そんなプロポーズでは結婚できない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:伊勢真紀子(ライティング・ゼミ 平日コース)
プロポーズ。それは生涯を共にしたい相手に結婚を申し出ること。(その後別れを選ぶ夫婦もいるが、ここではそういった問題は棚上げする)貴女は言われたらグッとくる理想のプロポーズの言葉ってあるだろうか?
「これからもずっと僕の隣にいてください」
「僕の妻になるのは、あなた以外考えられない」
「世界で一番君を愛している」
などといったところが、スタンダードなプロポーズの言葉だろうか。共通するのは、プロポーズする相手だけに向けられた言葉であるということ。
そんな当たり前のことを言うな、なんて言ってはいけない。世の中には「女だったら誰でもいいから結婚してくれ」と言わんばかりの人もいるのだ。これは何も結婚を焦る独身男性の話ではない。
私は現在、フリーランスの講師業の人に向けて自己PRの仕方をレクチャーする仕事をしている。そこで、受講者さんに「あなたのお仕事の対象は誰ですか?」と聞くのだが、大体において返ってくる答えは「子どもから大人」「主婦」。よくて「30代の女性」である。えらくざっくりだ。ざっくり過ぎる。仮に街中で「おーい、主婦!」と呼びかけて、振り向く人がいるだろうか。おそらく誰も自分のこととは思わずに通り過ぎるだろう。
ところが、そういう受講者さんに限って「あなたは『女だったら誰でもいいから結婚してくれ』と言われて、結婚しますか?」と尋ねると、ふんっと笑って首を横に振る。「なぜですか?」と畳みかけると、「だってぇ」と笑いだす。人は誰でも「貴女だけ」と言われるのが好きなのだ。「誰でもいいから」と言われたいなんて人はおそらくいない。それなのに、「あなたが言っていることは、『女だったら誰でもいいから』と同じなんですよ」と言うと、今度は鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。おいおい! と突っ込みたくなる。自分へのプロポーズは「貴女だけ」と言ってほしいのに、自分のビジネスとなると「女だったら誰でも」と言ってしまうこの矛盾。
個人事業では、提供するサービスの対象を絞りに絞りまくるのが鉄則だ。巷にあふれるトイレットペーパーや歯磨き粉と言った日用品、生活必需品なら対象を絞らなくても売れる。ただし、その先に待っているのは価格競争という非情な現実だ。私を含め、フリーランスの講師は価格競争を仕掛けるわけにはいかない。価格を不当に安くしてしまうと、費やした自分の時間や労力の割には売り上げが上がらないという事態に陥ってしまうからだ。例えば英会話のレッスンを1時間500円で設定したとしよう。破格の料金のため、生徒は殺到するかもしれない。しかし、1日8時間働いても4000円にしかならない。それで講師としての腕を磨きながら、毎日のレッスンもこなしていけるだろうか。おそらく現実問題として不可能だろう。
先ほど日用品、生活必需品なら対象を絞らなくても売れると書いたが、日用品、生活必需品だってきちんと対象を絞れば価格競争に巻き込まれなくて済む。そのいい例が「鼻セレブ」という高級ティッシュペーパーだ。保湿性の高さを謳い、普通のティッシュペーパーの数倍の価格でありながら、花粉症の時期には飛ぶように売れている。
だからこそ、対象を絞りに絞って、その方に正当な価格でサービスを買っていただくことが重要なのだが、そのあたりをいくら口を酸っぱくして言っても、「だってぇ」と言われてしまう。絞ることが怖いのだ。その気持ちはよくわかる。しかし、絞らないとお客様は振り向いてくれないのだ。
「メインのターゲットは30代女性ですが、できれば20代から50代にも来てほしいんです」という受講者さん。何度も言うが、それは「女だったら誰でもいい」とプロポーズしているのと同じ。本気で講師業をやっていこうと思うのなら、ここは一つ真剣に「プロポーズ」してほしい。
ビジネスは結婚と同じで、「貴女だけ」と言わないとサービスを買ってはもらえない。ただし、結婚と違って「重婚」は可能である。むしろ「重婚」していかないとビジネスとしては成立しない。このことを忘れないでほしい。
「貴女だけ」と言ったサービスを何人もの方に買ってもらってこそ、ビジネスと言えるのだ。さぁ、思い切って対象を絞り、殺し文句でプロポーズをしてみよう。
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