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不調のサインは、お財布の緩み


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記事:山崎嘉那子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
最近なんか上手くいってないなぁ。
テンションが上がらないなぁ。
気づいたらため息ついちゃう。
 
そんな時、私は必ずあることをする。
そう、机の引き出しから、銀行口座の手帳を出して、近日のお金の行き所を調べる。
 
ほうほう。
今月は、洋服に2万!?
おお、思ったより使ってる。何だかんだアクセサリーとか、メイクとか靴にもお金使ってるなぁ。
 
やっぱりそうかぁ。
 
ひとしきりお金を何に使ったか確認し、私は一人で納得する。
そして来月のお財布のひもをぎゅっとしめる。
 
私は大概上手くいかないと感じる時は出費が多い。特にお洋服や、アクセサリー、カバン、メイク道具など、自分の見た目を飾るものに対してお金を使っている。
 
こんな私の癖が始まったのは、私が真っ黒焦げの水泳少女だった、中学生の頃からだ。
私は公立中学の水泳部に所属していたのだけれど、公立なので当然温水プールはなく、冬は毎日プールに入ることができなかった。そうするとやっぱり、どうしても夏と比べて冬はタイムが伸びにくい。だから私は冬が嫌いだった。
 
なんか上手くいかないなぁ、どうしたもんかなぁと思うのは決まっていつも冬だった。
 
そんなある日、衣替えをするときに冬服の量が他の季節と比べて2倍ほど多いことに気がついた。逆に、タイムが上がりやすい夏の本シーズンは、ほとんど服を買っていない。つまり水泳で上手く結果を出せているか、ということと、洋服の量が完全に相関関係にあったのだ。
 
これは世紀の大発見かも。
 
私は中学生ながらにそう思った。
 
その後も私のその傾向は変わらず、不調を感じると、見た目を飾るものが家に増えていった。高校時代は、習い事のミュージカルで上手くいかないとアクセサリーをよく買っていたし、大学時代は仕事で凹むと服や靴が増えた。
 
この自称世紀の大発見、一旦どんな法則があるというのか。
 
ストレスによる物欲の増加、と一言で片付けてしまえば簡単だ。でも、もっときちんと言葉にできるのではないだろうか。
 
そのヒントは私の大好きなエーリーッヒ・フロムが記してくれていた。残念ながら、というか、当然ながら、世紀の大発見などおこがましく、しがない水泳少女にとっての大発見は、フロムによってすでに言葉にされていた。
 
「人は自分の内の虚無を追い払うためにものを詰め込む。これが受動的な人間なのである。彼は自分がちっぽけだという不安を持ち、その不安を忘れようとして消費し、消費人(ホモ・コンスーメンス)となる」
 
つまり人は、自分自身の存在に満足ができない時に、何かを所有するという行為によって、自分の存在価値の向上を無意識的にか、意識的にか、はかるのではないか。とフロムは言っている。と私は解釈している。
 
このフロムの言葉を借りると、私の精神状態と行動の相関性は確かに説明がつく。何かが上手くいかないとき、私はすごく不安を感じるから。
 
私このままで大丈夫かな。
今の自分に納得できない!
もっと自分が頑張らないと。
 
そんな、自分に対する物足りなさ、を感じた時、私は洋服やメイク道具などがいつも以上に素敵に見える。
 
私はそれを買わないと!
 
と思う。普段なら見向きもしないショーウィンドーの前で足が止まったりする。
そうして物が増える。ものを買った時、私は一瞬満足して、不安から解放されるが、またすぐに不安は私の元に帰ってくる。とことこ、とことこ、と。
 
物を買うということは、ある意味ではとても簡単に自分の価値を上げる一つの手段なのだろう。だって、それは自分を変えなくても「持っている」だけでいいのだから。
お気に入りの可愛い服を着ている自分なら、ちょっとは自信がもてる。そういう意味で、フロムは「受動的」という言葉を使うのだ。
でも、多分「持っている」ことだけで自分の価値が上がらないことも、不安から解放されるわけではないことも、おそらくみんな気づいている。
だって、私はものを買うことで不安の根源を解決したわけではないから。
 
ヴィトンのバックを持っていても、大学に合格できるわけではないし、家族と仲良く暮らせるわけではないし、愛する人をきちんと愛せる訳ではない。
 
お財布の緩み
 
それはきっと私からのサインなんだ。今自分に対して不安を感じていて、でももっと成長したいという思いの表れでもあり、同時にちょっと疲れちゃっていて休みたいという時なのかもしれない。
そんなサインに対して、洋服やアクセサリーなどの絆創膏をペタペタ貼るのではなくて、どうしたの? なんかあった? 何かできることある? って、話しかけてあげたい。
 
だから私は、なんか上手くいかないなと思うと、お財布を確認して、その紐をぎゅっと締める。
そしてお腹に力を込めて、さぁここからが私の試されどきだな、と心の中で呟く。どうやって、ものに頼らずに自分に自信を取り戻すのか、を全力で考える。
お財布の緩み、きっと、それに気づけた時点で、私は変わるチャンスを手にしているんだ。そのチャンスを逃したくない。
 
お洋服も大好きだけど、私は裸の私も好きでありたいから。

 
 
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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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