メディアグランプリ

あるゴールキーパーから学ぶ仕事の極意


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記事:米田 直弘(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ナイスキーパー! 今日は調子いいな!!」
戻ってきたディフェンスのチームメートが声をかける。
 
「確かに今日は自然と体が動くなぁ」とつぶやきながらコーナーキックに備えて指示を出す。
 
中学高校とサッカー部だった僕のポジションはゴールキーパーだった。中学の時に地区の選抜候補に選ばれるレベルで大したものではなかった。それでもたまにゾーンに入る日はあった。なんとなく事前にシュートコースが分かり、考える前に体が勝手に動く感覚があるのだ。その時はほぼすべてのシュートを止めることができた。度合いもあるが、本当にハマる時は半年に1回あるかないかくらいだったが。
 
 
スポーツや制作活動をしたことがある人は経験したことがあると思う。俗にいう「ゾーンに入る」というやつだろう。その瞬間は余計なことを考えず、過度に緊張も集中もせず、本当に自然体でいつもよりも高パフォーマンスを発揮できる状態。
 
しかし結局どのような時に「ゾーンに入る」ことができるのかを突き止めることができなかった。というか、突き止めようとしなかったというのが正しい表現だろう。「今日は調子がいい」という一言で済ませてしまっていた。
 
そしてゾーンに入っている試合は、なぜか終盤にミスをするのだ。攻撃するフォワードやミッドフィルダーなら「ドンマイ」で済むのだが、僕のポジションはキーパーなのだ。2018年ロシアワールドカップでの川島選手ではないが、ミスが失点に直結するポジションなのだ。場合によってはそれが敗因となる。大きな大会ではそのミス一つで取り返しのつかないことになるのだ。
 
 
ところで『学習の4段階』ということを聞いたことはあるだろうか。簡単に説明すると、
 
1.無意識的不能:できないことさえ分からない
2.意識的不能:できないことを認識している
3.意識的可能:意識すればできる
4.無意識的可能:特に意識しないでもできる
 
 
キーパーをしていた自分は、普段2と3を行き来している状態だった。まれに「ゾーン状態」のときは4だったのだろう。しかし意識しないでもできる状態でミスをするということは、本当の意味での無意識的可能レベルではなく、まだまだ練習や経験が足りなかったのだろう。
 
 
仕事も同じではないかと思う。最初はできなかったことも徐々にできるようになり、創意工夫をしていく。その過程がとても楽しいのだが、そのうち慣れてくると惰性で済ませてしまうことはないだろうか。特にルーチンワークやテンプレートを活用する場合などはその傾向が強く、意識しなくてもできるように錯覚する。
 
しかしどこかのタイミングで大きなミスをしたり、誰かに教えたりが出来なかったりした経験があなたにもないだろうか。僕にはある。
 
以前、注文住宅の営業の仕事をしていた時、完成してあとは住宅ローンを実行して決済をするだけというタイミングでとある問題が起きたのだ。詳細は伏せておくが、一度承認された住宅ローンが実行できない状態になりかけたのだ。幸い金融機関の担当者がとても協力的な人でどうにかなったが、お役所的な担当者だったらどうなっていただろか。最悪は家が完成したのに住宅ローンが実行できず、お客様は入居できず、会社には数千万円の損害を与えるとことだった。
 
住宅ローンは非常に慎重に進めなければいけないものなのに、いつの間にか慣れてしまい、いつもの手順といつもの説明を繰り返せばよいと心のどこかで思ってしまっていたのだろう。この件があった後、それまで以上に気を配り連絡を密にして対応するようにした。その結果お客様からの信頼と評価は上がり、ご紹介をいただけることも増えていった。
 
 
好事魔多しとはよく言ったものだ。しかし本当に的を射た表現だと思う。特に意識しなくてもできるようになったものほど当てはまる。でもそれはある種の啓示なのかもしれない。もっとやれることがあるのにやっていない。さらに良くなるのにやらない。その罰が下るのだ。またはその仕事は早く後任に引き継いで、自分は新しいことにチャレンジせよということなのかもしれない。
 
 
僕は自分ができること得意なことは自分でやりたいと思ってしまうし、その方が評価されやすいと思っている節がある。しかし新しいチャレンジをしなくなった時に成長は止まってしまう。今後はその事実を肝に銘じていきたい。
 
もし今の仕事を振り返って「特に意識をしなくてもできる仕事」になっているものを洗い出してみてはいかがだろうか。そして改めて意識しながら、さらに改善できることはないか、または誰かにその仕事を引き継いで、自分は新しいことにチャレンジしてみようと考えてみてはいかがだろうか。
 
意識せずに自然にできる(と思っている)ことは、あえて意識的に行わないとどこかのタイミングで大きなミスを犯したり、成長が止まり気づいた時には取り返しがつかない状態になるかもしれないのだから。

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2018-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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