだと気づいた。
たまに会う程度だったけれど、なぜかきょうこさんから休日の遊びの誘いが来るようになった。私は休日がないくらいがむしゃらに働いていたし、予定が合わずに何回か誘いを断ってしまった。それでもまた誘ってくれる彼女の存在がなんだか嬉しかった。
いつも素敵な服を着ている彼女。そしてそれをいとも簡単にこれ、手作りなのってさらっと答える。かっこいい!ある時は、「これ作ったの! みてーー!」と屈託のない子どもみたいな笑顔で話しかけてくる。
あれは2年前の保育園のクラス会。
「私、乳癌なんだ。レベル4なの」とみんなの前で言っていたことを思い出す。その時もさらっと告白していた。あの時は裁縫得意なんて知らなかったけど、そういえば私はあの頃から彼女と友達になりたかったのかもしれない。
私のほうが彼女の存在に興味を持っていたのに、私を誘ってくれるきょうこさんが不思議だった。
しかも私は、保育園のママ達とはほとんど会話をする時間がない。保育園に行くたびに、「世のお母さん達は私より子どもに優しい。子どもにきちんとつきあって本当にすごい!」と心から思う。そして子どもときちんと向き合えない自分に対して嫌になる瞬間でもある。
子どもを迎えに行ったあと、「まだ帰りたくない!」や、「〇〇ちゃんと一緒に帰る!」の子どもの訴えにつきあっているお母さんたち。私はというと、一刻も早く帰りたい。帰ったらあれもやってこれもやってと考えていたら時間がない。子どもの声はほとんどスルーして、「帰るよ!!」と園の門を出る。子どもが愚図って動かない時は、感情をむき出しにして怒ることもある。こんなに人前で感情を出すことなんて、子どもができるまでは考えられなかったし想像もしなかった。もしかして、私ってなんだか近寄りがたい怖いママって思われているのかもと密かに思っている。
でも、たまに会って話をするママ友はみんな私に優しい。きょうこさんもその一人。
私は、保育園へ行くたびに落ち込んでいるけれど、自分が思っているほど、他の人は私の行動を気にしていないのかもしれない。
きょうこさんからメールをもらったことがある。
「色々働いたり、子どもを連れて留学しているかおりさんを密かに尊敬している」
こんなメールが私の元に届いて心底驚いた。自分が認識している自分の像と、外から見える「私」の像は違っている。私が「ふつう」と思っていることも周りから見たら「ふつう」ではないらしい。
すごいね、できるやんと言われることが苦手な私でけれど、この時はちょっぴり心が温かくなった。
 
きょうこさんとのエピソードを思い出しながら、ミシンをあてていたらすぐにマスクと三角巾が出来上がった。早い。もうできてしまった。
来週あるクッキングに持参するため、絶対に必要だったから間に合ったことに安堵した。
自分だけで作ったエプロンと、教えてもらいながら作ったマスクと三角巾。出来が全く違う。でもこれはこれでよしとしよう思う。
 
机に置いてある、カラフルな布たち。どの布で何を作るか考える時間は純粋に楽しい。
どの布をベースにするか決め、ダダダダダっとミシンで布を縫い合わせていく。糸が一直線にならず曲がる、時には布から出そうになりながら前に進めていくと布と布が縫い合わさっていく。それを繰り返すうちに新しいものができあがる。
何を作ろうとしているのか、作っていくうちに姿形が見えてくる。最初は1枚のただの布。服、リュック、エプロン、何にでもなれる。子どもと一緒だなあなんて思いながら、ミシンで布を縫っていく。
子どもの未来も無限大だ。それにどんどん月日が経つごとにその子らしさが出てくる。形ができていく。
 
私は自分がモノづくりができないから、物を作り出せる人に憧れる。
さて、次は何をつくろうかな。

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2018-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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