彼女の知ってるクローゼット
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:卯月そら(ライティング・ゼミ日曜コース)
「実は、卯月様に着ていただきたいブラウスがあるんですよ」
ここは、とあるブランドの青山本店。年に何度か訪れる、心躍る場所だ。
バーゲンで店内を見て回っていた私に、担当のお姉さんが微笑みながら声をかけた。
ここは、私が社会人になってからずっと愛用しているブランドだ。でも、ブラウス1枚が恐ろしく高くて、おいそれと買えるものではない。それでも、着ていると気分がぐっと上がるアイテムなので、バーゲンやボーナスのたびに少しずつ買い足している。
福岡に住んでいるときは、デパートで買っていた。よく行くデパートの中に売り場があったからだ。
エレベータで上がっていくと3階のすぐ脇に、華やかでかっこいいブラウスがずらりとディスプレイされている。かっこよすぎてなんだか入りづらいくらいだ。
だから、バーゲンの時期に人ごみに紛れてブラウスをいくつもチェックして、気に入ったものを試着して購入した。
でも、この頃の私は外出のない社内勤務で、会社ではいつも制服だった。だから、このおしゃれなブラウスが登場する場面はなかなかなかった。
ワインを飲めるちょっと敷居の高い店での食事会くらいにしか出番がなかったのだ。
しかしそのうち、東京に出張する機会が多くなった。そして、社外の人と打ち合わせを行うようになった。もちろん私服でだ。
この時から私は、かっこいいブラウスに、かっこいいスーツを着てバリバリ仕事ができるようになってたくさん東京出張できるようになりたいと思うようになっていた。
そして……。
意に反して私は東京転勤となった。転勤ではなく、出張くらいでちょうどよかったんだけど。ちょっと東京を楽しむくらいでよかったのに……だ。
東京に転勤すると、私は外出してお客様と打ち合わせをする仕事になった。もちろん私服で、いろんな企業に訪問する。男性のようにスーツさえ着ていればどこでもOKというわけではない。着る服は重要だ。私のイメージを左右する。
ついに、やってきたのだ。このお気に入りのブランドのブラウスが本領を発揮する時が。
それでも東京に来てからしばらくは、会社近くのデパートの売り場でそのブラウスを購入していた。東京では、いろいろな場所にそのショップはあったし、少し足を延ばせばアウトレットもあった。そこここで、私は少しずつブラウスを買い足していった。
そんなある日、表参道で買い物をしながらぶらぶらしていると、角を曲がった先に見慣れたブランドの看板が目に留まった。あ、ここってもしかして本店?
近くまで行ってみると確かにそうだ。
入りたい。でも、お客さんが誰もいない……。敷居が高すぎる。
ああ、でもどうしても入りたい。この本店に。
それにこんな格好で大丈夫なのか。
ふと、着ていた服をみた。なんと、身に付けていたのはたまたまそのブランドのチュニックではないか。私がこのブランドで持っている唯一の遊び着だ。
やった、これで大手をふってこの本店にはいれる。
私はドキドキしながら、ガラスの思い扉を開いた。
「いらっしゃいませ~。うちの服を着ていただいてありがとうございます」
このチュニックのおかげで、出だしは好感触だ。
しかし、私のような一見さんの相手をしてくれるのは、店に入って間もないであろう新人さんだ。でも、あまりにベテランだとこちらも気が引けるので、新人さんくらいが気が楽でちょうどいい。
その新人のお姉さんは、私のために一生懸命洋服を選んでくれた。私の試着したいというブラウスに合うスカートを探してきてくれたり、私に似合いそうなブラウスを自ら提案してくれたりした。
さすが本店だ。デパートの売り場とは明らかに品揃えが違う。私がデパートでは見たこともないカジュアルラインや紳士もの、そして入荷したばかりのスーツもある。
私は、お客さんが少ないのをいいことに相当数を試着させてもらい、アドバイスももらって入荷したばかりのスーツを購入した。
大満足だ。
本店で買い物できるなんて、東京転勤も悪くなかった。そう思えた1日だった。
そしてそれから、ショップから何かお知らせがあるたびに青山本店に足を運んだ。
そして、ステップアップしてベテランになっていく担当のお姉さんにアドバイスを受けながら、だんだんと私のクローゼットが出来上がっていった。
ある日、白いブラウスを試着した時にアドバイスされた。
「お持ちのネイビーのカーディガンを合わせると、しまりますよ」と。
「あれ、私そんなの持ってたかな?」 全然、思い出せなかった。自分のクローゼットの中身なのに。
帰って、クローゼットを確認すると、すごい!
言われた通りネイビーのカーディガンがある。そういえばずいぶん前に購入していたんだった。
そしていつの間にか、私のクローゼットの中は、2週間は毎日違うものを着ていけるくらいのブラウスで埋まっていた。
今日は、どのブラウスにしよう。金融系の企業だからかっちりした感じにしようかな。
こうして毎日、このきれいなラインのブラウスを着て仕事できるなんて。
仕事をしていると嫌なことはたくさんある。
けれど、気分を上げてくれるクローゼットの扉を開けてブラウスを選ぶたびに、私は今日も頑張ろうと思う。
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